第6回防災まちづくり大賞(平成13年度)

消防科学総合センター理事長賞】「明治三陸大海嘯関係文書」解読本の増刷と、「巖手公報」(明治29年6月17日~30日)の配布による防災意識高揚の取組

【消防科学総合センター理事長賞】「明治三陸大海嘯関係文書」解読本の増刷と、「巖手公報」(明治29年6月17日~30日)の配布による防災意識高揚の取組

vol.6 022-025 MapLayer1

岩手古文書研究会(岩手県)

事例の概要

■経緯

 平成11年5月に本研究会が上梓した「岩手古文書館巻五」のうち、「明治三陸大海嘯関係文書」は史料価値も高く、特に海嘯被災地の方々の防災意識の高揚に資するものと考えられた。そこで、県内三陸沿岸14の全市町村及び防災関係機関に出向いて贈呈した。その結果、大方好評で、配布や譲り受け等の希望が多いことから、これらの要望に応えるため、平成13年度に350冊を増刷した。
 平成13年8月には「岩手日報社125周年記念展」に展示されてあった明治29年当時の巖手公報社(現岩手日報社)発行の「巖手公報」の三陸大海嘯に関わる主要部分(明治29年6月17日~30日)のコピーを巻五と共に会員の研修資料とした。これにより、過去の津波災害の実態を知る上で、さらに充実した貴重な資料を会員に配布することができた。また、巻五を贈呈配布した県内沿岸各市町村、図書館、小中高校等に津波災害研修資料として無料で郵送配布した。

■内容

  • 1.本研究会は、昭和49年5月11日に会員22名で発足し、以来毎月第2土曜日の午後1時から2時までの「初心者講座」で会員の拡大を図っている。その後は、正会員の「古文書解読研修」(記録・古筆・典籍等を含む)を実施し、会員相互の親睦を図りながら研鑽に努め、古文書学の発展に寄与してきた。年月の経過とともに会員の高齢化が進み、現在最高齢者83歳、平均年齢68歳の組織であるが、高齢者のできる方法によって社会に貢献し続けたいと願っている。
  • 2.解読研修の結果は毎月「古文書研究会報」で紹介しており、現在「第278号」を数えるに至っている。
  • 3.平成13年9月現在の会員は、本部会員(盛岡)33名、青山支部10名、県南支部(一関)27名、初心者研修生6名の計76名(うち女性14名)である。
  • 4.会発足以来5年毎に貴重な古文書を解読して「岩手古文書館」を編集上梓してきた。その中で、平成11年5月に会創立25周年に当たったことから、記念事業として「岩手古文書館巻五」の上梓計画を行うこととなった。盛岡地区では「明治29年三陸大海嘯関係文書」を解読し、400部を上梓して関係方面等に贈呈配布した。これにより、初版は既に無くなってしまったが、これ以外にも各方面(県内及び北海道、静岡、香川県等)から照会の要望が出てきた。これに応えるべく、平成13年5月12日開催の定例総会に諮り、350冊を増刷して要望に応えているところである。
  • 5.平成13年8月に盛岡市中の橋通り1丁目「プラザおでって」において、「岩手日報社創立125周年記念展」が開催された。その際、明治29年三陸大海嘯関係の紙面が展示されていたが、非常に貴重な資料であることから、事情を説明してコピーを頂いた。頂いたコピーは、先に上梓配布した巻五と共に当会員の研修資料として活用し、会員の防災意識を高めた。また、当時の津波災害資料として活用が図られるよう、沿岸各市町村、同図書館、小中高校等に無料で郵送配布した。

vol.6 022-025 P1Layer1

会報

vol.6 022-025 P2Layer1

会報

vol.6 022-025 P3Layer1

岩手古文書館 巻五 表紙

vol.6 022-025 P4Layer1

本文(明治29年6月20日の日誌)

