第16回防災まちづくり大賞(平成23年度)

【消防科学総合センター理事長賞】「災害時要援護者支援マップ」を活用した防災まちづくり

消防科学総合センター理事長賞(一般部門)
「災害時要援護者支援マップ」を活用した防災まちづくり

h23-010-map

黒髪校区第4町内自治会自主防災クラブ
(熊本県熊本市)

事例の概要

■経緯

 当自主防災クラブが存在する地域は、熊本市の中心部に位置しながら立田山等を有し、自然にも恵まれた場所であるが、丘陵に立地する当町の地形は急傾斜地が大部分を占めるほか当地区一帯には立田山活断層が存在し、発災の危険性が極めて高い地域である。また、傾斜地に沿って立ち並ぶ住宅街、同街区をはしる道路は狭隘であり、大規模災害時には消防をはじめとする防災機関等の災害対応に支障をきたすことが考えられる。さらに、災害時要援護者である高齢者が多数居住するという理由から、平成12年1月31日に「黒髪校区第四町内自治会自主防災クラブ」を発足させ、住民が安心して暮らせる環境づくりを目指しているものである。

■内容

 「自分達の地域は自分達で守る」をスローガンとして掲げ、自主防災クラブ会長を中心とし、災害発生時に住民が迅速・的確な行動ができるよう、次のことを実施している。

  • 1. 災害時要援護者支援マップの作成
     自主防災クラブ員が、町内を1軒毎訪問し「災害時要援護者支援マップ」を作成。特に高齢者一人ぐらしの状況把握には細心の注意を払い、変化がある度に随時更新を行っている。
  • 2. マップを活用した防災まちづくり
     災害時要援護者支援マップを活用し、住民が避難場所へ集合する際の道のりの確認及び避難誘導訓練等の実施。さらに、「一人暮し見守り表」を作成し、災害時での援護のみならず、日々の生活での援護も行っている。
     また、災害時要援護者支援マップを作成することで、緊急車両の通行が困難な道路狭隘地区や災害発生時に必要な資機材の不足等、防災、防犯上においても多くの危険要因箇所等が発見され、その問題に対処するために、道路狭隘地区の電柱移設工事や自治会、消防団と共同で行う環境整備、さらには財団法人自治総合センターからコミュニティ助成事業を受けて資機材コンテナを整備し、訓練を実施する際は、住民一人ひとりが参加しやすいように配慮するとともに、応急手当講習・消火訓練・防災資機材の取り扱い・非常食の炊き出し訓練等を実施する等、官民一体となった防災まちづくりを行っている。
  • 3. リーダー養成、クラブ員の意識高揚への取り組み
     会長をはじめとする役員等は、消防防災施設の見学、自治体の防災研修会への参加を行い、住民に向けた伝達研修等を通じ地域と密着した継続的な防災啓発活動を実施している。また、高齢化する当自主防災クラブにおいて、若手のリーダー育成を積極的に行っている。

■展望

 行政と住民が連携し工夫した防災訓練を行い、災害要援護者等の最新の状況を把握しながら、住民がより高い知識や技術を習得し、防災意識を高め、より安全なまちづくりを目指す。

h23-010-01

AED講習会(下立田老人憩いの家にて)

h23-010-02

黒髪4町内自主防災クラブ資機材コンテナ

苦労した点

 自主防災クラブを発足した当時は、災害発生を身近に感じていない住民に対して、意識改革をするまでに時間を要した。行政と一体となり住民が理解するまでには、訓練や会合を徹底して繰り返すほか、災害時要援護者支援マップを作成し、自分の住む地域の災害危険性を知ってもらうのに苦慮した。また、災害時要援護者支援マップを作成するにあっては、高齢者一人暮宅の情報を正確に把握するため、何度も訪問するなど多くの時間を要した。

特徴

  • 1. 災害時要援護者支援マップを作成した事により住民に地域の情報が伝わり、災害発生時に被害を未然に防いだり、最小限度にとどめることが出来る。また、転居してきた住民に災害時要援護者支援マップを配布することにより、防災意識の高揚と啓発が行なわれ、危険箇所や避難場所までの経路等が把握できる。
  • 2. 官民多くの各機関の協力により、災害時要援護者支援マップを活用した環境整備や連携のとれた防災訓練防災に関する研修等が実現できている。
  • 3. 当自主防災クラブは災害防止だけでなく防犯運動や環境整備等、地域に貢献する活動を幅広く行っていることから、自治会等とも密接な関係が保たれているため、住民の防災に対しての認識がさらに向上している。

委員のコメント(防災まちづくり大賞選定委員 福嶋 司(東京農工大学農学部教授))

 黒髪校区第4町内自治会は熊本市の中心部からバスで20分ほどの熊本大学黒髪キャンパスに隣接する地域にある。そこに住む1,350人の半分近くが学生、約600名が68歳という特殊な人口構成である。古くからここに生活している住民が多いことから、住民同士が顔見知りで、まとまりの良いコミュニティが形成されているようである。自主防災クラブは12年前に有志21名で結成され、現在は42名が活動しているという。訪問して感じたのは、防災活動を、足元の小さな活動から天災に備える大きな活動まで、総合的防災の観点で捉え、活動していることである。前者の例としては、高齢者が多く火災の心配があることから消火栓設置場所の現状調査と市への新設ヶ所の提案、町内の道路が狭く緊急車両の障害となる可能性がある電柱の移設、庭木の剪定などの調査と提案、剪定作業の実施、カーブミラーや街路灯の必要な場所の調査と増設への提案、交差点に立っての交通安全誘導、洪水危険個所の調査と回避策立案など、きめ細かな防災活動を行い、提案が受け入れられて実行されている。一方、天災の発生に備えては、古い家屋が多い実情から倒壊家屋からの被災者救助のための備品整備、要介護者のマップの作成、救急備品の整備なども怠りがない。特に、要介護者マップは詳細な素晴らしいもので、会員が住民のすべてをよく知っていることから、1軒1軒の状況を的確に把握して災害時の支援者を決定し、毎年、マップの改定を行っている。自分たちで調査し、自分たちで改善策を検討し、関係する部署等に提案し、そして、協力しながら防災対策を進めていくという前向きな姿勢は素晴らしい。会の悩みは活動資金の不足である。しかし、これを得るために独自の取り組みをしている。会員が月2回、町内を回り、新聞、空き缶,瓶などを回収して業者に引き取ってもらう。そこまではそれほど珍しくはないが、市が回収量に応じて補助金をだす。会は収入を得ると同時に町内、ひいては、市のごみ減量に貢献しつつ、活動資金を得ている。このシステムは他の団体でも展開可能で学ぶところが多い。この自治会は住民に学生が多いという特殊な環境の中にある。学生は比較的短期間で入れ替わることから、学生との交流が少ないという。災害時に若い力はおおきな助けになるであろうことから、会では、今後、大学生と一緒に活動できる方法を考え、一層、活動的で総合的な防災対策を進めたいと意気込んでいる。この会の構成員には高齢者が多い。しかし、若々しく、力強く活発に、しかも、提案型で前向きに活動を展開しているメンバーの方々にお会いし、ほのぼのとした暖かな気分で現地調査を終えた。

団体概要

世帯数
450世帯
人口
1,130人

実施期間

 平成12年~現在