第4回防災まちづくり大賞(平成11年度)

【消防庁長官賞】「災害時に使う外国人のための日本語」マニュアル(全国版・コミュニティ版)

【消防庁長官賞】「災害時に使う外国人のための日本語」マニュアル(全国版・コミュニティ版)

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「災害時の日本語」研究グループ(東京都)及び弘前大学人文学部国語学研究室(青森県)

事例の概要

■経緯

 阪神・淡路大震災は、日本における外国人対策の不十分さを認識させた。外国人被災者の多くは日本語も英語も十分に理解できない人たちであり、そのような人たちを情報弱者にさせないための方策をどうするかを考える必要があった。そこで、日本語に不慣れな外国人住民に緊急性の高い情報をどう伝えるかの調査を社会言語学や日本語教育学を専門とする言語研究者が集まって行った。
 本事例は、日本語にも英語にも不慣れな外国人住民が、より適切な行動をとれるようにする情報の提供方法についてマニュアルとしてまとめたもので(「災害時に使う外国人のための日本語」マニュアル(全国版))、実際に弘前市で地域独自のものを作成し、市に提案した(「災害時に使う外国人のための日本語」マニュアル(コミュニティ版))。

■内容

  • (1)全国版
     緊急時に、複数の言語で情報の提供を行うことは不可能である。日本に住むほとんどの外国人居住者に理解してもらえる言語は、わかりやすい日本語での表現である。普通の日本語ニュースは難しすぎてわからないが、買い物をしたり、バスに乗ったりできる程度の日本語を使えば、十分に理解できる外国人が多数生活している。私たちは、ボランティア団体が立ち上がるまでの3日間の情報を、やさしい日本語で伝えていくことを提案した。
     まず、マニュアルの使い手を「ラジオ放送担当者、テレビの字幕スーパー担当者」「行政関係者、特に外国人担当者及び防災担当者、あるいは防災無線担当者」「外国人の支援にあたるボランティア団体」と想定した。マニュアルでは、被災後3日間に必要とされる情報の種類を時間軸にそって示した。「外国人だけに必要な情報」以外に、「日本人と同じように必要な情報」や「日本人にとって常識でも、外国人には気付きにくい情報」も含めている。また、具体的な案文の作り方についても詳述した。巻末にはCDでの音声サンプルも添付しており、実際にラジオやテレビで流すことも可能にした。
  • (2)コミュニティ版
     全国版をもとに、やさしい日本語の具体的な活用方法を探るべく、実際に弘前市においてコミュニティ版を作成し、市に提案した。コミュニティ版では、緊急時にすぐ活用できる、やさしい日本語を使ったビラやポスターを作成したり、ビラやポスターで情報をよりわかりやすく伝えるためのイラストを作成した。また、弘前市の避難所の場所や外国語の通じる病院の位置、国際電話のかけられる公衆電話の設置場所などの地域情報を盛り込んだ地図をやさしい日本語で作成し、これらの情報をまとめたリストも作成した。
     さらに、やさしい日本語の情報を被災者(日本人、外国人問わず)に確実に伝えるための、新しい情報提供システムを考えた。災害時、市民に身近な施設が被災者と災害対策本部の間で情報の中継地点となるシステムで、市役所、警察署、消防本部などの情報が集まりやすい施設を情報ステーション、郵便局、駅、コンビニエンスストアなどの市民が立ち寄りやすい施設を簡易情報ステーションとして提案した。

■その他

  •  全国版では、やさしい日本語を用いて災害時情報の聴解実験結果も掲載している。それによると、日本語に不慣れな外国人にとても有効であることが検証された。

    • (1)外国人のための日本語案文を用いると、現行のNHKニュースを聞いたときよりも、理解率は29%から91%へと著しく高くなった。
    • (2)外国人のための日本語案文は、日本語初級後半から中級前半程度の外国人でも、理解をすることが可能であった。

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災害がおこった時に外国人を助けるためのマニュアル(弘前版)3巻セット

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災害時に使う外国人のための日本語案分とオーディオCD

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掲示物見本(逃げてください)

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掲示物見本(火事に注意してください)

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掲示物見本(電話)

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掲示物見本(水)

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避難所の地図

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情報ステーションの地図

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簡易情報ステーションの地図

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検証結果

苦労・成功のポイント

 日本人には当たり前でも日本語初級者にとってはわかりにくい表現の言い替え((例)避難所→逃げるところ、給水車→水をはこぶ車、など)に苦労した。
 また、このマニュアルは対象(外国人)と使い手(日本人)が違うので、両者の意見を十分に取り入れ、作成した。その際、外国人被災者対策の必要性を訴えたことで、防災意識を高めることができた。

成果・展望

 全国版の作成により、災害研究者や防災担当者が扱いきれなかった外国人向けの緊急情報の与え方を示すことができた。
 また、コミュニティ版の作成により、外国人のための地域に密着した防災システムの基盤ができた。
 なお、新聞・テレビ・ラジオなどで紹介され、全国から問合せが殺到し、同様のマニュアルを作りたいという意見をたくさんいただき、随時発送している。要請があれば、マニュアルの説明会も行っている。今後は、ホームページを作成して広く全国に紹介する予定である(近日公開予定)。

  • ~全国版~
    • 実施期間
    •  1995年~1999年
    • 事業費
    •  約120万円
    • 団体の概要
    •  研究会幹事:佐藤 和之(弘前大学)、江川  清(国立国語研究所)、米田 正人(国立国語研究所)、
             真田 真治(大阪大学)の4名
       日本語表現作成者中心メンバー:
             松田 陽子(神戸商科大学)、水野 義道(京都工芸繊維大学)
  • ~コミュニティ版~
    • 実施期間
    •  1996年~1999年
    • 事業費
    •  400~500万円
    • 団体の概要
    •  弘前大学人文学部国語学研究室学生:23名