第11回防災まちづくり大賞(平成18年度)

【消防庁長官賞】地域コミュニティ・メディアによる緊急告知FMラジオの開発と、倉敷市防災体制の連携~防災情報を確実に伝達し住民の生命を守る、安全・安心のまちづくり~

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倉敷コミュニティ・メディア(KCM),倉敷市
(岡山県倉敷市)

事例の概要

■経緯

 倉敷市では、平成16年秋の度重なる台風来襲(16号、18号、21号、23号)による高潮被害や土砂崩れ等により、死者2名を含め、床上・床下浸水約5700世帯など、甚大な被害が発生した。当地域は、従来大きな災害発生は少なく、普段から災害への心構えが十分でなかった事に気づかされた。
 日頃から倉敷市における地域メディアとして、情報伝達や意識啓発に努めている、地域のコミュニティFM局、ケーブルテレビ局から構成する倉敷コミュニティ・メディア(KCM)が、緊急時の情報伝達の面で今までより更に迅速、確実に肝心な情報を伝えられる方法はないかと考え、地域メディアによる災害時緊急情報伝達システム、「緊急告知FMラジオ」の開発を行うことになった。
 地域における避難勧告等の災害関連情報は、基礎自治体である倉敷市災害対策本部から発せられる。倉敷市においては、既に平成9年より、市と地元メディアとの間で「災害緊急放送協定」を締結しており、災害時等に緊急放送を行う取り決めはあったが、今回、地域メディアが、今まで以上に役割を果すことができる仕組みづくりや、市の防災体制との連携強化が必要であると考えた。

■緊急告知FMラジオの特徴と取り組みの内容

 今回の緊急告知FMラジオは、地域のコミュニティFM局とケーブルテレビ局が開発した。地域メディアである倉敷コミュニティ・メディアは、倉敷市からの避難勧告・避難指示等の緊急情報発出を受けて、緊急告知FMラジオを、緊急起動信号により自動起動させ、緊急情報を流している。
 この「緊急告知FMラジオ」の特徴は、たとえ電源がOFFになっていても、コミュニティFM局から発信される特殊な緊急起動信号を受信すると、自動的・強制的に電源がONになり、大音量で放送を伝え始めるというものである。また別の終了信号により、強制的に電源をOFFにする事も出来る。さらに充電式電池を内蔵しており、停電時でも動作できる。また、本体に装備されているハロゲンランプは、緊急起動時に点灯することで、聴覚障害の方々にも緊急時であることが伝達できるとともに、停電時には自動的に点灯し、暗闇における懐中電灯にもなる。また、コミュニティFM局の電波だけでなく、FM電波が受信しにくい地域においては、ケーブルテレビに接続出来るプラグを通じて、緊急起動信号のケーブルテレビ経由での伝達も可能である。
 倉敷市では、この緊急告知FMラジオを、これまでの情報伝達手段を強化するものとして、市内の要援護者施設(福祉施設、幼稚園、保育園等)や、自主防災組織等に配備を行い、下記のように、日頃より実証実験や、定期的な伝達訓練を行っている。この仕組みは、災害に対して、緊急情報(避難勧告、避難指示など)伝達について、市と、民間であるコミュニティFM局やケーブルテレビ局が協働して取り組んでいるものである。

■地域での訓練・日頃の取り組み

  • ・平成17年10月11日倉敷市本庁舎および支所にて、FMの生放送中に起動実験し成功
  • ・平成17年11月11日南海沖地震を想定した「水島コンビナート防災訓練」に参加。起動実験に成功
  • ・平成18年1月31日倉敷市の「災害時要援護者避難訓練」に参加し、起動実験に成功
  • ・平成18年5月24日倉敷市は、福祉施設など、災害時要援護者施設424箇所に「緊急告知FMラジオ」を配備。現在までに、全ての自主防災組織等も含め、546箇所に配備。
  • ・平成18年8月27日防災週間、倉敷市総合防災訓練にあたり、訓練会場から携帯電話操作により実験成功。
  • ・平成18年8月より、毎月1日午後0時58分30秒から13時まで、FMくらしきの通常放送を通して、定期的に緊急起動実験放送を実施している。

