第10回防災まちづくり大賞(平成17年度)

【消防庁長官賞】トリアージ訓練を通じ、静岡市の住民が災害時医療を理解し担うことを目指す

【消防庁長官賞】トリアージ訓練を通じ、静岡市の住民が災害時医療を理解し担うことを目指す

h17-018-map

静岡地区災害時医療対策連絡会
(静岡県静岡市)

事例の概要

■経緯

 東海地震で静岡は大きな被害が想定されている。様々な訓練が行われているが、地震を命の問題と捉える視点では、今尚阪神で提起された課題をクリアーできていない。全ての医療機関、消防など行政が集まり、静岡地区災害時医療対策連絡会(静災連)を立ち上げた。平成13年より活動を開始した。目指すところは、平時での「住民と医療の連携」訓練を通じて、災害時の自助、共助を作ることである。具体的方法は、静災連が「トリアージ訓練」を町内会に呼びかけ、手を上げた町内で各医療機関との連携訓練を行うものである。平成17年度で(旧)静岡市の約50連合町内のうち、15町内の訓練を終える予定である。これまで毎回200名から650名の住民の参加があり、平成17年で5,000人を超えることになる。

■これまでの活動

 平成13年「静災連」を結成する。地域に出向きトリアージを広める方針を立てる。連合町内会単位での訓練とし、住民が扮する模擬患者を、地域で開業している医師会員がトリアージし、静災連の医師がトリアージの具体的解説と災害時の医療について説明する形とした。準備として、トリアージがどれだけ知られているか、住民へのアンケート調査をおこなった。啓蒙用のビデオ、CDを作成した。平成13年は、1町内で訓練を行った。
 平成14年は、3町内と訓練を行った。
 平成15年は、救護所の立ち上げ訓練(市との無線での情報訓練、医薬品を取りに行く訓練)を加え、4町内と訓練を行った。
 平成16年にはそれぞれの地域の具体的人的被害想定を知るため、訓練予定地域住民、医師会医師、病院職員が集まり、図上訓練を行った。これを基に地域ごとの患者搬送訓練を加え、3町内で訓練を行った。
 平成17年度は、地震の最大の医療であるクラッシュ症候群に対する啓蒙と対策を加えた。さらに学生特に中学生に訓練への参加を呼びかけ、平成17年11月13日の訓練では60名の中学生が参加した。災害時の救急医療講習会を教育委員会に申し入れ、平成17年度は中学校1校と実習を行う予定である。平成17年度は4町内と訓練の予定である。

h17-018-01

急性硬膜外血腫(赤タッグ)

h17-018-02

右下肢挫滅症候群等(赤タッグ)

h17-018-03

眼球脱出(黄タッグ)

h17-018-04

トリアージ訓練の様子

h17-018-05

左前腕骨骨折(緑タッグ)

h17-018-06

右下腿開放骨折(黄タッグ)

h17-018-07

被災現場でのトリアージ(ポケット版)

h17-018-08

トリアージ・タッグとは?

h17-018-09

トリアージ・タッグの記載例

苦労した点

 医療は病院が行うこと、住民は診てもらう立場、という意識は根強く、地震の医療訓練を呼びかけても、素人だからと断られることも多かった。見学型の訓練ではなく、参加型の訓練にするために、何人もの町内会長を訪ね、必要性を説明した。そのなかで積極的に賛成してくれる町内と連携し訓練を行った。それが翌年隣の町内の訓練につながってきた。地域住民が模擬患者役をやり、怪我人の演技もしてもらうことで、訓練を身近に感じられるようだ。

特徴

 突発型の地震では、住民しかいないPhaseOは24時間くらいあるといわれている。一方重症の負傷者が1日放置されることは致命的であり平時には考えられない。トリアージ訓練を通じ、住民が災害医療を知り、自分たちで動くんだと意識することは、難しいが大事なことだ。訓練を終えた地域では救護所の医療は立ち上がると考えている。静災連には、医療、行政だけでなく、大学や、ボランティア協会なども参加して、単独で請け負っていた訓練も、合同で行えるようになった。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 中林一樹(首都大学東京大学院都市科学研究科教授))

 30年以内の発生確率が87%と、まさにいつ起きても不思議ではない東海地震。震源直上になる静岡市では、震度7の激しい揺れが想定され、県の想定では重傷者2,600人、生き埋め3,800人が静岡地区(旧静岡市)で発生する。「静岡地区災害医療連絡会(静災連)」は、災害医療の中枢機関である県立総合病院の救急委員会安田清委員長の「想定されたような事態には、平時でも対応できないのではないか」という危機感からはじまった「住民を主役とする災害時医療の訓練活動を推進する団体」である。地域防災計画では、震災時には各地区に救護所が設置され、負傷者はそこで治療し重傷者は病院に運ぶとしているが、そんな訓練はやったこともなかった。医療機関に期待されても出来ることには限りがある。限りある医療資源を有効活用するために負傷者の治療優先度を判定する「トリアージ」という考え方を住民に理解してもらい、災害時には現場に医者はいないので住民自らトリアージを行うことを理解しその訓練してもらおう、そんな思いから平成13年に最初の「トリアージ訓練」が開始された。翌14年に、医療機関も災害時医療の訓練を行っておくべきではないかと、災害拠点病院である5総合病院有志、静岡市医師会有志を中核とする「静災連」が結成された。医師会の大村純医師が考案した判定手順を図化した「STRAT式トリアージ表」を用いて住民自身でのトリアージ訓練も大きな広がりとなり、これまでの5年間で、静岡地区の50の連合自治会のうち14地区で訓練を実施し、さらに中学生や高校生の訓練も積極的に展開している。最近では、自治会、中学校や高等学校、ライフセーバーなどの市民団体から訓練の要請があったり、バイクボランティアが医薬品の緊急搬送役として参加、さらに静岡地区以外からの訓練指導の要請もあり、静災連のトリアージ訓練は大きな広がりとなっている。「震災時のクラッシュ症候群と災害時医療のトリアージの理解が短期目標、実際に災害時に住民がトリアージや医療救護対応行動ができるようになることが中期目標、そして最終目的は自宅を耐震化するなど住民が被災しないための防災の取り組みを実現することです」という言葉は、説得力に溢れていた。

団体概要

 静岡市医師会、静岡市歯科医師会、静岡市薬剤師会、静岡県看護協会、静岡県立総合病院、静岡市立病院、静岡済生会総合病院、静岡厚生病院、静岡赤十字総合病院、静岡市消防、静岡市防災課、静岡市保健所、静岡市教育委員会、バイクボランティア、静岡大学ボランティア、静岡県立短期大学、静岡県ボランティア協会、静岡市自治会

実施期間

 平成13年~