第12回防災まちづくり大賞(平成19年度)

【消防庁長官賞】こども防災大学~小学生自らが避難所を運営、将来の防災を担う人材の育成~

消防庁長官賞(一般部門)
こども防災大学~小学生自らが避難所を運営、将来の防災を担う人材の育成~

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こども防災大学(神奈川県横須賀市)

事例の概要

 横須賀市は自主防災組織の結成率が95%を超えるなど防災意識が高い地域特性がある。しかし近年は地域防災活動を担う方々の高齢化が問題になっている。将来の防災活動の担い手となる人材の育成は短期間で達成できるものではない。
 こども防災大学は、平成14年から将来の地域防災を支える人材を育成することを目的に、「防災を学び体験する」活動を行ってきた。対象は小学5年生で、活動期間は6年となり、卒業生(こども防災博士)の数も250名を超えた。

■内容

 本講座は防災全般に関して、①正しい知識・技術・警戒心を高め、②地域・家庭に防災思想の普及を行い、③将来に向け多くの防災リーダーを育成することを目的としている。
 授業は防災各領域の専門家が協力し実施しており、新潟県中越地震ではボランティアとして復興支援を行った横須賀市防災アドバイザーの須藤氏をはじめ、三浦半島活断層調査会など普段からボランティア活動や調査研究を行っている個人・団体、米海軍消防隊・自衛隊・消防署などの機関で構成されている。
 博物館学芸員の授業では、過去の文献から以前横須賀でどのような災害が起きたか、またそこから何を学び備えるかなどの話が行われる。救急法では救急救命士が講師となる。
 米海軍消防隊の授業ではアメリカ式の危機管理(身の守りかた)を学ぶ。また自衛隊の協力による避難所体験では本物の炊飯車両を用いて食料の配給を行った。
 また避難所体験では、こども自ら避難所でのルールを決めた。消灯時間は全員の意見の結果、11時となった。
 自宅が地震により倒壊し、避難所に集まっている想定の中では、多少の不自由に不平を言ってはいられないことや、「自分がほかの人のためにできること」を率先して行うなど、言葉では伝えることが難しいことを、体験を通じて身につけた。

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放水体験

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消火訓練

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救命講習

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液状化実験

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救助活動

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米海軍講義

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自衛隊炊出し

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災害対応訓練

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米海軍基地訓練

苦労した点

  • 1.各講師が最も苦労することは専門分野の内容をいかに分かりやすく伝えるかである。小学生が理解できるよう配慮し興味をひきながら授業をすすめるためには多くの時間をかけた下準備が必要である。レベルを上げすぎても、また逆に下げすぎてもうまく伝えることができないので非常に注意を必要とする。
  • 2.授業の提供の申し出が多く、日程の都合上、全ての要望を取入れることができなかった。

特徴

  • 1.広がり
    ・参加者数が6年間で250名を超え、着実に本活動が地域に根付いている。また、参加した児童の通う小学校では、総合学習で防災をテーマとしての研究が行われるなど広がりを見せている。
  • 2.日本ではあまり教えないこと
    ・「米軍基地消防隊Great Escapeプログラム」 火災時のサバイバルは基地内の訓練施設で実際に体験する。また「もし洋服に火がついたら?」ではStop,Drop & Roll(止まれ、倒れろ、転がれ)を合い言葉に、服に移った火の消し方を学び自分で対処できるように訓練する。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 石川 増弘((財)日本防火研究普及協会常務理事))

 こども防災大学は、防災に関する正しい知識、技術そして警戒心を高めて地域や家庭に防災思想の普及を行い、将来の防災リーダーを育成することを目的として、平成14年から毎年1回開催している。
 授業は地元の防災領域の専門家が講師となって、小学校5年生の希望者を対象に約3ヶ月8回程度行い、主に夏休みや土曜日を利用した日程でのカリキュラムを組み、研修・講習・模擬体験を取り入れている。学習内容は、救命講習、火災時の避難方法、1泊2日の避難所体験、非常食を作る体験、地震のメカニズムや耐震補強実験実習、台風のメカニズム、台風などの情報を聞いたら何をすればよいかなど多岐にわたった知識を習得し、「自分の身は自分で守る」ためにはどうすればよいか、災害発生時に何を行えばよいかなど、一歩踏み込んだ講習や体験をさせており、各自が自発的に取り組み楽しみながら学習できるカリキュラムで、防災に対する認識がより一層高まるものと期待されている。こども防災大学を卒業した児童には「防災博士」の称号を授与することで、児童自らが学校内や家庭内の防災について関心を持たせるようになっている。
 わが国は地震国であり、また毎年台風などの自然災害も多発しており、これら災害からの被害を最小限に抑えるためには地域住民一人ひとりが防災に関心を持ち、自分で出来る対策は自分で行うようにしなければならない。研修を受けた児童たちが学校内や家庭内で体験談を話すことで、周囲の未体験の児童にも刺激を与え、家庭内や地域内までその輪が広がることが期待できる。こども防災大学の取り組みは、行政頼みの防災対策に一石を投じたものとなるのではなかろうか。こどもの柔らかい頭のうちに知識等を浸透させることは将来の効果は絶大なものになるであろう。体験研修に参加した児童には貴重な経験であり、将来の防災体制の充実に大きく寄与するものと評価できる。このようなユニークな体験学習に協力していただいた講師陣、また真摯に取り組む児童たちに敬意を表したい。

団体概要

こども防災博士(第1期平成14年~第6期平成19年 265名)
横須賀市北消防署
<協力>
横須賀市防災アドバイザー 須藤眞啓
米海軍横須賀基地統合消防隊
三浦半島活断層調査会
横須賀市立自然・人文博物館
陸上自衛隊第1教育団
横須賀市危険物安全協会北支部

実施期間

平成14年~