第9回防災まちづくり大賞(平成16年度)

【消防庁長官賞】特定非営利活動法人新潟県災害救援機構が構築した防災情報通信システム

【消防庁長官賞】特定非営利活動法人新潟県災害救援機構が構築した防災情報通信システム

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特定非営利活動法人新潟県災害救援機構
(新潟県上越市)

事例の概要

■内容

 活動は昭和50年から始まった。当時はボランティアという言葉にも馴染みがなく、活動のよりどころを赤十字の奉仕団組織に求め、地域のイベントでの応急手当や災害時の情報収集など常に行政との連携を大切にし活動を展開してきた。
 通信手段はアマチュア無線であったが、他人からの依頼による通信は禁止されていて、行事の救護活動をしていても、そのためにアマチュア無線を使用できないという法律の規制があり、法に抵触しないように通信内容に注意を払いながら運用をしてきた。
 阪神・淡路大震災を機に、「防災機関と交信のできる無線免許を下さい」と信越電波監理局(現信越総合通信局)へ相談を持ちかけたが、活動には理解を示していただいたものの、法人格の無い団体への免許は困難とのことであった。
 その後、平成7年に上越地方を襲った7.11水害や平成9年のナホトカ号重油流失事故でも支援活動を実践した。
 特定非営利活動促進法が制定され、私たちもNPO法人を立ち上げ、上越市と防災協力協定を結ぶなど防災関係団体としての役割を明確にし、再び信越総合通信局を訪れた。その結果、全国初の防災相互通信無線局免許を受けることができた。
 これまで防災行政と連携した活動や上越市との防災救援協定などが評価され、その結果2つの無線局の免許を受けた。一つは日頃活動するための業務用無線局で移動範囲も広く、出力もこのクラスの無線局としては高出力のものである。もう一つは、私たちが全国どこへ行っても防災機関と直接交信ができる「防災相互通信無線局」の免許である。「防災相互通信無線局」はNPO法人として全国初の免許を受けたもので、防災機関に情報を提供したり情報の共有化を図ることができる。
 上越市では多目的施設として市民プラザを開設し、そこに防災市民活動の拠点となる機能を持たせた無線室を設置している。その無線システムは通称「防災波」と呼ばれる無線で、地元の上越消防本部や国土交通省、赤十字との通信も何度か行われ、防災関係機関への支援の即応性が格段に改善され、有効性が証明された。

【ポケベルと携帯電話メールの駆使】
 通信環境がめまぐるしく変遷する中で、災害時に素早く情報を提供するシステムを構築した。インターネットの環境下にある会員は50%以下という現状で、採用したのがポケベルを全会員に配置することであった。これもNPO法人としては全国で初めての導入となった。地域の災害や各地の大きな災害発生時には昼夜を問わずポケベルで情報配信を行っている。この配信は会員が誰でも一般加入電話あるいは携帯電話やインターネットを経由して行うことができる。
 最近は、これと平行して、携帯電話のメールでも情報の配信を行っている。このためにインターネットで独自ドメインを取得しメールの一斉配信を可能にした他、ホームページも開設している。
また、活動拠点である市民プラザ無線室の電話回線も「災害時優先電話」となっている。

【MCA陸上移動通信無線局の運用】
 活動用業務無線機で通信をカバーできないときのために、広域型のマルチチャンネル方式と呼ばれるMCA無線システムに加入している。これによって、新潟県の7割と長野県の北部を通信可能範囲とした。この無線局の運用も災害NPO法人として他に使用例がない。

【アマチュア無線の見直し】
 携帯電話は災害時に使用不能となってしまうことを経験した。また、インターネットでの情報収集も接続不能に陥る。そのため、アマチュア無線を見直し、短波帯での運用を主力に再構築した。短波帯は、全国各地はもとより、外国とも通話が可能で、FAXや静止画像を送受することも可能である。また、移動中の車輌からも運用可能であるため、全国どこにいても基地局のある市民プラザと交信ができる。このように、あらゆる場面を想定した通信システムが構築され、日頃の活動を支えている。

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防災無線システム

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無線室全景

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全会員に配置のポケベル

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訓練通信

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防災備蓄庫

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子どもたちと炊き出し訓練

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無線機の保管

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救助訓練

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防災訓練での炊き出し指導

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通信訓練

苦労した点

 この事業は無線通信とポケベル、メールなどを総合的に組み合わせたシステムであるが、特に防災相互通信用無線局の免許取得には活動を理解してもらうために多くの時間を費やした。
私たちの活動プログラムは上越市が管理する市民プラザの施設と附随した一部資機材と、財団法人電気通信振興会からの助成で備えたポケベルを除き、すべて独力で構築したものである。やはり資金不足が最大の課題である。
 活動がマンネリ化しないようにしたり、特定の会員に負担がかからないようにする工夫も欠かせない。
行政とのパートナーシップを活動の柱に据えているが、そうした中でもNPO法人としての独自性を失わないように取り組んでいる。
 平成15年まで私たちとパートナーを組んでいた行政の窓口は福祉ボランティア担当であったが、ようやく防災安全課に所管が移り、防災まちづくりの議論がかみ合うようになった。