vol.6 022-025 P5Layer1

明治三陸大海嘯関係三書

vol.6 022-025 P6Layer1

巖手公報(明治29年6月17日)のコピー

vol.6 022-025 P7Layer1

演題

vol.6 022-025 P8Layer1

研修風景

vol.6 022-025 P9Layer1

研修風景

vol.6 022-025 P10Layer1

研究会メンバー

苦労・成功のポイント

■苦労した点

 本研究会は本来防災に関わる団体ではないが、古文書の解読を通じて何か社会の役に立つことがないかと考え、5年毎に「岩手古文書館」を編集発行してきた。その中で、平成11年5月の創立25周年には、岩手県民にとって忘れることのできない大津波の記録を対象にし、防災意識の高揚に寄与することにした。その記録は、「岩手県庁文書庫」にただ1冊しか保存されていない「持出し禁止、コピー禁止」という貴重な「明治三陸大海嘯関係文書」であった。「持出し禁止、コピー禁止」のため、事情を説明して現地で写真を撮ることにした。しかし、全葉を1枚1枚写真に撮るには枚数が多く、引き伸ばしを大きくすれば鮮明さを欠くので、解読には拡大鏡を用いるなど苦労した。

■成功した点

 平成13年の「巻五増刷」の事業は予期しなかった反響に応えたものであるが、会員の防災意識は高く、総会に事務局案として提案したところ満場一致の賛成を得ることができた。また、「巖手公報」のコピー印刷も役員会で承認され、何の障害もなくスムーズに、会員及び関係方面へ無料で郵送配布することができた。

成果・展望

■成果

 明治三陸大海嘯古文書は、岩手県庁内文書庫に一冊のみ保存され、「持出し禁止、コピー禁止」として永年保存されていた文書であった。それを1枚1枚写真に撮り、古文書解読という当研究会の特殊な知識力を生かし、「岩手古文書館巻五」として上梓した。国立国会図書館、岩手県文書保存庫、岩手県立図書館はもとより、県内沿岸全市町村図書館及び小中高校、各報道機関、関係行政機関等に贈呈した他、希望者には実費頒布しており、防災意識の高揚に寄与できた。

■展望

 明治三陸大海嘯関係文書を内容とした「岩手古文書館巻五」は、初版400部、平成13年増刷分350部の計750部の出版となった。一般図書と違って多くの需要は期待できないが、今後も要望があればこれに応える方向を堅持したい。
 また、高齢者による百年前の大災害の記録の解読により、災害に対処する人達や一般市民に何程かの貢献ができれば光栄である。

委員のコメント(野平委員)

 5年毎にテーマを決めて古文書を読み解き「岩手古文書館」の名前で印刷製本配布していた岩手古文書研究会が、明治二十九年の三陸大津波の被害者救援の実態を記録した県庁文書を対象に選定した経緯は、これまで疑問だった。文書綴りの存在も自明ではないはずだ。現地調査で判明したのは、県庁消防防災課が三陸大津波から丁度100年の記念として予算要求した災害記録の復刻が、結果として実現しなかったという事実だった。
 予算がつかないなら私費で実施しようという後期高齢者を中心とする会員たちの意気込みが、今日までの行動を成功させたようだ。県内の財団法人の半額助成も得て、300万円の事業を最後まで導いた幹部の指導と会員の集団活動は、室内作業ではあるが、まさに防災まちづくり大賞に値する立派な行動である。
 過去の悲惨な災害記録は、災害が大規模であればあるほど、全国各地に残っているとは限らない、非常にまれな情報である。今後の防災活動の模範的な事例として推奨する。

実施期間

 平成10年1月~

事業費

 750,000円(コピー代・郵送料を含む)

団体概要

  • 昭和49年5月11日 発足
  • 平成13年9月現在の会員数
  • 岩手古文書研究会本部(盛岡)
    • :会員33名
  •    〃  青山支部(盛岡市青山地区)
    • :会員10名
  •    〃  県南支部(一関地区)
    • :会員27名
  •    〃  初心(入門)者
    • 会員6名
    • 合計76名