第10回防災まちづくり大賞(平成17年度)

【消防科学総合センター理事長賞】モデルルームを活用した家具類の転倒・落下防止対策の推進

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白鬚東地区自治会連合会
(東京都墨田区)

事例の概要

■経緯

  • 1.2,100世帯を有する白鬚東地区防災団地は、昭和53年に東京都が大震災時に予想される市街地火災に対する防火壁とし、又約10万人の避難者を受け入れる防災拠点として建設された。
  • 2.地域特性から、当団地における住民の防災意識は非常に高く、特に白鬚東地区自治会連合会(以下、「連合会」という。)は、平成15年2月27日の防災会議において、「住民の防災行動力の向上」「墨田区地域防災計画の住民周知」「高齢者世帯等災害時要援護者の実態調査(家族構成及び緊急連絡先等)及び災害弱者サポート隊(災害時及び平常時の支援を目的とした自治会独自の隣保共助体制)の任務内容の確立」「家具類の転倒・落下防止対策(以下、「転倒防止対策」という。)の推進」の4つを、連合会の防災対策の骨子と定め積極的に取り組んでいる。
  • 3.転倒防止対策を最優先、最重要課題として取り組み、平成16年10月23日には阪神・淡路大地震を教訓とした転倒防止対策ビデオ(連合会自主制作)を活用した視聴覚教養と震災対策に係る防災講演等を実施するなど、地域住民に対する転倒防止対策の啓発等、連合会役員が一丸となって積極的に取り組んだ。
  • 4.平成17年1月15日、向島消防署の助言により「社団法人日本ドウ・イット・ユアセルフ(DIY)協会」よりアドバイザーを招き、連合会役員40名を対象に、向島消防署墨田出張所で転倒防止器具の取付け及び「ガラス飛散防止フィルム貼付」等の実技指導講習会を開催し、役員の住民指導能力を養成し、転倒防止対策推進キャンペーンのステップアップを図った。
  • 5.重要課題であった実際の家具類を活用したモデルルームの開設による転倒防止対策推進キャンペーンを計画し、積極的に東京都住宅供給公社に申し入れをおこなったところ団地内の空室の確保が承諾された。向島消防署と相談し、平成17年3月25日、白鬚東地区自治会連合会主催で東京都住宅供給公社の空室を活用した転倒防止対策モデルルームを開設し、防災団地内の住民及び区内外の住民にも積極的にモデルルームの見学を呼びかけ、転倒防止対策の必要性を訴えた。

■内容

  • 1.主催等
    (主催)白鬚東地区自治会連合会
    (後援)向島消防署、東京都住宅供給公社、墨田区、東京都葛飾福祉工場
  • 2.実施期間等
    • (1)開設期間等
      平成17年3月25日(金)から3月31日(木)まで
      (平日)15:00~20:00
      (土・日)11:00~16:00
      ※開設期間以降、多くの都民からの問い合わせ及び新聞社の取材等が続き、4月22日(金)まで開設期間を延長し転倒防止対策の必要性を広くアピールした。
    • (2)見学者対応
      実技指導講習会を修了し、知識・技術を取得した連合会役員40名が主体となって見学者に対する説明を積極的に行った。
  • 3.開設場所
    墨田区堤通二丁目8番16号16号棟1階ユ10号室(3DK)
  • 4.家具転倒防止モデルルームの内容
    • (1)室内被害展示室
      副題「悲惨!もし家具類の転倒防止をしていなかったら」を明示し、新潟中越地震規模の地震を想定したバーチャルリアリテイな被害想定室を創作した。想定は地震が発生し、家具類が転倒、就寝中の居住者に襲いかかったリアルな状況を再現し、見学者に怖さとインパクトを与え転倒防止対策の必要性を訴えた。
    • (2)家具転倒防止展示室
      副題「あなた自身とあなたの大切な家族を守ろう!」を明示し、家具、テレビ,冷蔵庫等を室内に配置し、L字金具、ベルト式・ポール式等の各種転倒防止金具等を取付け個々にコメントでポイントを具体的に説明した。向島消防署から借用した転倒防止対策啓発用ビデオはエレンドレスの放映を行い、積極的に転倒防止対策を啓発した。

■効果

  • (1)東京新聞、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、防災情報新聞、ほのお(財団法人全国消防協会編集)各紙に掲載され、また、地元のさくらケーブルテレビでも放映された。
  • (2)見学者は墨田区長、都議会・区議会議員、区内外の都民、近隣県からの熱心な見学者を含め,延ベ2,000人を超えるほどの反響があった。
  • (3)アンケートには135名(13.5%)の回答があり、すべての回答者が参考になったと答えている。また、今後の対策については、102名(75%)が是非検討したいと答えており、また、他の地区にもモデルルームの開設等の要望も多く、同じ墨田区の八広地域では7月23日、24日に廃校となった小学校を活用し、転倒防止モデルルームを開設する等(351人参加)地域の住民に対し転倒防止対策を進める大きな第一歩となった。
  • (4)墨田区は平成17年10月から年間事業として高齢者等の世帯に対し、転倒防止対策として1世帯一律12,000円の助成を計画している。今回のモデルルームには墨田区長をはじめ区議会議員、関係部署の区幹部職員も見学しており、比較的安価なL字金具等を主体とした家具類の転倒防止対策であれば、施工に係る人件費(シルバー人材派遣等を活用した場合は、概ね1人5,000円)を含めても、助成金枠内での対策も十分可能であることを検証しており、墨田区は、今後、助成金申請者に対し、検証結果を積極的にフィードバックしていく予定である。
  • (5)町会等の転倒防止対策の動向として、自治会独自の助成金制度や災害弱者サポート隊による器具の取り付け、町会等が転倒防止対策器具類の価格調査を行い購入を募る等、モデルルーム開設による啓発効果が顕著に認められている。

