平成2年7月18日フィリピン地震災害

救助活動

フィリピン地震災害

はじめに フィリピン共和国地震災害の状況
国際消防救助隊の構成と携行資機材
行動日程 救助活動 尾崎統括官に聞く 隊員の手記

4.救助活動

7月19日(木)にバギオに入ってから23日(月)まで、ハイアットテラスホテルが今回の救助活動の舞台となった。また、19日にはホテルロイヤルインでも救助活動を行った。

機材をジープニーに積み込み活動現場へ向うIRT隊員

ハイアットテラスホテルでの救助活動

 日本の救助チームが到着した時の状況は、中央部宿泊棟が後ろに向かい崩壊。ホテルの駐車場に現地対策本部が設置され、避難民及びホテル内関係者等が多数集結していた。西側宿泊棟はパンケーキクラッシュを起こし完全に崩壊していた。

パンケーキクラッシュ状態で倒壊しているハイアットホテル

ねじ切れる様に切断した柱

 日本チームは、現地対策本部、フィリピン救助隊及び先着の米国チームから現在までの救助活動状況と日本チームの担当場所について協議した結果、5才位の女の子が居るという情報に基づき、西側宿泊棟4階の西面を担当することに決定し、救助活動に着手した。

ア 44号室の救助活動

  • (ア) 4階部分は、南側バルコニー部分の空間を除いて、西面は、パンケーキクラッシュにより、2~30センチメートル程度の隙間しかない状況で音響探知機、ファイバースコープによる検索を決定

ファイバースコープで内部を検索するIRT隊員

  • (イ) 検索進入口を設定するため、日本から携行した削岩機でコンクリート壁体の破壊を始め、2メートル程堀り進んだ所で、作業スペースと作業効率の面から、エアーハンマーに切り替え破壊作業を実施
  • (ウ) 坑木を設定してコンクリート壁及びガレキ等の落下防止を図りながら、鉄筋をアセチレンで溶断し検索活動を実施
     なお、エアーハンマーの震動による天井及び床の落下危険が高いことからノミとハンマーによる手堀りによる破壊作業に切り替え、さらに検索活動を実施
  • (エ) 20日午後、ベットルームに到達し、ファイバースコープを使って検索したが発見できなかったので、さらにガレキを手で排除しながら検索活動を実施した。そこで子供の衣服、人形、おもちゃのトラック等を発見したので、丁寧に取り出して対策本部を通じ、関係者に引き渡した。

検索を続けるIRT隊員

イ 19、20、21日の救助活動

34、44、64、74、84、94、104号室を同様の方法により、検索活動を実施した。

ウ 106号室の救助活動

  • (ア) 21日 11時30分現地対策本部及び106号室宿泊者の夫であるイルミネ氏からの要請に基づき106号室の救助活動を行う事を決定した。
    ※イルミネ氏の説明によると夫人は13人の仲間と会議出席のため、当ホテルに宿泊していたが会議に出席した人に聞いたところ、当日イルミネ夫人は何らかの理由で会議に出席していなかった。従って、ホテルに居た可能性が強いとのことであった。
  • (イ) 南側バルコニー部分からの進入を決定し、救助活動を開始したがバルコニーは、約70度の角度で北側に傾いており、室内の床部分はバルコニーの境目から、大きく湾曲し、天井の壁がガッシリと家具を押しつぶしており坑木による壁体の支えと確保ロープなしでは進入、退出とも不可能な場所であった。
  • (ウ) 機材に確保ロープをつけて音響探知機とファイバースコープを活用し検索活動を行った。現場は傾斜角度がきついため、自分の身体を確保するのも容易でない状況であった。

フィリピン救助隊と合同で検索活動中のIRT隊員

  • (エ) ガレキの除去は、ひとつひとつ拾って洗面器に入れ手渡しで外に出し、壁間にくい込んだ家具は坑木で壁の支えを作ってから、鋸で切り崩しロープで引張り出す方法で行った。
  • (オ) 13時00分 ソファーの下からカバン、書籍、靴を発見し、イルミネ氏に確認させたところ夫人の物であることが判明、現地対策本部を通じ、イルミネ氏に引き渡した。

ハイアットホテルの客室内部を検索するIRT隊員

  • (カ) ガレキの搬送作業には、現地対策本部を通じ、フィリピン救助隊員15名の協力を求めて効率的な救助活動を行った。
    なお、その後の状況は次のとおりである。
    16時25分 強い余震、全員無事。救助活動続行
    16時33分 ゲストルームに進入、検索開始する。
    17時40分 洋服、ボストンバックを発見
    18時05分 身分証明証とハンドバック、106号室用の鍵を発見
    19時15分 ファイバースコープで確認するが発見できず、現地対策本部及びイルミネ氏も日本チームの活動結果について納得した。
  • (キ) 救助活動については、現地対策本部及びイルミネ氏に現況と今後の活動内容並びにその結果を適宜通報し、理解を得ながら実施した。

ホテル近くにテントを張り5日間の野営を行った

毎日、救助活動に関するミーティングを実施した

エ 21日、22日の救助活動

56、106、116号室を同様の方法で検索活動を実施した。

ホテルロイヤルインでの救助活動

  • ア 当ホテルは、市の中心部に位置し、地上5階の建物で1、2階部分が挫屈崩壊したものであり、要救助者が2名いるという情報で災害対策本部の要請により必要資器材を携行し、隊長以下6名で現場へ急行した。

1階部分が挫屈したホテルロイヤルイン

  • イ 先着の比国救助隊は、2階の検索と3階床下部分の破壊を実施しており、米国救助隊は、救助犬で検索中であり、3階部分で犬がほえるので、要救助者がいるとのことであり、計3名の要救助者がいるという情報であった。
  • ウ 2階4号室の上である15号室中央に削岩機で穴を開け、ファイバースコープで確認。更に道路面から、ハンマーで壁体を破壊し、4号室を側面から検索、要救助者の無いことを確認した。

ハンマーで壁体を破壊し進入路を確保するIRT隊員

  • エ 2階8号室上である20号室前廊下に削岩機で穴を開け、ファイバースコープで確認、更に道路面からファイバースコープで8号室、7号室と検索し、要救助者の無いことを確認した。
  • オ 何れも比国救助隊にもファイバースコープをのぞかせ確認させ、納得した。
    ※なお、建物周囲には雨の中、多数の住民等が救助活動を見守っており、日本の救助隊は極めて節度ある救助活動、情愛あふれた自信に満ちた救助活動を行い、比国救助隊はもとより住民にもそれなりの評価を受けたものと思われる。
  • カ 隊員の進入は、一部破壊された隣接建物側の室内2階から入り、3階に至った。資材は、すべて挫屈した側の開ロ部から、3階にロープにより引き上げた。

ロープで3階を進入するIRT隊員