第8回防災まちづくり大賞(平成15年度)

【消防科学総合センター理事長賞】「災害・緊急時の簡単料理あらかると」の発刊

【消防科学総合センター理事長賞】「災害・緊急時の簡単料理あらかると」の発刊

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社団法人富山県栄養士会 地域活動栄養士協議会 (富山県富山市)

事例の概要

■経緯

 富山県栄養士会では、阪神・淡路大震災の発生をきっかけに、災害時に備え栄養士として何ができるかを考えることとし、平成9年から「非常災害時の食事」をテーマに研究を始めた。

 災害時の食は、単に命をつなぐだけではなく、精神的なバックアップ・救援復興活動等の重労働を行う際のエネルギー補給、疲労回復等のために多彩なものが要求される。特に被災者の食事については、年齢や体調に合わせた配慮が必要と思われるが、公的な備蓄に多い乾パンは、のどの通りや連続して供されることを考えた場合、必ずしも十分とは言えないため、個人備蓄は絶対に必要であるとの認識を強く持った。

 そこで、どこの家庭でも備蓄しておくと便利な食材を選定し、それらを使って高齢者・乳幼児・体調不良の場合にも配慮した災害時の簡単調理メニューを工夫して広く紹介すれば、より多くの人々に備えと自助の意識を持ってもらえるのではないかと考え、冊子「簡単料理あらかると」の作成に取り組み、平成12年に5千部を発刊するに至った。

■内容

  • 1.食材の選び出し

     身近にある食材(家庭での常備食品)で、①できるだけ調理に手間がかからないもの、②災害時に不足しがちな野菜やいも類が摂れ、栄養が確保できるものに重点を置いて選定した。
  • 2.メニューの考案、試作及び決定

     水、電気、ガス等の供給が十分でない場合の調理を前提にメニュー案を作成し、順次試作した。また、市販の炊飯袋を使って、白いご飯だけでなく混ぜご飯の試作にも取り組んだ。
  • 3.まとめ

     メニューは主食系から缶詰まで系列ごとに整理して、100品目以上を掲載することとした。また、巻末には食料品ごとの備蓄食品の保存期間のめやすや生活水の確保の方法等、備えや食に関する情報をまとめることとした。

■その他

 「あらかると」の発刊後も有珠山噴火や東海豪雨の被災地に本冊子を送ったり、現地へ出向いて炊き出しを行うなどの活動を行う他、被災地域の住民にアンケートを実施して富山県民の防災意識とどのような違いがあるかの調査研究も行っている。

 また、「非常災害時料理講習会」を約20回実施し、1,500人が受講した他、県、富山市、高岡市の防災訓練やボランティア研修会等にも積極的に参加して、調理実演を通して備えの重要性や災害時における衛生管理などの知識の普及を続けている。

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災害救助フェア2000(東京ビックサイト)にて

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「簡単料理あらかると」

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「簡単料理あらかると」

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「簡単料理あらかると」

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「簡単料理あらかると」

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「簡単料理あらかると」

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防災訓練での様子

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防災訓練での様子

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災害救助フェア2000(東京ビックサイト)にて

苦労した点

 メニューは、基本的に生鮮品を使わず、水が少なくても作れる料理を考案したが、食材が限定される中、できるだけ多くの食材を幅広く活かそうと知恵を出し合った。しかし、どうしても同じようなものに偏る傾向が出てしまい、最終決定するまで想像以上に手間取った。

 財源の少ない中での本作りというプロジェクトであり、当初は委員全員が手弁当での取組であった。また、原稿作成に着手してからも試行錯誤の連続であったが、印刷会社をはじめ多くの方々の指導、協力を得ることができ、自分達の思いを伝えられる内容のものにすることができた。

特徴

  • 1.高齢者や乳幼児にも配慮したメニューを考案した。
  • 2.災害時に不足しがちな野菜やいも類が摂取できるように工夫した。
  • 3.メニューごとに栄養価や「ちょっとアドバイス」としてヒント・応用例などを付記した。
  • 4.災害時だけでなく、荒天時や体調不良時にも役立てられるような内容とした。また、通常のアウトドア活動にも利用できるものとなっている。
  • 5.誰にでも料理の手順が一目でわかるように大きめのイラストを取り入れた。
  • 6.簡易炊飯袋のメーカーから製品の提供を受けて付録とした。
  • 7.災害時に使用されることを考え、本体はハンディサイズのA5判とし、表紙は水に強い用紙を使用するとともに、暗いところでも目立つ黄色を基調に仕上げた。
  • 8.災害時に対応した料理本としては全国初である。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 斎藤誠治(財団法人消防科学総合センター常務理事))

 「ちまき風豆ご飯」「じゃがいもの和風サラダ」「干えびと玉ねぎのマリネ」…。これは都内某居酒屋のメニューではない。富山県の栄養士さん達が知恵を出し合って考えた、災害時用の料理である。題して『災害・緊急時・キャンプ等で困らない 簡単料理あらかると-栄養士がおすすめする身近な食材の活用方法!』。実際、いざ災害に遭遇し、数日間の避難生活を余儀なくされた時に大変困ることの一つは、食事である。市町村で備蓄しているカンパンや、差し入れのパンや、冷えたコンビニ弁当ばかり食べているわけにはいかない。当栄養士会では、先の阪神・淡路大震災に際し、冷凍コロッケを被災地に届けたが油がなくて料理に困ったり、水がなくて食べられないインスタント・ラーメンが大量に眠っているのを見て、災害時に対応した料理の必要性を痛感した。その結果、栄養士さん達が考え出したユニークな教材である。硬いカンパンを食べられないお年寄りや乳幼児にも配慮してメニューは作られており、勿論、カロリーはきちんと計算されている。耐水性があり、暗くても見やすい黄色い紙を冊子の表紙に用いるなどの工夫もされている。

 当栄養士会では、この料理本を用いて乞われるままに各地で講習会や防災訓練のお手伝いをしたり、また、有珠山噴火の被災者と防災意識の比較調査を行ったりして、富山県民に防災の必要性、特に食料、水、心の備えを訴えている。

 残念ながら、このような貴重な料理本が、財源の制約により、当初印刷した5千部が残りわずかなようである。全国の防災関係者が参考にすることができるように、何とか大増刷してほしいものである。そして我々は、災害時における「食」の重要性を再認識すべきであろう。

団体概要

 社団法人富山県栄養士会:769名  うち地域活動栄養士協議会:108名

実施期間

 平成9年~