平成9年10月22日インドネシア森林火災

(第一次国際緊急援助隊専門家チーム) ボルネオ島上空の濃煙

インドネシア森林火災

派遣期間~活動概要 ボルネオ島上空の濃煙
インドネシア森林火災災害に感じたこと 活動写真

(第一次国際緊急援助隊専門家チーム) ボルネオ島上空の濃煙

6.ボルネオ島上空の濃煙

( 消防庁消防研究所 山下邦博 )

飛行機で成田からジャカルタに行く時にボルネオ島の一部上空を通過する。今回、そこを通過する時に6年前に見た光景が鮮やかによみがえってきた。窓ガラス越に外を見るとダイナミックな入道雲が何本もそそり立ち、その雲の隙間から日陰の大地が見えた。地上には黒緑色の森林が横たわり、一部の箇所でスコールに打たれて森林が白くなり、蛇行している河は濁って褐色に変わっていた。熱帯の大気活動と森林の営みが活発で、自然界すべてにバイタリテイが感じられる光景であった。
今回も、あの時の光景を見ようと思い、窓ガラスのブラインドを少しあげて外を見ていた。スチュアデスに飛行機の現在位置と高度・速度を尋ねると、マレーシアのサラワク州の当たりを通過しているとのことで、飛行高度は約10,000メートル、飛行速度は時速850 kmであることがわかった。今回、飛行機の中から見た外の景色は、前回と大きく異なり、山林火災の濃煙が、大地全体を覆い尽くしていた。入道雲は殆どなく、あっても上昇する勢いが弱かった。飛行機は2時間以上もこの濃煙の上を飛んでいることから、濃煙が滞留している距離は、推定で1700キロメートル以上に及んでいた。あの濃煙の下は有毒の成分を含んだ煙が充満する異様な世界であり、恐ろしい光景であった。このような多量の煙の発生場所と発生原因を知りたいと思った。
私が小さい頃、当時人気のあったマンガから、ボルネオやスマトラと言えばすぐにジャングルと象などの猛獣を連想した。6年前にボルネオ島の東海岸にあるサマリンダを訪れる時、車から見た森林の景色は、アランアラン草原、畑、あるいは明るい森林ばかりで、子供の頃のイメージと全く異なったものであった。サマリンダ近郊の東海岸は、長い年月の間に森林開発が進み、かつてジャングルであったところが草原や畑に変わってしまっているようであった。
今回、スマトラ島の東沿岸にあるブルバック国立公園内で発生している山林火災をみることができた。この森林は、小さい頃に抱いていたジャングルのイメージに非常に近いもので、林内には大きな樹木と倒木が散乱し、道を切り開いて進む案内人に続いて火災現場に進んだ。その公園で見た火災はほぼ鎮火しているが、太い倒木がまだくすぶっていた。倒木から出る煙はわずかであり、飛行機から見たあの多量の煙はここではなく、別の所から発生しているようであった。この国立公園内では複数の火災が発生していることから、なぜ国立公園でそのようなことが起きることが不思議に思われた。
林野庁から派遣されている宮川氏によると、この地域の森林はジャンビ州から南スマトラ州まで広がるスマトラ最大の泥炭湿地林で、この森林を残すため最近になって国立公園に指定されたという。泥炭湿地林は土壌環境が悪く、農業に適していないことから過去には殆ど利用されることがなかった。しかし、20年程前からこの地域にも移住者が増え、泥炭湿地林の開発が盛んに行われるようになってきた。しかも付近住民が国立公園内に侵入して不法な焼き畑移動耕作をしており、それが火災原因の一つでもあった。異常乾燥状態になると必ずといえるほどに大規模の山林火災が発生していることから、このような状態を放置すれば国立公園といえども泥炭湿地林は数十年後に消失する恐れもあるように思われた。
今回の滞在中、大規模農園の火災現場を視察することはできなかったが、オイル・パームなどの老樹幹を焼却処分する時に多量の煙が出るという。煙害をなくするためには老樹幹を牧畜飼料に変えるなど新しい処分方法を確立し、それを普及させることが急務である。スマトラ島には熱帯降雨林、泥炭湿地林のほか、プランテーション農地、広大な荒廃地が分布している。今後、森林・農地・荒廃地の適正利用を目指しながら、それぞれの地域・事業体で防火・消火体制を見直して森林の・土地の管理体制を強化することが必要であると思われる。