第9回防災まちづくり大賞(平成16年度)

【消防科学総合センタ-理事長賞】日吉学区防災プロジェクト「プロジェクトH」-みんなでやろみゃ~どえりゃ~安全で住みやすいまちづくり!-

【消防科学総合センタ-理事長賞】日吉学区防災プロジェクト「プロジェクトH」-みんなでやろみゃ~どえりゃ~安全で住みやすいまちづくり!-

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日吉学区防災安心まちづくり委員会
(愛知県名古屋市)

事例の概要

■経緯

 名古屋市中村区の日吉学区は、名古屋の玄関口である名古屋駅の西側に位置し、学区名を太閤秀吉の幼名日吉丸から譲り受けた由緒ある地域で、歴史的な遺跡等も点在している。
 この地域は、戦前からの古い木造密集地域、軟弱地盤、名古屋市内でも有数の高齢化率、都会特有の地域コミュニティの低下等、この地域をとりまく環境は災害に対して条件が良くない。また、明日にも発災が危倶されている東海地震及び東南海地震では、古い木造住宅の倒壊等大きな被害が予想されている。
 そのため、さまざまな取り組みを短時間で実施することが求められた。地域で活用できる資源、資金、人材等限られる中で、いかに早く、確実に地域防災力の向上ができるか追求した。その結果、ただ単に事業を実施するのではなく、実施したことにより、①確実に地域の防災力が向上し定着すること、②地域の防災意識を長く持続すること、さらにはこれらを通じて地域が活性化し成長(コミュニティの強化)できることが必要で、その達成のため、平成12年に“プロジェクトH”が実施された。

■内容

  • 1.先進的な取り組み
    • (1)R2(あるある)パック(レスキューリサイクル)
       この取り組みは防災用品の普及を目指すものであるが、普段の生活サイクルの中で防災を考えたもので、内容は地域の住民が持ち寄った不用品を、非常持ち出し防災用品として再配布するものである。これにより、地域のゴミの減少と安価に各家庭に防災用品を備えることができた。
    • (2)実践研修会(地震の揺れによる屋内の危険に関する研修とその実践)
       この取り組みの目的は、あくまで防災技術者(家具の固定ができる人)の養成であり、地域防災技術力の向上を目指したものである。具体的には、地元国立大学の教授を招き、地震の揺れと家屋の危険に関する研修を受けた後、地元NPOとタイアップし、家具の固定の仕方を学習し、事前に依頼のあった老人宅に出向き家具固定の実践並びに屋内の危険解消(重いものを下におろしたり…)を行なった。
    • (3)模擬避難所休験
       災害時に避難所となる場所を使っての避難所体験であり、①地域住民の防災意識の改革、②避難所生活での不便さを解消するための問題点の抽出を主な目的に行われた。この結果、避難所は寒いこと(冬季)、避難所となるグランドではテントもなく、雨天時に入ることもままならない等の問題点が明らかになり、その解決が図られている。
    • (4)厳選防災用品の共同購入事業
       この取り組みは、それぞれが準備してほしい備品のうちなかなか手に入らない用品を共同購入し斡旋するものである。その一つとして、防寒シェラフの斡旋があるが、委員会の構成員が四方ハ方奔走して品物を捜し出す等、体験から得た知識をもとに、地域が本当に必要としているものを厳選して斡旋している。
    • (5)防災伝道活動  この取り組みは、自分の地域への普及活動ではなく、自分達の地域で経験した防災活動や、先進的な取り組みを発表することにより、地域での防災のあり方を伝道しようというものである。地域の代表者はもちろんのこと、行政機関、NPO法人も参加する等、地域防災のあり方に大きな影響を与えている。
  • 2.地域防災力向上の取り組み
    • (1)学区基礎力養成講習
       モデル学区の時から、毎年1,000人規模の基礎訓練を実施しており、地域の防災意識の高さが伺える。訓練には、学区の委員の方が開発した家庭用防災倉庫の展示や各種防災器具の展示即売等も行い、学区防災力の向上に努めている。
    • (2)リーダー養成講習
       地域の防災リーダーの養成を目的としたリーダー養成講習は、より実践的な知識の習得を図るため、東海地震の予知の段階から発災後の対応までの自主防災組織の活動を、地図と被害想定等によりシミュレーションするもので、隣接する海部東部消防組合の署員の聴講を得ながら活発な意見交換が行われた。
    • (3)運動会
       特に希薄になりかけている地域コミュニティの強化のための方策として地域運動会を活用している。まず、参加者を増やす工夫、さらには消火器を使った消火競争等、運動会の中に種々の防災色を取り入れ、自然に消火器等に触れられる工夫を随所にこらしている。
    • (4)防災倉庫の設置
    • (5)防災安心マップの作成
    • (6)各自主防災組織の活動(町内会単位での訓練)
      • ① 伝達研修及び防災器具等の取り扱いに関する基礎訓練
      • ② 防災倉庫を中心に、防災資材を活用した地域密着型訓   練
      • ③ 災害弱者(高齢者)の情報把握及び情報を利用した訓練  の実施
  • 3.今後予定している取り組み
    • (1)学区内の京田、白子町政会を対象に、防災ボランティア、小学校の協力を得て、児童による防災マップを作成する。(既に実施中)
    • (2)学区及び各自主防災組織の基礎訓練や、要救助者を町内の人が助けに行くためのお助けカードの作成等について、計画立案中である。
    • (3)名古屋市の市政ニュースにおいて、日吉学区の取り組みをテレビで紹介するため、取材に協力している。

