第8回防災まちづくり大賞(平成15年度)

【消防庁長官賞】「揺れたら逃げろ!!」を合言葉に~浦戸地区津波防災マスタープラン~

【消防庁長官賞】「揺れたら逃げろ!!」を合言葉に~浦戸地区津波防災マスタープラン~

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浦戸地区津波防災検討会 (高知県高知市)

事例の概要

■経緯

 浦戸地区は、浦戸湾の湾口部に位置し、古くから名所「桂浜」の観光や沖合沿岸漁業が地域の中心的な産業として発展してきた地区である。そのため、住宅が密集しており、道路も狭隘で災害時の緊急自動車等の運行にも支障をきたす状況である。
 高知市では、平成12年度に『高知市津波防災アセスメント調査』を実施した。同地区は、津波の第1波が堤防を越えて浸水し、到達時間も30分以内であるなど極めて危険性が高いとの結果がでた。
 これを受け、高知市では、本格的に地区別津波防災マスタープランの策定を進めるにあたり、浦戸をモデル地区としたい旨を同地区で活動している自主防災組織に打診した。その結果、地区全体として積極的に協力したいとの申し出があり、浦戸地区での津波防災の取り組みを進めることとなった。

■内容

  • 1.避難計画策定に向けての意識啓発
     南海地震の危険性への理解を深めるため、地区住民を対象に南海地震についての勉強会や市の防災対策についての説明会を開催した。自分たちの地域の危険度を理解するとともに、南海地震に対する意識づけを行った。
  • 2.避難計画づくリの組織体制
     避難計画の策定にあたり、地区代表者による津波防災検討会を立ち上げ、自主防災組織を通じて、地区住民に同検討会での検討内容等を周知していく組織体制をとった。
  • 3.津波防災検討会の定期開催
     津波防災マスタープラン策定に向けて、毎月第3金曜日に津波防災検討会を開催した。
    • (1)検討事項
       策定スケジュール、課題事項の洗い出し、避難行動計画、地図上での緊急避難場所・避難経路の選定、避難時間・避難人員の設定などを順次検討した。
    • (2)現地ウォッチングの開催
       緊急避難場所・避難経路及び避難時間・避難人員の設定を記した地図に基づき現地ウォッチングを実施した。地図に修正を加えた後、学識者の同行のもと、現地ウォッチングを再度実施し、学識者との意見交換を行い、その有効性や課題点等を検討した。
    • (3)浦戸地区津波防災マスタープラン中間報告書の作成
       緊急避難場所・避難経路についての現状及び今後の課題をまとめた「地区別防災力ルテ」を中間報告書として作成し、地区全世帯に配布を行った。
    • (4)避難訓練の実施
       浦戸地区津波防災マスタープラン中間報告書に基づき避難訓練を実施した。地区住民約570人の参加のもと、避難計画の実効性を検証した。この訓練では、通行不能箇所や負傷者の配置、車椅子での避難等を設定し、より実践的な訓練となるように努めた。
  • 4.浦戸地区津波防災マスタープラン報告書の完成に向けて
     現在、避難訓練により新たに判明した課題事項の再検討を行い、より充実させた「浦戸地区津波防災マスタープラン」の完成を目指し活動を続けている。

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浦戸地区DIG

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避難訓練

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四国防災子どもサミット

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浦戸地区DIG

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避難路

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浦戸小学校避難訓練

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津波防災検討会

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避難路

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避難誘導灯

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避難誘導看板

苦労した点

 浦戸地区は、昭和南海地震での揺れや津波による被害はほとんどなかったため、当初は南海地震に対する意識か低かった。そのため、浦戸地区住民全体に南海地震に対する意識の向上を図る必要があった。また、本格的に地区別の津波避難計画を策定するのは初めての試みであり、検討を重ねるごとに新たな疑問点や課題点が次々と出てきた。そのため、後戻りや脇道にそれたりしてしまう状況が何度も生じ、計画策定に時間を費やしたが、ひとつひとつ解決していくことができ、結果的にはよりよいものとなった。

特徴

  • 1.行政依存型から住民主導型への転換
     浦戸地区津波防災検討会の発足当初は、行政に対して、緊急避難場所や避難経路の整備などの「ハード対策」を要望する意見が大半を占めていた。しかし、検討会を重ねるごとに次期南海地震に対しては、「ハード対策」よリも「ソフト対策」が優先するべきとの意識に変わってきた。
     行政に全て依存するのではなく、地域でできるところは地域でやって、できないところを行政に要望するという地域と行政の役割分担が確立された現在は、各地区とも緊急避難場所や避難経路も自分たちで整備する活動を行っている。
  • 2.小学校の防災学習との連携
     津波防災検討会委員の協力の下、平成14年度から浦戸小学校の防災学習が開始された。地区の次世代を担う子どもたちに防災意識を引き継いでいこうという活動である。その結果、子どもたちを通じて親に広がり、そして地域住民に防災意識が広がっていく結果となっている。
  • 3.より充実した避難計画の策定
     防災訓練で通行不能箇所や負傷者を配置した結果、要援護者対策や夜間対策など新たな課題点が見つかったため、地区を隅々まで知ろうと地図を使った「図上訓練」を採用した。地震が発生した後、地区住民が迅速かつ安全に避難し、津波による被災者を最小限にするよう「揺れたら逃げろ!」を合言葉に活動を行っている。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 福嶋 司(東京農工大学農学部教授))

 高知市浦戸地区は太平洋に面しており、南海地震が発生した場合には、津波が30分以内に襲来することが予測されている。そのため、短時間に、全員が安全に避難できるシステム作りが課題であった。この地区では高知市の主催する「高知市津波防災マスタープランのモデル地区」となったことで、住民の意識も高揚され、具体的かつ実践的な津波防災の取り組みが進められることになった。
 具体的には、市の主導のもと、学識経験者や市の担当者を囲んでの勉強会の開催、毎月1回津波防災検討会を開催して避難行動計画の検討、学校と連携した予告なしの避難訓練の開催など、多岐にわたる実際的な活動を重ねている。特に、避難場所とそこへの避難方法については、カルテを作成し、問題点の洗い出しと改善策を検討している。この検討により、避難路から遠い場所に、避難のための道を新たに建設するなど、新たな活動へと発展している。
 浦戸地区の取り組みは総合的かつ、実践的であるが、特に、以下の点が高く評価される。
①津波災害に対しての取り組みが、行政、学校、市民が一体となって総合的に進められていること。
②津波が発生したら自分はどうしたらよいのか、地区の住民一人ひとりが自分で考え、行動する態勢が確実に構築されていること。
③計画、実行、検証、修正という、改善のためのサイクルが常に意識され、より実際的な活動になっていること。
 海に囲まれたわが国では、地震の発生による津波の襲来が心配される場所が多い。浦戸地区の取り組みは、きわめて緻密で実際的であり、他の自治体への手本になるものである。目下、浦戸地区で進められている津波防災マスタープランが一日も早く完成することを期待したい。

団体概要

 浦戸地区津波防災検討会:平成13年8月発足。桂浜、浦戸東、浦戸西、西南浦、東南浦の5地区自主防災会の代表者25名の委員で構成。  高知市浦戸地区  人 口:1,361人  世帯数:577世帯  (平成15年8月1日現在)

実施期間

 平成13年~