第6回防災まちづくり大賞(平成13年度)

【消防科学総合センター理事長賞】応急手当普及推進の町」を全国ではじめて宣言し応急手当の普及を一大町民運動とした活動

【消防科学総合センター理事長賞】応急手当普及推進の町」を全国ではじめて宣言し応急手当の普及を一大町民運動とした活動

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愛川町(神奈川県)

事例の概要

■経緯

 愛川町では、阪神・淡路大震災後の平成7年度に防災アセスメントを実施し、平成8年度に地域防災計画の抜本的修正を行った。その際、計画策定の前提となる被害想定の負傷者数を、これまでの600人から1,200人としている。この負傷者に対する応急手当については、恐らく救急隊では対応できないことが想定されることから、町民の防災行動力が求められる。また、増加する救急需要の中、救命への期待はますます大きくなり、救命手当の普及は時代の要請となっている。
 そこで、本町では町民に対して、災害時に期待される初期消火、救出、避難誘導活動などとあわせ、救難活動に必要な応急手当の普及の推進につとめている。
 具体的には、昭和52年から平成4年まで「婦人の救急教室」を中心に、平成5年度から「私もわが家の救急隊員」をキャッチフレ-ズに応急手当の普及に努めている。さらに、この運動を一大町民運動とするため、平成13年5月に全国初めてとなる「応急手当普及推進の町愛川」を宣言し、普及活動を展開している。

■内容

  • 1.婦人の救急教室の開催
     延べ33回で449人が受講し、昭和52年から平成5年度まで実施した。1日3時間の3日間コ-スで、カリキュラムは観察の手順、止血法、人口呼吸などを行っている。
  • 2.その他の講習会の開催
     延べ320回で12,484人が受講し、昭和53年から継続して実施している。止血法、固定法、やけどの手当、熱中症の予防と手当、人口呼吸など要望により2時間程度で実施している。
  • 3.普通救命講習会の開催
     延べ166回で3,992人が受講し、心肺蘇生法の習得を目的に国の実施要項により3時間コ-スで実施している。平成5年度から継続している事業である。
     なお、平成8年から中学生を対象とした普通救命講習会を開催できるようになり、町内にある中学校すべてで、卒業までに普通救命講習を受講できることになった。これは、保健体育の授業として位置付け、実施している。生徒はそれぞれ真剣に取り組んでおり、災害時の大きな戦力として位置付けることができるとともに、命を大切にする心を育むものとなっている。
  • 4.上級救命講習会の開催 
     延べ4回で73人が受講し、心肺蘇生法、大出血の止血、傷病者管理、外傷の手当、搬送法などを8時間コースで実施している。
  • 5.応急手当普及推進大会等の開催
     救命率の向上のためには、町民の協力は不可欠である。そこで、町民の意識啓発を目的として、平成9、10、12年に開催し、いずれも町文化会館大ホールが満席(550人)になるほどの盛況であった。なお、本事業は防災講演会の一つとして位置づけて開催したもので、本事業を含めて、「防災講演会」は平成2年から継続的に実施しており、延べ12回で4,044人が参加した。
  • 6.消防あったか講座の開催
     高齢者対策として、入浴時の突然死を防ぐ方法や震災時の家具の転倒防止などの講話を行っている。平成11年度からの継続事業で延べ7回で207人が参加した。
  • 7.外国籍住民への防災指導
     本町は神奈川県内でも外国籍住民比率がトップである。そのため、教育委員会が行っている日本語教室の中で119番のかけ方の指導を行っている。また、火災予防運動行事としての一日消防士や防災訓練に参加してもらい、外国籍住民の防災行動力を高めている。
  • 8.積極的なPR活動
     消防広報委員会を中心に、消防だよりや手作り看板の掲出、町広報紙や印刷広報紙への掲載(無料)、病院だよりへの掲載などによるPRを行っている。また、町の大きな事 業である防災訓練や出初式において、普通救命講習会を修了した中学生や多くの町民に応急手当の必要性をPRしてもらっている。
  • 9.「応急手当普及推進の町愛川」宣言記念式典の開催
     以上の活動により町民の意識も高まり、平成13年5月16日、町文化会館大ホールで立ち見が出るほどの満席の中で記念式典が開催された。会場内のアンケートでは、98.7% の方々が応急手当の普及は良いことだと答えている。

