第14回防災まちづくり大賞(平成21年度)

【消防庁長官賞】地域での住宅用火災警報器共同購入の取組

消防庁長官賞(住宅防火部門)
地域での住宅用火災警報器共同購入の取組

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宇治市消防団あさぎり分団笠取支部(旧 笠取婦人防火クラブ)
(京都府宇治市)

事例の概要

■経緯

 宇治市消防団あさぎり分団笠取支部は、宇治市の北東の山間部に位置する笠取地区を中心に活動している女性消防分団である。
 同地区は、宇治市の市街地から車で約20分の位置にあるが、四方を山林に囲まれた地形から、過疎化が進展しつつあり高齢化率は高く、市街地に勤務先を求める兼業農林業従事者の増加とともに、昼間の地域の人口構成は高齢者と主婦が多数を占めるようになっている。
 こうした地域事情から、災害の発生時には被害の拡大と長期化が懸念され、特に昼間でも活動が可能な要員として、主婦層による防火防災活動に期待する地域の声が日増しに高まっていた。
 このような背景の中、地元住民や消防団からの強い要望に呼応する形で、昭和55年11月に「自分たちの地域は、自分たちの力で守る。」という強い決意の下、当時の地区婦人会を基盤とした「笠取婦人防火クラブ」が発足した。
 同クラブは、発足以後29年の永きにわたり、一貫して地域に密着した独自のきめ細やかな防火・防災活動を展開し、大きな成果を残した。
 平成21年4月に更に活動を強化するためクラブを発展解散し、宇治市消防団あさぎり分団に参加したが、消防団として活動を行っている今日も、長年積み重ねた地区住民から信頼は絶大で地区の防火・防災のリーダーとして揺るぎのない地位を築いている。
 住宅防火の取り組みとしては、防火対策の決め手として、条例化直後から住宅用火災警報器の設置の重要性に着目し、クラブ員が地区における共同購入に一丸となって取り組んだ。その結果、地区設置率98%という自主設置では驚異的とも言える設置率を達成し、市内における住宅用火災警報器の普及促進のモデルケースとして大きな役割を果たした。

■内容

  • 1. 消防職員の教養のほか、他府県の住宅防火対策推進シンポジウム等にも積極的に参加し、普及促進の具体的方策などを学んだ。
  • 2. 平成20年10月に、笠取地区の住宅用火災警報器共同購入を取りまとめた。
  • 3. 住宅用火災警報器共同購入者の中で、高齢者宅など取り付けが困難な住宅への訪問設置を実施した。
  • 4. 総務省消防庁主催の平成20年度住宅防火対策推進シンポジウム(宇治市会場)に、当時の笠取婦人防火クラブ委員長がパネリストとして参加し、防火クラブが行った共同購入の内容を紹介し啓発に努めた。
  • 5. 毎月1日には住宅防火広報とともに、山林火災防止巡回広報も実施している。
  • 6. 平成12年から軽可搬消防ポンプ1台を保有し、毎月1回の機関点検を確実に実施するなど、初期段階の住宅火災等にも対応できる体制に努めている。

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高齢者宅取付け支援

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高齢者宅取付け支援

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防火クラブ研修会

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資器材点検

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小型ポンプでの放水訓練

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防災訓練での炊き出し

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住宅防火対策推進シンポジウム参加写真

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出初式での行進

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あさぎり分団

苦労した点

  • 1. 共同購入の市内初のケースとして、先例のない中、住宅用火災警報器の重要性や必要性を地区住民に充分理解してもらうため、地区内の各戸を何度も訪問し粘り強く説明を行った結果、ほとんどの住民の理解と賛同を得た。
  • 2. 市内初のケースとして地区外の利害の反する者や心無い者からの活動への誹謗中傷等も受けたが、クラブ員が誠実に対処し大きな成果へと結びつけた。

特徴

  • 1. 地区内の全ての住戸に住警器の設置を目標に、各戸への粘り強い説明を行った結果、地域住民のほとんどの理解と賛同を取り付けることに成功した。
  • 2. 住警器が設置困難な場所に対しては、地元消防団員の協力を得て、クラブ員が取り付け支援を行うという積極的な推進手段を実施した。
  • 3. 設置率は、自主設置では驚異的とも言える98%を達成した。その後、周辺地域の共同購入においてもアドバイザーとして参画し、笠取地区に近い設置率も達成させ、他の自治会等の共同購入の起爆剤としても大きな役割を果たした。
  • 4. 女性消防団員となった現在も、住警器の保守管理の相談にも応じる等地域に根ざしたきめ細やかな活動を展開し、従来にも増して住民の期待と信頼を集めている。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 濱田 省司(総務省消防庁予防課長))

 宇治市笠取地区は、市の中心部から車で約20分、滋賀県境に近い里山の集落である。90軒余りの住家のうち、実に98%の世帯に住宅用火災警報器が設置されているという。その原動力は、「笠取婦人防火クラブ」による熱心な共同購入活動であった。
 きっかけは、防火クラブの幹部が隣県滋賀県で開催された住宅防火対策推進シンポジウムに参加したことであった。「どうせ付けなければいけないのなら、少しでも早く、そして地域のみんなで設置しよう」と決意を固め、全世帯を対象にしたアンケートの実施から始めたという。そして、住警器共同購入の注文のとりまとめ、業者との価格交渉、さらには高齢者宅等への取り付け支援など、きめ細かな普及促進活動を粘り強く積み重ねた結果が、98%という驚異的な普及率として結実したのである。
 加えて、同クラブは共同購入運動のノウハウを、隣接集落をはじめとする市内の各地区にも伝授し、住警器普及促進のモデルケースとして大きな役割を果たしている。
 ただ、笠取婦人防火クラブの共同購入活動が大成功を収めた背景には、長年にわたり、常日頃から地域に密着した防火活動を展開してきていた蓄積があった。同クラブでは、毎月1日には住宅防火を呼びかける巡回広報を欠かさず実施しているという。毎月15日に行う軽可搬消防ポンプの機関点検や春・秋の山林火災防止パトロールとあわせて、こうした地道な防火活動を30年間にわたって積み重ね、各世帯との「顔の見える関係」を築いてきたことが、共同購入を成功に導いた秘訣だと言えよう。
 そして、平成21年4月、笠取婦人防火クラブの活動は新たな段階を迎えた。婦人防火クラブを発展的に解消し、「宇治市消防団あさぎり分団笠取支部」の名の下に女性消防団として再出発したのである。本田副分団長を先頭に11名のメンバーがこれまで以上の熱意をもって地域の防火・防災に取り組まれ、安心・安全の地域づくりのモデルケースとして全国に発信し続けていただくよう、願ってやまない。

団体概要

構成人員:宇治市消防団あさぎり分団笠取支部・・・11名

 平成21年4月に笠取婦人防火クラブを発展的に解散し、宇治市消防団あさぎり分団笠取支部として発足した地域密着型の女性消防団である。
 毎月1日には地域の防火意識啓発のため、巡回防火広報を実施しており、また、行楽シーズンで入山者が多くなる春や秋には、山林パトロールを実施している。
 また、山林火災発生時には、炊き出し等を実施し、消防職員・団員のサポート活動を実施する。

実施期間

 平成20年5月~