語り部の体験紹介コーナー

東日本大震災の被災者からのメッセージです。

飯沼 晴男さん 男性

飯沼 晴男さん

昔から水は命だと言うからね、
お役に立つならいつでも使って下さいよ

私は宮城県亘理町に住んでいます。あの日の地震の時刻には商工会の観光ボランティアの実地研修日で町の旧跡にいました。強い揺れで車が踊り、揺れが収まるのを待って急いで自宅に戻りました。150戸ほどの自治会の自主防災会長だったので、直ちにヘルメットを被って飛び出し、被害状況調査で町内を一巡し、次いで要援護者の家を回って声掛けをしました。
幸い大谷石の塀が崩れた家が1軒あった事と、瓦屋根の家の棟瓦の崩れが数件あっただけで、建物の倒壊やけが人などはありませんでした。
しかし、停電と断水が同時発生していました。


発電機でプラスチックの漬物樽やポリタンクに貯水
満タンになれば次の井戸に移動して同じことを繰り返す


 ただちに自治会の役員や在宅有志に集まってもらい、井戸水給水の準備をしました。平成18年に防災マップを作った時点で、町内の9ヶ所の井戸の調査は済んでおり、持ち主には非常時の水の提供の承諾も取り付け済で「防災救命井戸」と名付けて自治会の防災マップにも表示していました。
 水質検査済の飲用井戸は3ヶ所ありましたが、いずれも電動での汲み上げなので、停電になると動きません。ですから小型のガソリン発電機と予備ガソリンは準備していました。1台の発電機で1箇所の井戸を汲み上げ、大きなプラスチックの漬物樽や300ℓのポリタンクに貯水し、満タンになれば発電機を次の井戸に移動して同じことを繰り返します。
 連続して大量に汲むと井戸は枯れて水が貯まるまで時間がかかります。ですから1人10ℓに制限しました。3ヶ所の飲用井戸の内1ヶ所は深い井戸で、水脈が優秀で、蛇口も4ヶ所あり、そこから好きなだけ水を取っても5日ぐらいは枯れませんでした。おかげで150戸の住民は、パパやママが仕事に出て不在の間に、老人や子供が町の避難所のグランドにある給水所で、雪が舞い散る寒空の中、3時間も並んで6ℓの配給を受ける、という辛い思いはしないで済みました。さらに、トイレに使う生活用水も、飲用不適の手動ポンプの井戸や、農業用エンジンポンプを使って、近くの水路から汲み上げて、500ℓポリタンクに貯めてバケツで分け合って使いました。発電機からは携帯の充電もでき、屋外に置いた発電機からコードで室内のテレビにもつないで映像の情報も取れました。


大地震では必ず停電と断水が発生
井戸の所在を調査し、臨時利用の了解を


  この事から当然に言える事は、建物の倒壊や損壊が無くても大地震では必ず停電と断水が発生する事。地方自治体の自治会での必需品は、小型発電機と携帯缶でのガソリンの備蓄である事。および、家庭用・業務用を問わず、井戸の所在を調査しておき、非常時に臨時利用の了解を取っておくことです。大都会でも意外に普段から地下水を業務に利用している会社や事業所もあるはずです。
「区長、昔から水は命だと言うからね、お役に立つならいつでも使って下さいよ」と言って快く協力してくれた井戸提供の方の言葉が忘れられません。


(平成25年10月)



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