第8回防災まちづくり大賞(平成15年度)

【消防庁長官賞】環境パトロールと自主防災活動

【消防庁長官賞】環境パトロールと自主防災活動

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八代環境パトロール隊 (富山県氷見市)

事例の概要

■経緯

 八代地区は、氷見市の北西部に位置する中山間地で、わが国有数の地すべり発生区域であることから、「八代地すべり郡」と呼ばれている。昭和36年、39年、平成3年と大規模な地すべりが発生し、中でも昭和39年の被害は、胡桃(くるみ)地区にあった87棟が全壊又は半壊という悲惨な結果となった。復旧保全工事が続けられる中、集落が山あいに離れ離れに存在しているために地区全体で一体となった協力体制作りが難しかった。そのため、この現状を何とか克服して、人々が安心して暮らせる地域にできないものかと皆が常々考えていた。
 平成12年2月に県内第1号の「悪質商法追放モデル地区」に指定されたのを機に、住民が自主的に地区内を巡回するようになった。そのうち、道路ふちに不法投棄された廃棄物の回収も行うようになり、これらを組織的・効率的に実施するため、平成13年6月に「八代環境パトロール隊」を結成した。
 さらに、地区全体が災害の多発地帯であることも考慮に入れ、川水の濁りや倒伏樹木の有無といった防災に関する監視も併せて行うことにし、現在では環境、防犯、防災といった総合的な地域保全活動を展開するに至っている。

■内容

 通常は毎月第2・第4日曜日を活動日とし、2人1組の4班編成で、道路の亀裂、川水の濁り、樹木の倒伏、道路への土砂の流入、不法投棄等がないか地区内の全道路で警戒パトロールを実施している。
 地区内40箇所に警戒チェック地点を設け、10台の無線機(車載型6台、携帯型4台)を使用して、現地より本部に連絡し、本部で情報を記録し対応指導を行っている。
 パトロール車の前後に「八代環境パトロール隊」のマグネットシールを取付け、ユニフォーム、帽子、ジャンパー、長靴を揃えて隊員の活動意欲を高めている。
 平成15年3月には、隊員が中心となり地区全体の防災訓練を実施した。消火器やバケツリレー等による初期消火訓練、エンジンカッターやチェーンソーを使った救出訓練、人工呼吸や応急手当などの救護訓練、その他炊き出し訓練等を行った。日々の訓練の必要性を地区住民と共に再認識する機会として、今後も続けていきたいと考えている。
 この他、平常時は、知識の普及、設備器具の点検などを定期的に行うとともに、消防団や駐在所の警察官とも連携して、どんな時にも対応できるような体制をつくっている。
 また、平成15年9月には本部となる拠点の建物も完成し、今後の活動をより充実させたいと考えている。

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警戒パトロール

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八代環境パトロール隊

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救出訓練

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八代環境パトロール隊

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警戒パトロール

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初期消火訓練

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下草刈り

苦労した点

 本地区は携帯電話の不感地帯であることから、活動開始当初は現地と本部の連絡方法がなく、報告は隊員が本部に戻ってから行っていたが、隊員の身に危険が及んでいないか本人が戻るまで大変心配であった。無線機は喉から手が出るほど欲しかったが、活動資金不足で購入できず、それどころか通常の運営費すらない状況であった。
 そこで、市から委託費をもらって地区内の林道(延長約10km)の下草刈りを請負うことにした。苦労の甲斐あって、無線機を10台整備することができ、現場からの連絡方法と隊員の安全確保は大きく進歩した。
 また、当初は活動に参加しない隊員がおり、チームワークが一時乱れかけたこともあった。しかし、隊員が減っても活動を続けることに意義があるとの思いから、「隊はあくまで個人の自由意思活動である」、「損得は考えるな」、「ひとの痛みは自分の痛みである」の3つの点を徹底的に話し合い、理解し合った結果、隊を去った者は1人もなく、今日まで和が保たれている。

特徴

 八代環境パトロール隊の活動は、毎月の第2、第4日曜日に全道路・集落をくまなくパトロールすることである。地区内に40箇所の警戒チェック地点を定め、その地点で状況を確認し、本部に逐次報告、災害やその予兆、警戒事項があれば即刻対応する体制をとっている。
 災害現場はこれまで3回発見し、現場からの情報を本部に無線連絡して、本部から市、県に速報するとともに、道路の交通整理等を行った。  不法投棄物を発見した場合は可能な限り回収を行うなど地域の環境を守る他、高齢者に安全・安心な生活をしていただくため、一人暮らしの高齢者宅を訪問して、防火の啓発や悪質な訪問販売の情報を提供するなどの声かけを行っている。隊員と地区住民の親睦を深めるため、バーベキューも行っている。
 活動にかかる資金調達は、当分の間、市から林道の下草刈りを請負うことで確保できるものと考えている。
 今後も活動を続けていくにあたり、固定的な活動ではマンネリ化するので、隊員一同アイデアを出し合い、工夫を重ねながら取り組んでいきたいと考えている。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 斎藤誠治(財団法人消防科学総合センター常務理事))

 これは全くのボランティアである。町内会等が市町村の直接・間接の指導のもとに行っている活動でもなく、誰かから言われて始めたものでもない。ある日、地区内の道路脇に大量に捨ててある空き缶を見て、「これは何とかしなくてはいけない」と個人が自発的に始めた活動に仲間が加わり、そのうちに道端の不法投棄物も片づけよう、一人住まいの高齢者の家によって「お元気ですか」と声をかけ、そこで悪徳商法の被害を知り、また、巡回中に倒木等の災害現場を発見し、次々と活動範囲が広がり、八代地区全体でパトロール隊を結成するに至った。「自分たちの地域は自分たちの手で守ろう」という、地域ボランティアの原点を見る思いである。
 勿論、活動費はどこかから補助を受けるのではなく、林道の下刈りで得た手間賃を充てている。資機材は各方面から寄付によって充実し、この程、プレハブの本部建物も完成した。結成後3年近く経つが、月2回このように有志が集まっているとコミュニケーションが生まれ、地区内の様々な情報も得られるので、皆進んで参加している。
 今後は、いざというときに備えて高齢者の情報などをきめ細かく集められるようにご婦人方にも参加を呼びかけているが、そうなればまさに地域あげてのボランティア組織であり、活動の範囲も環境、防災、防犯等一層充実することであろう。善意の活動がますます発展することを願うと共に、あまり個人負担を増やさずに、やれる範囲で長続きさせてほしい。

団体概要

 氷見市八代地区  人 口:777人  世帯数:285世帯  八代環境パトロール隊:28人  (平成15年8月1日現在)

実施期間

 平成13年~