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火災原因調査シリーズ(61)
東北地方太平洋沖地震により東京消防庁管内で発生した火災事例東北地方太平洋沖地震により東京消防庁管内で発生した火災事例

1 はじめに

 平成23年3月11日14時46分頃、三陸沖で発生した東北地方太平洋沖地震(M9.0)は、宮城県栗原市で震度7、宮城県、福島県、茨城県、栃木県で震度6強の強い揺れを観測するとともに、地震により発生した大津波により東北地方から関東地方の太平洋沿岸部に壊滅的な被害をもたらした。
 この地震により、東京都内では震度5強を観測、東京消防庁では、地震発生とともに全職員を招集する震災非常配備態勢を発令し、都内各所で発生した火災や宿泊・会議施設の天井崩落現場、大型スーパー駐車場のスロープ崩壊現場、エレベーター閉じ込め現場などで消火や救助救急活動を実施した。
 また、被災した東北各県に対し、緊急消防援助隊として多数の車両と職員を派遣して消火・救助・救急活動を展開するとともに、東京電力福島第一原子力発電所で発生した、放射能漏れ事故に伴い冷却機能が停止した原子炉を冷却するため、3月19日、当庁の消防救助機動部隊(通称:ハイパーレスキュー隊)が屈折放水塔車、ホース延長車及び送水車による放水活動を実施した。
 本稿では、この地震に起因して発生したと考えられる当庁管内の火災事例について、その概要を紹介する。

2 火災の状況

 火災件数は34件(3月11日の地震に起因した火災32件、4月以降の余震に起因した火災2件)で、このうち延焼火災(部分焼以上の火災)は7件発生した。焼損棟数34棟、焼損床面積58㎡、焼損表面積973㎡で、死者の発生はなく、負傷者は7人発生した。
 3月11日の地震に起因した火災32件の主な出火原因をみると、電気ストーブに起因したものが9件、配電用変圧器に起因したものが5件、鑑賞魚用ヒータに起因したものが3件などとなっている(表参照)。

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3 火災事例

3ー1 電気ストーブから出火した火災

(1) 火災概要
発災場所 三鷹市
用  途 防火造2階建住宅
焼損物件 2階12㎡焼損

(2) 発見・通報・初期消火状況
 出火建物の近隣店舗にいた従業員は、きな臭い臭気に気づき店外に出て確認したところ、住宅2階から煙が上がっているのを発見し、店に戻り他の従業員に火災を知らせ、店の電話で119番通報した。火災の知らせを受けた従業員は、店舗から水道ホースを延長して初期消火した。

(3) 原因概要
 地震により、本棚から落ちた本が電気ストーブの上に落下してスイッチが入り、ヒータの熱によりストーブ周囲に散乱した本に着火し、出火したものである(写真1、2参照)。

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写真1 出火室の状況

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写真2 電気ストーブの状況

3ー2 配電用変圧器から出火した火災

(1) 火災概要
発災場所 千代田区
用  途 耐火造地上38階地下3階複合用途
焼損状況 25階電気室の配電用変圧器若干

(2) 発見・通報・初期消火状況
 出火建物の中央監視室勤務員は、警報端末の過電流警報が発報したため、他の勤務員と25階電気室に行きキュービクル内を確認した。
 変圧器を確認すると、振れ止め金具等に溶融と変色があることを発見し、直ちに電磁遮断器の電路を遮断して初期消火した。
 中央監視室にいた勤務員は、現場を確認した勤務員から連絡を受け消防署に通報した。

(3) 原因概要
 電気室内の変圧器の振れ止め金具が、地震により振動し、変圧器の二次側端子部分に取り付けられた銅バーに接触したことから地絡し、出火したものである(写真3、4参照)。

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写真3 出火した配電用変圧器の状況

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写真4 銅バーの焼損状況

3ー3 鑑賞魚用水槽が転倒し鑑賞魚用ヒータから出火した火災

(1) 火災概要
発災場所 豊島区
用  途 耐火造2階建共同住宅
焼損状況 3階25㎡及び外壁等10㎡焼損

(2) 発見・通報・初期消火状況
 地震発生後、児童の交通誘導をするため通学路で待機していた女性は、近隣建物3階のベランダ側の窓から白い煙が出ているのを発見した。発見者は、近隣者に煙が出ていることを知らせ、知らせを受けた近隣者が、自宅の電話で119番通報した。

