第6回防災まちづくり大賞(平成13年度)

【総務大臣賞】地域防災の担い手をめざした中学教育の取組と実践

【総務大臣賞】地域防災の担い手をめざした中学教育の取組と実践

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世田谷区立太子堂中学校(東京都)

事例の概要

■経緯

 太子堂地区は木造住宅が密集している上に道路幅も狭いため、消防車や救急車等が容易に通行できない状況にあり、自分たちの手で町を守る「自主防災」が本地区の長年の課題であった。
 こうした中で、太子堂中学校では平成9年度から「太子堂地区学校協議会」を中心に、中学生が地域防災の担い手となる日をめざして、「地域自主防災活動」に焦点を当てて防災教育に取り組んでいる。
 これまでに、本取組により生徒410名、教職員30名が地域自主防災の担い手として育っている。

■内容

  • 1.D級ポンプ実技講習会(平成10年度から継続)
     消防署及び消防団の指導のもと、市民防災組織に配置されたD級ポンプを7台使用し、全生徒及び教職員を7班に編成して実施している。
    • (1) ポンプ操作要領
    • (2) ホース結合・延長要領
    • (3) 放水による消火要領
  • 2.救急技能認定講習会(平成9年度から継続)
     消防署の指導のもと、3年生全員に「普通救命講習」を実施し、命の尊さや大切さを習得してもらい、応急手当の技能を身につけてもらっている。
    • (1) 適切な救急車の要請方法
    • (2) 応急手当の重要性
    • (3) 観察・心肺蘇生法・止血法
  • 3.避難所体験サバイバルキャンプ(平成10年度から継続)
     災害時に避難所となる中学校で、小・中学校の児童・生徒と地域住民がいざという時に助け合うために行っている。日頃から一人でも多くの人の顔を覚えておくという狙いもある。
    • (1) D級ポンプ実技講習
    • (2) 包帯法等の応急処置要領
    • (3) 炊き出し訓練
    • (4) 避難所設営訓練
  • 4.防災街づくり学習(平成12年度から継続)
     生徒会が中心となってプロジェクトチームを作り、街づくり事業用地の整備(公園・広場づくり)に関する提案を行っている。その結果として、世田谷区の公園整備計画に生かされた。
  • 5.防災講演・防災ビデオ鑑賞(平成9年度から継続)
     阪神・淡路大震災のときに避難所となった中学校で、教師と生徒が一体となって不眠不休の支援活動を展開した体験談などの防災講演や防災ビデオ鑑賞を実施している。

■特色

 世田谷区の各小・中学校では、平成8年度から「学校協議会」の設置を進めてきた。これは、「健全育成」、「地域防災」、「教育活動の充実」の3つを柱として、学校、家庭、地域とで共通理解と意見交換を広げながら協議が進められ、現在に至っている。
 太子堂中学校は、地域杜会の中で学校、家庭、地域が相互に連携、協力してより良い地域環境をつくることで、子供も大人も含めた温かな人間関係を創りあげていくことを目標としている。この考えをもとに、平成9年度から生徒の自主性を尊重しつつ、積極的に「地域防災」を教育に取り入れている。

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サバイバルキャンプ

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サバイバルキャンプ

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地域防災協力校

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バケツリレー

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消火訓練

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消火訓練

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救命講習

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広場の整備プラン

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救命講習

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救命講習

苦労・成功のポイント

■苦労した点

 当初は「いじめ対策」として防災教育に取り組んだ経緯があるが、徐々に「なぜ「いじめ対策」なのか」という意見がでてきた。そこで、防災教育を通して、学校・地域・家庭がお互いの立場を尊重して連携・協力することにより、豊かな心を育て、「いじめのない」子供社会をつくることができるという説明を行い、賛同が得られた。

■成功した点

  • 1.自分の住むまちが災害に弱い地域であることを生徒が感じ取っていたこと。
  • 2.阪神・淡路大震災の体験談などの防災講演を聞いて、生徒の多くが防災に関して興味をもったこと。
  • 3.本地区は伝統的に学校教育に協力的な地域であったこと。
  • 4.本地区は道路狭隘でかつ木造住宅密集地域であり、住民に「地域防災」への強い願いがあったこと。

成果・展望

■成果

  • 1.中学生でも災害時には地域を支える力として十分期待でき、その意味で本地区では地域防災の一員としての戦力が着実に育っている。
  • 2.生徒一人一人が積極的に普通救命講習を受講し、命の大切さと応急手当の技能を身につけて卒業しており、災害時の応急救護活動の戦力として期待できる。
  • 3.学校・家庭・地域社会の連携、協力による強い絆が生まれ、自分たちの町は自分たちで守るという自覚が生徒たちの心に芽生えてきた。

■展望

 自主防災活動の中心に中学生を据えることにより、中学生に地域での活躍の場を与えることができるとともに、地域防災の一員としての自覚と責任感を持たせることができた。また、地域に住む「お年寄り」や「幼い子供たち」等の弱い立場の人たちを積極的に守ろうという気持ちが芽生え、やさしさや思いやりの気持ちをもって地域防災の戦力となっていくものと確信している。

委員のコメント(重川委員)

 太子堂地区は、防災まちづくりの先進的な事例として大変有名なところである。今回受賞した太子堂中学校は、太子堂小学校、地域住民、さらに卒業生がお互いの力を出し合いながら、防災人づくりに取り組んできた。太子堂中学校の校長先生は、今回の受賞はそうした全ての方達が防災まちづくり大賞を受賞したと思っているとコメントして下さった。中学生に対する様々な防災学習の試み、小・中合同で実施される避難所体験サバイバルキャンプなど、教員にかかる労力も相当なものになると思われるが、このような試みが長年にわたって継続できるためには、現場の先生方の熱意によるところが大である。
 それと同時に重要なのは、学校を中心として、地域住民や地元消防署など多数の応援団による支援と考えられる。世田谷区では区内全小中学校に対し、各学校ごとに「学校協議会」の設置を呼びかけ、学校評議員制度を導入することにより、地域社会と一体となった学校教育に取り組んできた。太子堂中学校でも平成8年度より太子堂小学校と合同で健全育成地域連絡会を結成し、家庭や地域と連携した子どもの健全育成活動を進めてきている。この取り組みを始めたことにより、例えば道端でタバコを吸っている中学生がいたら町の誰かがきちんと注意をしてくれるというように、昔であればどこにでもいた「よその子どもでも悪いことをすればきちんと叱ってくれる」おっかないおじさんが地域に復活した。子どもたちも地域のそういった眼差しを感じれば、非行やいじめに走ることも無くなり、一時は子どもたちが荒れていた太子堂中学校も、今ではすっかり子ども達の生活態度が落ち着きを取り戻している。
 太子堂という地域の災害特性から「防災」をキーワードに取り組んでいる本事例ではあるが、結果的にはいじめや非行をなくし、安全なくらしを実現できる子どもを育てると言う、教育が目指すべき大切な効果がもたらされる事例と言えよう。

団体概要

 世田谷区立太子堂中学校:昭和22年4月開校
 生徒173名、教職員15名(平成13年度現在)

実施期間

 平成9年度~