第7回防災まちづくり大賞(平成14年度)

【消防科学総合センター理事長賞】小学校「総合的な学習の時間」における防災教育の取り組み

【消防科学総合センター理事長賞】小学校「総合的な学習の時間」における防災教育の取り組み

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横須賀市立衣笠小学校(神奈川県横須賀市)

事例の概要

■経緯

 衣笠小学校では、平成13年度に学校校舎耐震工事が行われた。1学期末の猛暑の中、教室はフェンスに覆われ、埃にまみれ、大きな音に悩まされた。どうしてこのような不便なことに見舞われるのか疑問に思ったところから、「総合的な学習の時間」の中の防火教育として「衣笠災害サバイバル隊」の活動が始まった。「総合的な学習の時間」とは、子ども達が自らの力で、自らの課題を追求していき、「生きる力」を身につける学習のことである。その学習の時間を使って命や思いやりの大切さを学び、生きることの意味について考える子ども達になってほしいと考え、子ども達と様々な活動に取り組んできた。(5年生~6年生の2年間の取組(6年3組の活動))

■内容

  • 1.災害や防災についての調べ学習、身近な人への防災に関するアンケートなど、自分たちが疑問に思うことを資料で調べ、自分たちなりにまとめた。また、この時、我が家の防災についても調べて作文にまとめ、家族にこの学習の意味について意識を高めてもらうように協力を求めた。さらに、防災に関するTVのビデオを持ってくる子もいて、とても参考になった。
  • 2.調べ学習をしているうちに、実際にお話を伺う方がより具体的に災害のことがわかるという意見が出て、以下の3人の方にお願いして教室で話を聞いた。3人の方のお話を通して、自分の身は自分で守ることの大切さを十分に感じたようである。
    • (1) 新潟沖地震を体験したA先生のご主人の体験談
    • (2) 横須賀市防災課職員による防災一般の話
    • (3) 阪神・淡路大地震の取材をされた新聞記者の方の体験談
  • 3.防災課の方から頂いたアルファ米と共に乾パンの試食を行い、いざというときに備えての準備の必要性を学んだ。
  • 4.非常食体験から持ち出し袋の中身のことに子ども達の意識が高まったので、袋にどんなものを入れたらよいかという授業を保護者の参観日に行った。先に非常持ち出し袋について調べ学習をした子どもがいたので、それを参考にした。この時点ではクラスの4分の1ぐらいしか袋を用意していなかったが、授業後作ったという報告を何件か聞くことができた。
  • 5.衣笠小では、毎年6年生が避難訓練の後に起震車体験をさせてもらっている。それを知っている子ども達(当時5年生)が、この学習のために早めに体験したいと消防署にお願いし、特別に来ていただいて起震車及び煙体験をさせてもらった。この時には、同学年の他のクラスにも声をかけ、防災体験の大切さを訴えた。
  • 6.平成14年4月になって、横須賀市民防災センター「あんしんかん」がオープンしたので、早速出かけ体験してきた。横須賀市の災害に対する備えのすばらしさにふれ、自分たちにも出来ることは何かを改めて考えてみるよい機会となった。
  • 7.紙芝居、出前授業、新聞、ポスターセッション、ホームページ、パンフレットなど、自分たちで考えた方法で、これまで収集した情報を幼稚園生からお年寄りまで理解してもらえるように工夫して発信した。
  • 8.各自、非常持ち出し袋を用意して、体育館に一泊の避難生活を体験した。同学年、保護者にも呼びかけ、70人の宿泊体験を行った。当日は全て子どもたちの進行によるものであった。

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学校避難生活体験

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学校避難生活体験

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非常食の試食

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サバイバル隊授業風景

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簡易トイレの組立

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学習成果の発表

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発表準備

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学習成果の展示

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学習成果の展示

苦労した点

 「総合的な学習の時間」の取り組みの中に防災教育の視点を取り入れたので、この学習を立ち上げる時に、子どもたちとの話し合いの時間を十分に取った。防災に対する自分の思いを明確にもたせることがこの学習において最重要ととらえた。子どもたちにとって、防災が観念的なものにならないように、それぞれの課題に加えて、煙体験などの様々な共通体験も取り入れるようにした。

特徴

 「総合的な学習の時間」に防災教育の視点を取り入れ、子どもたち自らが災害への思いを持ち、進んで課題解決に取り組んだ。この活動を通して、命の大切さや普段からの心がけの必要性、そして助け合う心の重要性について学ぶことができた。また、普段から防災のために多くの人が携わっている現実に触れ、自分たちにはこの町のためにいったい何ができるのだろうかという視点が育ってきつつある。自分達の課題意識が明確になっていたからこそ、長期にわたる取り組みができたと思われる。

委員のコメント (防災まちづくり大賞選定委員 重川希志依(富士常葉大学環境防災学部助教授))

 6年生の総合的学習の時間で「命の大切さ、生きることの大切さ、仲間の大切さ」を子どもたちに考えさせるために防災をテーマに選び、100時間にわたる授業を展開してきた。教師の考えを押しつけるのではなく、子どもたちが自分で選んだテーマ・自分で始めた学習という自覚を持たなければ、単に教師の学習で終わってしまう。そうならないために、5年生の時に1年間かけて新潟地震を体験した教師の話を聞いたり阪神・淡路大震災の体験談や地元の防災倉庫見学をするなど、防災というテーマを選ぶまでの過程で子どもたちに十分考える時間をとらせたことが、良い成果を生む原動力となっているようだ。6年生では今までに学んだ情報を、今度は自分たちが人のためにどう生かしていくかを中心に授業を展開している。学校での宿泊訓練では、災害時には我慢しなければならないことがある、皆で一緒に生きていられることの幸せ、事前に備えておく事の大切さなどを身をもって理解した。命の重さ、人や地域の大切さなど、今子どもたちに最も教えたい事を考えさせるために「防災」というテーマを選んで本当に良かったというのが担当の先生の感想であり、防災教育・生きることの教育は総合的学習のテーマとして大変優れたテーマであることを改めて実感した。

団体概要

 衣笠小学校6年3組:児童35人

実施期間

 平成13年~平成14年