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モデルルーム内の状況(説明は団地役員)

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室内被害展示

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転倒防止器具の展示

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パネル展示

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家具転倒防止設置

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転倒防止金具のコメント

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家具転倒防止キャンペーン実技講習

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家具転倒防止キャンペーン実技講習

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苦労した点

  • 1.家具類の転倒防止対策を推進する上で、最優先課題は白鬚東地区防災団地内でのモデルルームの開設であり、連合会役員が東京都住宅供給公社に対し再三にわたり家具転倒防止対策の必要性を訴え、モデルルームとして使用する空室の借用について要望した。しかし、賃貸住宅室内の壁等に釘やネジで穴をあける等の行為は、東京都住宅供給公社が本来、居住者に禁止していることであり、各戸の家具類の転倒防止対策を認めることにより、補修費等の費用負担が増加することを理由に承諾されなかった。しかし、連合会役員の粘り強い説得と、具体的な転倒防止対策の施行方法等の説明により、平成17年2月1日、住宅供給公社神田支社白鬚出張所から空室の借用と、家具類の転倒防止対策モデルルーム開設が承諾された。
  • 2.住民に転倒防止対策を普及促進するうえで、特に問題となったのは対策に必要な経費ができるだけ安価であることが大前提であった。市販の転倒防止器具の中には高価なものもあり、費用負担を軽減し、住民が転倒防止対策に容易に取り組むことができるようモデルルームにはL字金具、強度のある荷造り紐等を応用したベルト式器具、百円ショップで販売されている器具等を取り入れた。
  • 3.準備期間は3月5日(土)から開設日前日まで要し、多岐にわたる任務分担を綿密に検討した。連合会は不要家具類の搬入及び独自のチラシの作成、消防署と協力し管内町会・自治会への見学依頼文の配付、モデルルームのレイアウトの設定、啓発用ビデオの設置、被害展示室の設置、各金具等の使用ポイントの明示、アンケート作成、看板類の作成、家具類への各種転倒防止金具の取付けを行い、墨田区役所は区内の町会・自治会長へFAX送信によりモデルルーム見学を呼びかけた。
  • 4.モデルルーム開設期間中の見学者対応は連合会の役員が担った為、拘束時間等が長く、相当負担となったが、見学者との防災に対する共通認識を持つことができた。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 重川希志依(富士常葉大学環境防災学部教授))

 白鬚防災拠点として今から30年近く前に建設された当団地は,入居者はもとより地域住民からも通称「防災団地」と呼ばれている。延長約1kmにわたる団地群は,建物自体が延焼遮断体としての機能を果たすことを目的として,耐震性と延焼遮断効果を高めるための様々な設備が備えられており,また敷地と一体となった河川公園は東京都の広域避難場所として指定されており,10万人の避難場所となっている。現地調査に行くまでは,どちらかというとハード面での施設整備が先行しており,そこに居住する住民の防災意識やソフト面での防災対策が立ち遅れているのではないかとの印象を持っていた。しかし現地調査により,施設整備のレベル以上に住民の防災意識が高く非常に熱心に活動を継続していることに驚いた。とりわけ10万人の避難者を受け入れるために自分たちは何をすべきであるかを常に考えながら,自らが被災者とならないために住居内の落下物・倒壊物防止対策の推進や,周辺地域の町内会に呼びかけ合同で防災訓練を実施したり,1000食の炊き出し訓練を行うなど,様々な活動に取り組んでいる。
 今回の受賞では団地内にモデルルームをつくり,地震時に家財道具が転倒するとどのような状況になるかを実際に見学してもらう試みが評価されたが,きっかけとなったのは地元消防署が開催したガラス飛散防止フィルムの講習会であった。それ以外にも自分たちでできることはないかと考えた末に,家具の転倒防止対策を団地内で進めていくこととなり,団地を管理している東京都に幾度も働きかけをし,空き室をモデルルームとして使用することが可能となった。またモデルルームのセッティングや説明も住民が主体となって行ったが,そこには住民の防災活動を後方支援する消防署の積極的な協力が大きな役割を果している。

団体概要

東白鬚第一マンション自治会:110世帯
白鬚東第二自治会:78世帯
堤通二丁目3・4自治会:285世帯
白鬚東水神自治会:270世帯
堤通自治会:427世帯
梅若橋自治会:200世帯
白鬚東第一自治会:540世帯
コーシャハイム白鬚東自治会:190世帯
合計:2,099世帯
※数字は平成17年8月1日現在

実施期間

平成15年2月27日~