特徴

  • 1.昭和50年から始められた本活動は29年間継続され、常に斬新な企画を取り入れている。
  • 2.押し売りボランティアにならず、常に行政との連携を重視している。
  • 3.5月に行われる上越市の高田城趾マラソンから10月の新井市のこしひかりマラソンまで、ほとんどの休日をイベントの応急手当や大会支援に費やし、11月以降は会員のスキルアップのための研修に充てている。
  • 4.応急手当、通信技術、炊き出しと3拍子揃った小さな法人であるが、活動の内容は全国屈指である。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 下河内 司(総務省消防庁防災課長))

 この団体の拠点は、上越市の市民プラザ(郊外型のスパーマーケットが移転した後を、PFI方式で市民団体の活動拠点にされているものです)にあり、災害時に24時間使えるように、入り口では他の入居団体とは別のセキュリティシステムが導入されています。また、倉庫には、救助用の資機材、炊き出し用の鍋、非常用食料などがストックされているほか、酸素吸入装置や人工呼吸器、血液ガス測定器、携帯吸引機等を備えた「救護車両」(消防本部で使っていた救急車を払い下げてもらったもので、緊急通行車両の許可も取っておられます)を2台持っておられます。こういうと、大変有利な条件の下で活動しておられるように思われるかもしれませんが、実は昭和50年7月から赤十字奉仕団として地道な活動を続けられ、いつも真っ先に被災地に駆けつけるという意気込みで無線を活用して実際に支援活動を行ってきておられました。そうした取り組みが、ようやく、上越市との間の「上越市地域防災計画に基づく災害支援に関する協力協定」、さらにはNPO化しての全国初の防災相互通信無線局免許取得に結びついたのです。
 災害時には、ポケベルと携帯メールを使って会員に連絡されて現地に直行されており、昨年の新潟県中越地震時にも、すぐさま10月23日の夜半から24日未明にかけて、小千谷市に行かれて、無線通信を駆使しての救護車での患者さんの医療搬送、ヘリコプターの誘導などを行っておられます。
 日頃からの活動の基本は、「安心して住めるまちづくり」に置いておられ、会員の皆さんは、雪解けを待って、市内各地区の防災訓練での炊き出しや応急処置などに参加されており、市長さんを始め市民の皆さんの信頼を集めておられます。この無線と安心のまちづくりのネットワークが広がっていくことを大いに期待したいと思います。

団体概要

  • ・団体設立の経緯:災害救援の活動は、NPO法人になる前の昭和50年から実践し、真っ先に被災地に駆けつけ困っている人の力になりたい、そんな願いを持って活動に取り組んでいる。平成12年1月にNPO法人災害支援ネットワーク上越を結成したが、全県的な災害救援ボランティアの養成と育成や支部の設置などを目指し、平成16年に新潟県災害救援機構と改称し、災害支援ネットワーク上越は同機構の支部となった。
  • ・会員数及び会員職業:現在の会員数は100名で、会員の職業を見ると電気関係、住宅設備関係、土木関係、電子機器関係、プロドライバー、保健師、看護師、保育士、調理師、消防官、言語聴覚士、施設相談員、介護支援専門員、精神保健福祉士、養護教諭など実に様々である。
  • ・団体所有車輌:救急車仕様の「救護車輌」を2台配備しており、この車輌には「酸素吸入装置」、「人工呼吸器」、「血液ガス測定器」、「携帯吸引機」などが備え付けられている。
  • ・団体活動内容:災害支援ネットワーク上越の活動内容としては以下のとおりである。

【災害時】

  • 1.真っ先に被災地におもむき、応急手当を実施する。
  • 2.炊き出しを実施し、人々を恐怖や不安から守る。
  • 3.災害の情報を収集し、速やかに関係機関に提供する。

【平常時】

  • 1.地域のイベントを支援し、安全確保のサポートする。
  • 2.防災や安全に関する様々な講習や訓練を自主防災組織や防災ボランティアの養成などへ積極的に出前指導する。

実施期間

 昭和50年~(平成12年にNPO法人を設立し事業継続)