■特色

 救急講習等の受講者は、自主防災組織、消防団、役場職員をはじめ、町議員、教員、保母、危険物安全協会、郵便局員、事業所、スポーツ団体、PTA等広範囲にわたっている。講習会場は、消防署や役場の他、地域の公民館、学校、事業所等での出前講習も行っており、受講者の希望に沿って実施している。郵便局や健康づくり推進団体では、職員や構成員だけでなく、地域の方々にPRして開催する状況も生まれている。現在は、消防署からの働きかけより、各種団体や事業所からの開催要望が多くなっている。
 中学生は、講習会を通じて応急手当の重要性を認識し、手を差し伸べるような場面に遭遇したときに頑張ってみようという気持ちが強く表れるようになった。この年代への講習会の機会は特に重要であることから、学校やPTAと連携して進めている。

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事務所での救命講習会

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広報紙によるPR

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外国語標記の手作り看板

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外国籍住民による一日消防士

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「応急手当普及推進の町 愛川」宣言

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中学校での救命講習

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消防だよりによるPR

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消防あったか講座

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救急講演会

苦労・成功のポイント

成功した点

  • 1.昭和52年から行っている「婦人の救急教室」などにより、応急手当の普及に努めてきたこと。
  • 2.平成5年に国の応急手当普及啓発活動の推進に関する実施要綱を受けて、救命率の向上及び災害時の防災行動力を向上させるという目的と、当面1世帯に1人救命処置ができ る町を目指すという目標を明確にしたこと。
  • 3.婦人防火クラブやシルバー消防隊を有する先進的な自主防災組織から積極的に実施してもらい、全体に広めていったこと。
  • 4.平成2年から防災講演会を継続して開催しているが、特に平成9、10、12年には救急講演会として行っており、応急手当の必要性を広く訴えてきたこと。
  • 5.消防長以下70人の消防職員数であるが、救急救命士が講師となり、応急手当普及指導員の要請のため消防職員の講習を行い、一丸となって取り組んでいること。

成果・展望

■成果

 普通救命講習会の受講者数は、平成10年度まで年間100人から500人未満で、平成11、12年にようやく800人台となったが、宣言を契機に1500人以上の受講者数が見込まれる状況となった。
 こうした取り組みの中で、平成11年7月に普通救命講習を受講した女子中学生が、高校願書の提出の帰り道に路上に倒れている老人に対して救命処置を施すということがあった。彼女には、この経験について平成12年5月27日に開催された「応急手当普及推進大会」で発表してもらった。
 また、平成13年6月に突然呼吸停止に陥った1歳4ヶ月の乳幼児に対して、祖父が人工呼吸を施して救命処置を行ったという事案もあげられており、確実に成果が上がっている。
 この他、普通救命講習修了者の方に、出初式や防災訓練、救急の日、救急講演会などの行事に積極的に参加し、応急手当の必要性についてのPRに協力してもらっている。

■展望

 普通救命講習終了者は町人口の8.6%となり、平成13年度中に10%を超える見通しとなった。
 シアトル市では12歳以上の市民の60%が心肺蘇生の教育を修了しているという。アメリカでは、1970年代の前半から市民への心肺蘇生の普及に力を注いでおり、日本とは20年以上の開きがある。こうした取り組みの違いが日本での救命率が低い要因の一つと指摘されている。
 防災の最も基本となることは人への優しさと地域の連帯意識で、応急手当の普及は救命という視点からも防災という視点からも大切な事業と言える。
 現在、自主防災組織、婦人会、農協、学校、PTA、普通救命講習修了者、医師等からなる応急手当普及推進協議会の設置準備にかかっている。これにより、さらに応急手当普及推進の宣言の町として救命率の向上が大きく期待できるとともに、地域の防災行動力と連帯意識を高めることができる。また、行政と住民が一体となって日々安心して暮らせる社会づくりに大きく貢献するものと確信している。

委員のコメント(澤井委員長)

 愛川町は、年々増大する救急需要に対応するため、救急隊の整備にも力をいれてきたが、巨大地震等の発生時には、救急隊のみの対応では困難、という判断から町民の防災行動力向上の一環として、応急手当の普及を町民運動として取り組んできた経緯があり、その実績の上に、2000年5月に、「応急手当普及推進の町 愛川」を宣言し、消防、各種団体、町民一体となって活発な普及活動を展開している。参加者が年間1500人を超える普通救命講習会を中心に各種講習会・大会等関連事業の実施など消防と町民一体となった極めて積極的な運動の展開に感心させられるが、その推進力は、全員で看板作りから講習会の指導員まで勤める消防隊員の熱心さにあるようだ。町民運動の拡がりに伴い、指導員等マンパワーの充実や講習のグレードアップなどの課題も生じているようだが、身近な応急手当という切り口から町民の防災全般に対する関心を高めることも期待されるので、息の長い町民運動として大きく育ててもらいたい。

実施期間

 昭和52年~

事業費

 649,722円(平成12年度)