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物資の受付(R2(あるある)パック)

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ワークショップ(避難所体験)

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家具の固定作業

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家具の固定作業

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応急救護訓練

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難所体験(就寝)

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初期消火訓練

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防災倉庫の設置

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避難所体験(炊き出し)

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仕分け・パック化作業(R2(あるある)パック)

苦労した点

  • 1.地域住民が防災の必要性を理解してくれるのに大変苦労した。
     地域の防災対策を行えば良いと頭ではわかっていても、いつ来るかわからない大地震の備蓄を、生活費から捻出してその対策をとリつづけることは大変なことである。特に、長屋暮らしでは家屋の補強もままならず、高齢者が多いことから、つい投げやりになりがちになり、地域防災は一向に進まなくなる。
     その中で、“プロジェクトH”は、生活の中でできる防災、それでいて災害時に効果のある防災、長続きする防災を目指し、地域の人達が何らかの関わりを持ちみんなで作り上げる防災を実施した結果、やがて地域住民の意識も変わってきた。
  • 2.地震防災対策の基本である建物の耐震化がなかなか進まない中で、突然発生する直下型大地震から地域住民の生命等を守るための決定打の模索と、高齢化した地域住民に対する防災力の向上に関して苦労している。
  • 3.学区内の予算的な制限により、担当者の意識の低下が懸念された。しかし、担当者は自分たちが、自分たちのまち、命をまもるための活動であること、自分たちが手作りで作り上げたという崇高さと満足感にひたることができ、その活動はますます活発になっている。
  • 4.地域企業に対する期待は大きいが、期待の主なものが地元に対する一方的支援であり、企業の協力が得られにくい。特に、零細企業ばかりの地域では、企業も一般家庭と同じであり、自らの会社を最低守れるようにお願いすることが精一杯である。時間をかけて、協働体制の確立に努力すべきであると考える。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 福嶋 司(東京農工大学農学部教授))

 日吉学区は木造住宅の密集地で、住民の高年齢化などの問題を抱えていることから、災害時の対応が心配されていた。そのような環境の中、確実に住民の安全を確保するための方策を求めて積極的に立ち上がったのが日この委員会である。会の取り組みは、依頼のあった老人宅への家具固定作業、R2(あるある)パックの整備、防災倉庫の充実、防災用具の展示即売、工具の使用方法を行う防災技術者の育成、防災のためのリーダー養成、運動会時に消火競争などの防災イベント活動、防災安心マップの作成、児童による防災マップの作成、お助けカードの作成など多岐にわたる。その一つひとつは決して多額の経費をかけなければできないものではない。生活に密着した防災の活動としてできることは何かに知恵を絞ったもので、総合的に良く考えられている。この活動が大きく展開できた背景には、至近距離に位置する消防署との密接な連携・協力体制があったことも大きい。
 訪問して、まず、意外だったのは、委員会の構成員は決して若くないことである。しかし、とても積極的・行動的で、熱心に「自分たちのできることは何か」をしっかりと見据え、着実に計画、実行していることはすばらしい。他の見本にもなる特にユニークな取り組みとしては、「R2パック(レスキュー、リサイクルの頭文字)」の配備がある。これまでの被災地からの情報を分析し、災害時にすぐに必要な17品目を選び、それをパックにして備えている。このパックの内容物は家庭内で余っている用品を住民が持ち寄り、集まらなかったものだけを購入している。このパックは町内会単位で保管し、災害発生時に活用するという。各家庭で防災用品を安価に用意でき、地域のゴミの減量にも役立っているという。また、冬季に校庭にテントを設営し、宿泊を体験した。とても寒く防寒シュラフ(寝袋)が必需であることを知ったが、すぐに入手できるものではない。そのような用品を厳選し、それを共同購入している。必要なものは何か、それをどうするか、を自分たちで考え、その解決にすぐに結びつけて行動している点もすばらしい。
 今回の受賞に関して、「私らだけが目立っては申し訳ない。皆、頑張っているので」と、会長のあくまでも控え目な言葉が心に残った。できる人達が、できることから行動し、大きな流れをつくっていく、という防災活動の基本を再確認できた訪問であった。

団体概要

  • ・日吉学区防災安心まちづくり委員会
    地域の防火・防災に関する取り組みと自主防災組織に関するコーディネネーター役を行う組織で、自主防災組織の活性化等を通じ学区の防火・防災力の向上と地域コミュニティの確立を目的に自主的に結成された組織である。
  • ・中村区の世帯数:61,635世帯
  • ・日吉学区の世帯数:4,032世帯
  • ・日吉学区内の自主防災組織数:19組織
    (構成世帯:3,182世帯、構成員:6,810人(概数))

実施期間

 平成12年~