第11回防災まちづくり大賞(平成18年度)

【消防庁長官賞】目指せ市民の防災意識向上!木造住宅耐震診断ボランティア活動

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千葉県立市川工業高等学校
建築科耐震研究班(千葉県市川市)

事例の概要

■内容

 地盤の良くない市川市で、建築科3年生の生徒たちが、更に一歩踏み込んだ学習で木造住宅耐震診断の地域貢献活動をしている。また、市民公開講座や、床下・天井裏も点検する実地調査、耐震補強の公開実験、講演会等で市民の防災意識向上を積極的に働きかけている。

■活動のポイント

教科書になくても、実践的学習で耐震診断ボランティア活動を実践(H15年~)。

  • ・ 生徒主体の市民公開講座(7回目)で地震倒壊の不安を解消!補強工事の実例有り。
  • ・ 市川市建築指導課、建築学会、建築士会、大学と連携し、耐震壁の耐力実験や全国的なシンポジウムでの研究発表、市主催の防災講演会(4回目)で危険な事例報告など、耐震補強の普及を図る活動を展開。
  • ・ 市内の自治会との連携で「町内まるごと耐震診断」。積極的な啓発活動を行う(H16年2月)
  • ・ 地域の信頼できる大工さんのネットワークづくりを目指す「公開実験」(H15年~、2回目)。
  • ・ 特色ある学習活動を他校へも拡げる専門教員研修会を開催(H15年8月)。建築防災教育のネットワークが誕生!平成18年度は、群馬県立藤岡工高、都立葛西工高、都立田無工高の仲間が耐震診断ボランティアを行った。
  • ・ 参加生徒の一人一人が住宅の耐震補強の必要性を認識し、使命感を抱きつつ楽しく学習している。

※なお、本校の耐震診断は、有資格者による「一般診断」に有用なデータを提供することを前提に、相談者には学習活動の一環として実施していることを明示し、危険な物件は公的相談窓口を紹介している。

■これまでの経韓と今後の計画

 平成15年4月より八島信良氏(日大理工学部非常動講師・工博)の全面的な指導助言のもとに始まった。学習は、建築科3年の「実習(2単位)」「課題研究(3単位)」において「耐震研究班」の生徒〔H18年度、9名〕を中心に実施し、平成18年度は4年目になる。耐震学習は、実験等を重視し理念等の理解を図っている。以下は平成17年度の例である。

 基礎理論(4月中旬)→模擬実験(5月)→実験施設・現場見学(5月17・18日)→公開実験→校外発表(6月19日)→市民公開講座(8月2・23日)→実地調査(9月~10月中旬)→報告書作成

 今年度、大工さん対象の「耐震壁の公開実験」(H18年5月17~21日、日大共催)の開催や、市民公開講座(H19年7月21・22日、都立田無工高7名・県教職員12名も参加)で9件を診断した。
 10月15日(日)には、鎌ヶ谷市内の木造2階建てアパートで実大実験(日大と共催)を行った。
 12月22~31日には、ネパール国カトマンズに第4次技術ボランティア隊を派遣した。世界危機遺産の実地調査にあわせて、防災上非常に危険度の高い市街地の現状調査を行った。

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北側国土交通大臣に励まされる第1回耐震補強フォーラム

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たくさんの取材を受けた地元教会の耐震調査

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生徒が活躍した第4回耐震補強フォーラム

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専門家からの助言を得た全国会議

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地域へ情報発信耐震講演会

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危険箇所を発見した実地調査

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地域の技術者・大学と連携 木造2階建てアパートの実大実験

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「町内まるごと耐震診断」全員で症例検討会

苦労した点

 耐震診断活動はこれまでの学習を生かせる内容であるが、建築科の教科書にまとまった記述がなく、また、どこの学校も手がけていなかった。毎回、手作りの教材やミニ実験、見学などを組み合わせ理解を図った。近隣地域は、江戸川の河口域に発達した市街地で、昭和40年代の木造住宅も残っており、危険度は「赤」である。しかし、無料耐震診断の案内にも反応が薄く、参加者数は多いとは言えない。また、非常時の避難施設となる本校の職員も、その対応を真剣に考えている方は少ないのが現状である。耐震研究班の生徒たちの、心からの声に耳を傾けてもらえるよう、アピールの機会や方法をさらに工夫改善していこうと計画している。
 ところで、市内に耐震偽装問題の当該事務所があったため、問い合わせも受けたが、生徒は、逆に、建築士の責任や耐展診断・耐震補強の重要性について深く考えるようになった。

特徴

平成18年度までに、60名の生徒が参加し、訓練を調査することができた。

  • ・ 専門(建築)を学習する生徒たちが主体となって活動。特に「町内会」の方々はこころよく胸を貸してくださり、学習活動に声援を送ってもらっている。
  • ・ 市川市の建築指導課の方々との連携で、毎年、研究発表の場を提供していただいている。
  • ・ 実習予算はないが、近隣の科学博物館や大学、工務店、設計事務所の方々から、機会あるごとに助言や資材提供を受けている。まさに、関係の皆さんのボランティア精神に支えられている。
  • ・ 平成17年度から、地域に貢献する本校の学習活動(建築防災教育+地域貢献活動)をさらに他校でも実践してもらおうと呼びかけ、平成18年度は4校であったが、平成19年度は9校以上に拡がる予定である。

委員のコメント【防災まちづくり大賞選定委員 高野 公男(東北芸術工科大学デザイン工学部教授)】

 市川工業高校(千葉県市川市)は、平成15年度から文部科学省の「目指せスペシャリスト・3ヶ年事業」を導入し、木造住宅耐震診断の実践教育を推進してきた。市民向けの公開講座、地域の大工・工務店向け耐震実験などを実施し、実地の耐震診断も数多く行っている。製図室を訪れると生徒たちが一級建築士の使うソフトを使って耐震診断シミュレーションを行っていた。実は私も一級建築士なのだが、正直言って高校生がここまでやれるとは思わなかった。
 日本の建築技術は、超高層建築や高気密高断熱住宅などの先端技術の開発に力点が置かれ、伝統的な木造工法の技術に対する研究は等閑視されてきたように思える。阪神淡路大震災より住宅の耐震化が大きな社会的課題になっているのも、このような住宅政策の立ち後れを物語っている。あまたの建築家や建築士、工務店などの職業団体、さらには大学の研究者や建築指導行政を差し置いて、耐震診断に高校生が大活躍するというのは、何とも情けない話だ。それにしても、市川工業高校の実践活動は技術的課題を的確にとらえ、良くやっていると思う。まずは、問題意識や技術者マインドを持った工業高校の指導教員やサポートする技術者、真摯に取り組む高校生たちに敬意を表したい。木造住宅の診断技術は全国の工業高校に広まりつつあるという。市川工業高校の実践は、地震国である日本の建築技術教育のあり方に一石を投じたのではないだろうか。今後の展開に期待したい。

団体概要

  • ・ 千葉県立市川工業高等学校 建築科
    第3学年生徒 課題研究「耐震研究班」:9名(2クラス)
    第2学年生徒 総合的な学習「防災研究班」:5名
    教諭:2名
    ボランティア講師:1名

※3年生が中心的に活動しているが、「町内まるごと耐震診断」や大きな実験、公開講座、校外括動には、2年生も事前学習を兼ね参加している。

実施期間

平成15年~