第13回防災まちづくり大賞(平成20年度)

【消防科学総合センター理事長賞】FMラジオを活用した防災情報提供システムの開発と四万十市における運用実験

消防科学総合センター理事長賞
(防災情報部門)

FMラジオを活用した防災情報提供システムの開発と四万十市における運用実験

高知工業高等専門学校
(高知県南国市)

事例の概要

■経緯

 近年、毎年のように全国各地で豪雨災害が起こっており、災害時における避難勧告等の確実な情報伝達手段の整備が早急な課題となっている。また、気象庁、国土交通省、各自治体の雨量や河川水位等の防災情報は徐々に整備されつつあり、インターネットや携帯電話を使ってホームページにアクセスすれば、リアルタイムで情報を知ることができる一方で、高齢者の多い中山間地域においては防災無線が設置されていない自治体や携帯電話が使用できない地域も多くある。このような背景から、低コストで、かつ一般に情報弱者と言われる子供や高齢者でも不自由なく利用可能な防災情報伝達手段として、災害時に最も有効利用される市販のFMラジオに着目し、高度な知識や設備が無くても雨量や河川水位をはじめとするローカルな防災情報や避難情報を「いつでも、誰にでも」容易に取得できる伝達手法を開発した。

■内容

 本システム(右図を参照)は、気象庁、国土交通省、各自治体の雨量や河川水位情報を自動でダウンロードし、文章化した後に音声変換を行い、インターネット回線および特定小電力無線、FMトランスミッターを用いて、ミニFM電波として家庭用FMラジオに送信する方式をとっている。本システムの有効性を検証する実証実験として、平成17年に甚大な洪水被害を受けた高知県四万十市川登地区において、平成19年6月から10月末まで本格的な運用実験でシステムの実用性の検証を行い、高知高専、地域住民、自治体と連携して行ったミニ防災ワークショップ等の開催を通じて、地域防災力の向上を図った。運用実験の結果、本システムと地区の浸水想定図を記載した防災カレンダーの活用によって、事前の避難準備が可能になったことが明らかとなった。

FM防災ラジオシステムの情報中継局

FM防災ラジオシステムの活用方法に関する地区説明会

防災行政無線の横に掲示された浸水想定マップ

ラジオでの受信状況(地区内の中学校職員室)

図-1 FM防災ラジオシステムの概要図

出水後の聞き取り調査

FM防災ラジオシステムの活用方法に関する説明の様子

地区住民に配布した浸水想定マップ (防災カレンダー)

四万十川沿川住民への洪水防災シンポジウム

出水後の聞き取り調査

苦労した点

  • 1 「低コストであること」、「末端機器を家庭用ラジオとすること」の2点をシステム開発のコンセプトとした。その結果、非常にシンプルな情報配信システムとなっている。
  • 2 ミニFMは受信可能範囲が数十メートルと小さいため、小規模集落を想定した1~2キロメートルとするために、特定小電力を中継局として用いることとした。
  • 3 比較的規模の小さい地区(住民が100名程度)であったが、本システムの活用方法についての周知に時間と労力を要した。地区長、地区防災会と連携し、ワークショップの開催や防災カレンダーの配布を通して、地域防災力の強化を図った。

特徴

  • 1 本システムは、免許申請が不要のミニFMを用い、特定小電力無線を中継局として利用することで、類似のシステムに比べて非常に低コストで、かつ小規模集落を網羅できる半径約1kmの地区を受信範囲として、各地区で必要な異なる情報を配信することが可能である。
  • 2 システムの運用だけでなく、過去の災害データをまとめた地区内の浸水想定図を防災カレンダーとして住民に配布し、定期的にワークショップを開催して、住民の理解を深めるとともに防災力の向上を図った。
  • 3 本システムは、他の情報配信設備(防災無線等)との連携も技術的には可能であることから、住民への情報伝達の末端機器として家庭用ラジオを用いることも可能。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 福嶋 司(東京農工大学農学部教授))

 急峻な地形と集中豪雨が発生する我が国では、河川の増水による洪水被害が後を絶たない。この表彰は、山間部に生活する情報弱者に対してリアルタイムで水害予知情報を提供することを目指したシステム開発とその利用体制構築の成果に贈られたものである。豪雨や増水の情報は、関係機関のHPにインターネットや携帯電話でアクセスすることで入手できる。しかし、少ない観測地点、長い配信時間間隔、山間部での携帯電話の不通、高齢者のIT不慣れなどの問題がある。これらの解決に真正面から取り組んだのが高知工業高等専門学校の岡田将治氏を中心とする開発グループである。岡田氏らは機関のHPから必要な情報を集め、それを読み取りソフトで音声変換した後、ミニFMで放送し、FMラジオで受信するというシステムを構築した。これにより、リアルタイムで災害予知情報を得ることが可能になった。岡田氏らは試作システムを2006年6月から頻繁に洪水に襲われる四万十市川登地区で試験運用した。活動はシステム運用だけにとどまらず、地盤高コンターから得られた浸水想定図作成、川登地点水位と浸水深の関係図の作成によって危険性を地域住民に説明した。また、何度もワークショップを開いて危険性の認識とシステムの運用について意見を出し合い、検討を重ねた。2007年には、サーバーの設置場所の変更、ミニFMと特定小電力無線を組み合わせた中央局の設置、安定した電力源の確保、緊急割り込み放送の実施体制など改善を図ると共に、FM放送からの情報が届かない人への対応などのシステムと機能を高める改善を行っている。今後、このシステムの改善については、法的な部分での確認が必要であるとのことであるが、岡田氏は、このシステムが今回の水害を起こす水量の変化情報にとどまらず、土砂災害などにその力を発揮するものと期待している。そして、このシステムの将来について、「地域の人が欲しい情報をその地域へ伝え、IT技術がなくても利用できるこのシステムがきっかけになって、情報があっても届かない、IT技術があっても使えない人へ正確な情報が広がるようになることを期待したい」と抱負を語った。情報弱者の多い地域にリアルタイムで情報を伝えることのできるこの取り組みは重要であり、類似する環境にある多くの地域に対して模範となる取り組みである。また、研究者の研究成果が実際の防災対策に生かされた画期的な例であり、これらの点は高く評価されるものである。

団体概要

 高知工業高等専門学校環境都市デザイン工学科では、環境・防災・建築等の幅広い専門分野の基礎を5年間の一貫教育により学ぶことができ、実践的で想像力豊かな技術者の育成を目指している。岡田研究室(教員1名、学生5名)では、河川水理や河川環境、豪雨を対象とした防災に関する調査・研究を国土交通省、高知県、自治体等と連携して進めている。受賞したFM防災ラジオシステムは、小規模集落を対象として低コストで設置可能なことから、来年度、既に四国・九州地方の数カ所において試験運用が計画されており、今後も継続した活動を行うこととしている。

実施期間

平成17年6月~