本願寺の逆さイチョウ

本願寺の逆さイチョウ


3.本願寺の逆さイチョウ(京都府京都市)

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昔から怖い恐ろしいものとして、地震、雷、親父と共に挙げられているのが火事。消防庁の調べでは、平成8年には、全国で62,066件、1日に約170件もの火災が起こっている計算になります。
皆さん、くれぐれも火の用心を心がけてください。
さて、京都の本願寺には国宝、重文など文化財が多いため、防災に関しては特に最新の注意が払われています。今までにも一応の設備はしてあったのですが、完全を期するため、総合防災施設の設置工事が近年行われ、防災の面からも全国でも屈指の寺院となりました。
内容は、建物全てに自動火災報知器が付けられ、京都・大徳寺などにも設置してある、高さ60mにも届く放水銃(高圧消火栓)が新たに各所に配されたほか、従来から有る消火栓も増改修、整備されました。
それでは、その昔はどうだったのでしょうか。石山合戦後、本願寺は紀伊鷺森、和泉貝塚、大塚天満と寺基を移し、結局、豊臣秀吉の寄進で天正19(1591)年、現在地に移転しました。しかし記録によると、元和3(1617)年12月20日、浴室から出火し、現代のように消防車が来るわけではないので、両堂をはじめ対面所など大部分を消失してしまいました。
さらに、天明8(1788)年1月、京都に大火が起こり、火の手は本山を襲ったのですが、阿弥陀堂門、接待所など一部を焼いただけで、再建成った現在有る両堂は危うく難を逃れました。どうしてでしょうか?
ご影堂門を入ると、横に広がる大木が目に入ります。これはイチョウなのですが、普通は天に高くそびえるのに対してまるで反対なので、古くから「逆さイチョウ」の名で親しまれています。苗木のときに逆さに植えられたから、横に広がる状態になった、という説が言われています。
イチョウには耐寒耐暑性があり、所によっては暴風、防火林として用いられています。さらには水分を多く含んでいることから、天明大火のとき、高温にさらされて一気に水を噴きだしたのです。樹齢は300年以上といわれているのを信用すれば、現在地に移った後に植えられたということでしょうが、元和のときはまだ若木のため水をだす能力がなかったのでしょう。しかし、天明のときには立派に成長していたため、水を噴いて火をくいとめ、両堂を守ったのです。
実は、そういう理由で異称「水噴きのイチョウ」として<本山七不思議>の一つに数えられてきました。まさかイチョウが勢いよく水を噴くわけないですから、あくまで伝説として古老たちは語り継いできました。おそらくは、元和の火災後、先達の苦労で再建された文化財であるこの両堂を災害から守り、後世の人に真実のみ教えと共に伝えていくことの必要性を、このイチョウを借りて古老は言いたかったのではないでしょうか。
ちなみにこのイチョウ、樹勢の衰えが目立つようになったため、平成6年、樹木医によって治療を受け、再び正気を取り戻して、参拝者の目を楽しませてくれています。

出展:亀川正史「本願寺のおもしろ散歩」本願寺出版社 1991