(3) 原因概要
 共同住宅居室内のスチール台上に設置していた観賞魚用水槽が地震により倒れ、水槽内で使用していた観賞魚用ヒータが衣類上に落下したため、サーモスタットが水温を感知できなくなり、過熱し出火したものである。
 なお、本ヒータに温度ヒューズは設置されていなかった(写真5、6参照)。

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写真5 出火室の状況

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写真6 鑑賞魚用ヒータの状況

3ー4 エレベータ昇降路内から出火した火災

(1) 火災概要
発災場所 新宿区
用  途 耐火造地下12階地上2階建病院
焼損状況 エレベータピット内埃若干焼損

(2) 発見・通報・初期消火状況
 地震発生直後、出火建物の防災センター勤務員は、エレベータ利用客から「火災のような臭気がする。」との連絡を受け警備員に各エレベータを確認させた。煙と臭気を確認した警備員は、直ちに防災センターに連絡し、防災センター勤務員が119番通報した。防災センター勤務員から連絡を受けた建物保全業者が、地下1階のエレベータ昇降路内を確認したところ、ピット内の埃が燃えているのを発見し、消火器1本を使用して初期消火した。

(3) 原因概要
 地震によりエレベータかごが振動して、バランスウエイトがレールから脱線し、その状態でエレベータを稼働させたため、レールとバランスウエイトの摩擦により発生した火花が周囲の潤滑油及び埃に着火し出火したものである(写真7、8参照)。

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写真7 昇降路内部の状況

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写真8 昇降路ピット内の焼損状況

3ー5 転倒したスチール棚により、ガステーブルが点火し出火した火災

(1) 火災概要
発生場所 墨田区
用  途 耐火造8階建複合用途
焼損物件 5階住戸内天井、内壁各1㎡焼損

(2) 発見・通報・初期消火状況
 出火建物2階飲食店の店長は、地震発生直後に自動火災報知設備のベルが鳴動したため、7階の受信盤を確認すると5階を火災表示していた。
 5階に行くと、住戸の玄関扉から煙が出ているのを発見し119番通報した。近隣で建築工事中の作業員は、火災を聞き付け、他の作業員10人と7階ベランダから避難はしごで5階住戸に進入し、消火器10本を使用して初期消火した。

(3) 原因概要
 台所のガステーブル前にあったスチール棚が地震により転倒した際に、ガステーブルの点火スイッチ(プッシュ式)に当たり点火状態となり、スチール棚上に置かれていたタオル等に着火し出火したものである(写真9、10参照)。

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写真9 出火室の状況

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写真10 ガステーブル点火スイッチの状況

3ー6 ビル屋上の防水工事中に出火した火災

(1) 火災概要
発生場所 江東区
用  途 耐火造10階建建築中建物
焼損状況 屋上表面積945㎡

(2) 発見・通報・初期消火状況
 建物屋上で防水工事中の作業員は、地震の揺れによりアスファルト溶解炉から溶解したアスファルトがこぼれ出て、溶解炉の石油バーナ付近から炎が上がるのを発見した。作業員数名が消火器で初期消火に当たったが消火できず避難した。
 地震発生に伴い、付近を警戒中であった消防職員が、ビル屋上から黒煙が上がっているのを発見し通報した。

(3) 原因概要
 アスファルト溶解炉を使用中、地震の揺れにより、炉からこぼれたアスファルトが溶解炉の石油バーナの炎で着火し、敷設されたアスファルトに延焼拡大したものである(写真11、12参照)。

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写真11 屋上の延焼状況

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写真12 アスファルト溶解炉の状況

4 おわりに

 3月11日以降の余震や計画停電に備えた照明替わりのロウソクから出火する事例も発生しており、本稿が今後の震災対策と火災予防対策の参考となれば幸いである。
 東北地方をはじめとする被災地の皆様に謹んでお見舞い申し上げますとともに、一日も早い復興をお祈り申し上げます。