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こくっち

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スタジオ緊急放送

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福祉施設

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公民館活動

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少年消防クラブ

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総合防災訓練(携帯電話割込み放送実験)

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総合防災訓練

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大高幼稚園

苦労した点

  • 1.いつも使っているラジオが、災害情報ラジオになること普段は、地域情報を伝えるコミュニティFMラジオとして皆さんに親しまれながら、いざという時には、そのラジオが自分の身を守る災害情報ラジオになるということ。また、かわいいデザインとし、角には優しく丸みをつけて、子供から高齢者までが安全に親しみやすく使ってもらえるユニバーサルデザインを採用していることなど、日頃から住民の皆さんが使ってもらえるラジオとすることに苦労した。繁急時にのみ急に使用されるのではなく、日常からそのラジオが利用され、皆が慣れている事が、いざという時に大切であり、そのために、毎月1日の緊急起動実験も行っている。
  • 2.住民に親しみやすい名称を募集:愛称“こくっち”
     「緊急告知FMラジオ」という長い名前では普及しにくいため、市民に向けて愛称を募集したところ、700通を超える応募があり、その中から“こくっち”という愛称が決定し、皆に親しまれている。

特徴

  • 1.この仕組みは、他のコミュニティFM局と地方公共団体においても、使うことができること
     この緊急告知FMラジオの仕組みについては、本ラジオに、その地区のコミュニティFM局の周波数をセットすることにより、同地域におけるコミュニティFM局の範囲でも使用が可能となる。既に、新潟県長岡市にも約900台が配備され、今後、同県三条市、岡山県笠岡市などでも採用していく予定である。
  • 2.自助、共助の考え方が地域で広がっていること
     倉敷市では、地域の企業や市民団体が、それぞれの社会貢献事業の一環としてこのラジオを利用するという事案もおこってきている。一例としては、地元の銀行や、地元の商工会議所が、企業の社会的責任事業として、また、地元への貢献としてこのラジオを、市に寄付して下さっている。地域における、自助、共助の考え方が、行政、企業、市民、NPOそれぞれにおいて進みつつある。

委員のコメント【防災まちづくり大賞選定委員長 澤井 安勇(総合研究開発機構理事)】

 倉敷市の防災コミュニティ・メディアの特徴は、災害時においては、地元FM局とCATV局により初めて共同開発された緊急告知FMラジオ(愛称「コクッチ」)を使って、地元メディア(KCM)が倉敷市からの緊急災害情報を受けて緊急起動信号を自動起動させ、市民に災害情報を伝達する防災情報システムであることだ。死者2名を含む甚大な被害を生じた平成16年秋の台風災害を契機として開発されたシステムであるが、このシステムのキー・ポイントとなる情報端末の「コクッチ」は、デジタル万能の時代に、あえて基本回路にアナログ方式を採用して、故障が少なく使い易い設計としているほか、FM局の電波を使用しているため、大規模な緊急信号発生装置や利用者側の工事が不要であり、災害時の情報伝達媒体として極めて有効であるうえ、CATVからの受信もできる。また、自動起動により音声が鳴り始めると、ライトも同時に点灯し、聴覚障害者の利用や暗闇での利用にも対応でき、さらに、通常は家庭用コンセントを電源として内蔵された充電バッテリーにより停電時もそのまま使用できるなど、災害時の状況に幅広く対応しうる実際的配慮がなされている。この倉敷のシステムを、県内の市や新潟の長岡市など他市でも採用する動きがでているという話であるが、いろいろと見聞した限りでは、それも頷ける優れた設計思想と地元メディアを中核とした地域協働関係により実現された貴重な防災情報システムであると感じた。
 現在、この「コクッチ」を市民にできるだけ広く普及させることが課題であるようだが、倉敷市当局も、市内の社会福祉施設、教育施設、自主防災組織など676施設に配備しているという。地域防災分野における「新しい公共」のよき範例として、その普及・定着を望みたい。

団体概要

  • ・倉敷コミュニティ・メディア(KCM):平成14年1月1日発足
  • ・倉敷市:人口476,171人(H18.8.31)
  • ・構成:株式会社倉敷ケーブルテレビ(CATV)、株式会社エフエムくらしき(コミュニティFM)、玉島テレビ放送株式会社(CATV)

実施期間

平成17年~