語り部の体験紹介コーナー

東日本大震災の被災者からのメッセージです。

猪狩 弘之さん 男性

猪狩 弘之さん

ふくしま発…泣いて、笑って、怒って、生きる!

~東日本大震災・原発事故の記録と教訓~

・3月11日の地震と津波


 あの3月11日、福島県いわき市の自宅にいた私は、その揺れと、地響きに驚き、飛び出した。人々は地べたに座り込み、 恐怖に引きつった顔で這いつくばっていた。
大地は揺れ、電線が波打ち、長く、長く、とてつもない時間を感じた。
 近くの小学校へ走り、避難してきた大勢の住民と、叫び声の中にいた。
再び自宅へ戻った私は、その時、静かに、路地を水が押し寄せてくる光景に遭遇した。
 この沿岸部では「津波は来ない」という伝承があるが、「津波がくるぞー」と叫びながら小学校へ戻り、車へ向かった。


 高台にある「福島県いわき海浜自然の家」に、駆けこんだ。
中は、続々と避難してくる人たちで溢れかえり、大混乱していた。
 余震が続き、ドドーンと突き上げるたびに人々は悲鳴を挙げ、ゴーッと唸るようなその不気味な地響きに、この世が終焉するのではと思われた。
皆寝そべり、じっと息をこらえ、恐怖におののいている。
今、どこで、何が起きて、どうなっているのか、知らないことほど怖いものはない。


・福島第一原発事故


 翌朝、市内の長男宅へ避難した。
川や給水所へ大勢の人が、バケツ、ジョウロ、衣装ケースなどを持って並んでいた。
 実はこの時、東京電力福島第1原発で、爆発事故が起こっていたのである。
何も知らされないまま、放射性物質が降っている屋外に、延々と長蛇の列をつくっていたのだ。
 危険を感じ、長男夫婦の意見を聞いた。嫁は、愛知県へ避難したいとのこと。
長男は、「市職員である自分が避難したら、市民を守れない。つらいけど、残る」の一点張り。
「今は子供を守ることが親の務めではないか」の説得に頑として首を振らなかった。
 我々の車を見送る長男は、息子を抱きしめ、号泣した。


・避難の日々


 行く当てはなかったが、とにかく原発から、遠く離れなければならない。
茨城県日立市の従兄弟を思い出し、すがる思いで電話した。
車は妻、二男、嫁、孫2人を乗せ、国道6号をたどり着いた。
 翌朝名古屋へ出発する孫たちを、行けるところまでタクシーで走らせ、その無事を願った。
翌日東京へ向かい、三男と妻が迎えてくれた。
三男の顔を見て胸が熱くなり、生きてるってこんなことを言うのかなと思った。
 東京は何事もなかったかのような表情をし、人々は普段のように歩き、語らい、行き交っていた。何なんだ。一体これは何なんだ。昨日までの、死ぬような思いは何だったんだ…。そんな思いがした。
 シャワーを浴びた。実に1週間ぶりであった。
やっと落ち着いた安心感と、激しい疲労、虚脱感、不安、混乱、動悸などが襲ってきていた。
 メールで友人たちの安否が判った。県外に逃れ、彷徨い、また戻ったなどとあった。
何でもいい、どこでもいい、生きていればいい。生きていれば何にもいらない。つくづく、そう思った。


・人が消え、ガソリンもない…


 約一月後、いわきの長男宅へ戻る。
彼は帰宅が朝方で、8時前には出勤の毎日だった。
それでも、市民からはめちゃくちゃ怒鳴られる日々だという。
皆な疲れてんだ…。諦め半分、悔しさ半分、苛立ち半分、悲しそうに言う顔に言葉が見つからない。
 自宅へ片づけに戻ろうにも、ガソリンがない。
運転手の原発被災地への運転拒否などがあり、4、5時間並んで、やっと僅かな給油。
 6号国道も、向こう側までがらがらの状態だ。
こゝはどこなんだ。本当に日本なのか。
 こんな日々が、延々と続いた。


・記録、教訓、伝えること


① 携帯電話充電器の互換性
 互換性がなく、充電器が使えなかった。災害時を考慮すれば、統一した充電器を。


② 避難所体験
 老若男女が体育館などで避難所生活の体験。
 今後も発生するであろう災害対応のため、日常からの体験は重要。


③ 「津波は来ない」という誤った伝承
 私見だが、見聞すると津波死者の半数約50%の人は「津波は来ない」と避難しなかった人。さらにその半数25%は「親やペットの安否確認」で海岸へ向かった人。残り25%が「津波を見に」向かった人たちと推定している。正しい伝承、情報があれば、救えた命は少なくない。


④ 自然災害と原発事故は別
 原発事故は人災である。
自然災害と違い、原発事故では人類の科学で原子力や放射性物資は制御できない。
福島第一原発で、毎日6千着を着脱する防護服は1月で12万着、1年で36万着、3年9月経過現在およそ110万着以上が処理できず山積みされている。
焼却も、埋設も、現在の科学では処理できないという未熟な技術力が、巨大な自然災害に打ち克つはずはない。
燃料棒も処理できず、処分場もない。汚染水も、その他もしかり。
立ち向かう技術は、人類は持ち合わせていない。


 震災短編小説を描き、出版した。(「ソバニイルヨ」)
活字を通じ、残して行きたいと願っている。
 東日本大震災と福島第一原発事故の正しい知見と、伝承と、伝達を、後世の人々に繋いでいきたい。
 そしてその責任は、この時代に生きている我々が持っている。


                    参考:★震災小説「ソバニイルヨ」
                  1 電子出版 ①コンテン堂
                   http://contendo.jp/Product/List/Genre/0001/
②Amazonn Kindle
                  2 書籍購入:Yhooオークション
                         ★メルマガ連載中「WEBぱるマガジン」
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