消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(53)
電気火災洗濯乾燥機からの出火事例について

1 はじめに

 本火災は、共同住宅の一室に置かれた洗濯乾燥機内部から出火したもので、同製品は不具合により出火の恐れがある との内容のリコールが出されており、鑑識実施前に消防研究センター火災原因調査室に途中経過を報告したところ、同 製品にリコール以外の不具合からの出火の可能性がある火災が数件あるとの情報提供を受け、後日に製造会社担当者の 立会いの下、鑑識時にこの不具合箇所についても併せて確認し、出火原因を判定した事例です。

2 火災概要

(1) 出火日時
 平成20年10月 12時頃
(2) 出火場所
 札幌市厚別区 共同住宅
(3) 焼損状況
 防火造地上2階建て延べ495㎡のうち、焼損床面積2㎡及び収容物の一部焼損
(4) 出火時の状況
 居住者が洗濯乾燥機内に洗濯物を入れ乾燥運転していたところ、突然室内の照明等の電気が切れ、洗濯乾燥機の上部 から炎が立ち上っているのを発見したため、119番通報するとともに、バケツで水を汲み炎に向かって数杯かけ、ほぼ 消し止めたものである。

3 現場の見分状況

 出火室内床上の北西角付近に、洗濯乾燥機及びその上を覆うように金属製ラックが置かれており、焼損は同所周辺に 限られる。
 壁体及び天井は、ラックの上端を起点として上方に向かって扇形にクロスが焼失し、露出した石膏ボードが褐色に変 色している。
 ラックは、棚上に置かれた樹脂製品等が全体的に溶融している。
 洗濯乾燥機は、上部の樹脂製外蓋の大部分が溶融及び変形し、内側に落ち込んでいる。
 また、正面から見て右側面上部の樹脂製カバーに、円状の焼失箇所が認められる。

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写真1 出火室内北西角付近

4 製品概要等

 現場を見分した結果、室内の焼損は洗濯乾燥機上部から上方に向かって燃え広がったと考えられ、同製品にはリコー ルも出されていたことから、洗濯乾燥機内部の鑑識については、後日に製造会社担当者の立会いの下、実施することと し、それまでの経過を「電気用品及び燃焼機器に係る火災等事故報告」(平成18年9月19日消防予第398号)に基づき、 消防研究センター火災原因調査室に報告したところ、同製品にリコール以外の他の部品の不具合から出火した可能性の ある火災が数件あるとの情報提供を受けた。
 ここで、洗濯乾燥機の概要並びにリコール内容及び情報提供を受けた他の不具合について詳述する。

(1) 製品概要
  ・ 横回転ドラム式
  ・ ドラム横に乾燥用シーズヒーターがあり、送風ファンに よりドラム内に温風を送る構造
  ・ 製造期間は、2002年4月~2003年10月の間、国内で9万台 弱を販売

(2) リコール内容
 乾燥用シーズヒーターの電気回路中の、サーモスタット接続端子部分と配線の圧着部分が二箇所あり、一つは芯線の み、一つは配線被覆ごと噛み込まなければいけないところを、二箇所とも配線被覆ごと噛み込まれているものがあり、 端子と配線の接触不良から、同所で発熱し出火する恐れがあるとの内容である。
 なお、社告後も複数の火災が発生したことや、当該リコールの修理ミス等から、同様のリコール内容で計3回の社告 が出されている。

(3) 他の不具合内容
 消防研究センター火災原因調査室からの情報提供によると、最近になってリコール外である温度ヒューズ接続端子付 近からの出火と考えられる火災が数件報告されているとのことであった。

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図1 不具合箇所概略図

5 鑑識見分状況

 洗濯乾燥機の両側面については、正面から見て右側を右側面、左側を左側面とする。

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写真2 洗濯乾燥機外観前面

 外観の焼損は、天板及び右側面上部に限られ、他の面に焼損は認められない。
 右側面は、金属製の側板に焼損は認められず、上部の樹脂製カバーの中央付近のみに円状の焼失が認められる。

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写真3 洗濯乾燥機外観天板

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写真4 洗濯乾燥機外観右側面

 天板は、ドラム外蓋及び樹脂製の上部カバーで構成され、ドラム外蓋は中央付近の大部分が溶融しており、左側面側 に比べて右側面側の溶融範囲が大きく、右端の一部が焼失している。
 樹脂製の上部カバーは、右側面側前方に操作パネルが取り付けられており、その操作パネルの後端付近から中央にか けて焼失している。
 焼失範囲は、左側面側に比べて右側面側の焼失範囲が大きく、ドラム外蓋の焼損と合わせて全体的に見ると、操作パ ネル後端付近のドラム外蓋と上部カバーとの境界付近を中心として燃え広がった様相である。

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写真5 洗濯乾燥機前板裏面

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写真6 洗濯乾燥機天板裏面

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写真7 洗濯乾燥機側板裏面

 金属製の前板、側板及び後板、樹脂製のドラム外蓋及び上部カバーを取り外し、各外装の内側を確認すると、前板、 側板及び後板裏面に焼損はほとんど認められず、ドラム外蓋及び上部カバー裏面は、樹脂の溶融及び右側面側の一部に 焼失が認められる。
 表裏の焼損範囲を比べると、裏面の範囲がやや広いことから、内部側から燃え広がった様相である。
 各外装除去後の内部部品を確認すると、内部の焼損は天板側及び右側面上部に限られる。
 内部天板側中央には、樹脂製のドラム内蓋がとりつけられており、右側面側の表面が溶融している。
 なお、ドラム内蓋裏面及び洗濯物を含めた洗濯槽内部に焼損は認められない。

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写真8 洗濯乾燥機内部前面

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写真9 洗濯乾燥機洗濯槽内

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写真10 洗濯乾燥機内部右側面

 右側面上部には、乾燥機能用のヒーター部が取り付けられているが、金属製のヒーターカバーを取り外し、確認する もシーズヒーターを含め内部に焼損は認められない。

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写真11 シーズヒーター内

 ヒーターの外側上部には、溶融した樹脂が付着している。
 なお、立会人の製造会社担当者によると、同付近にはヒーターの安全回路であるサーモスタット及び温度ヒューズが 取り付けられており、それらを覆うように配線保護用の樹脂製カバーが取り付けられていたとのことである。
 ヒーターに接続された配線類は、配線被覆が焼失し芯線が露出しており、その内1本の配線の接続端子付近に断線が 認められる。

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写真12 ヒーター配線周辺

 この接続端子は、ヒーター内部の温度が上昇した場合の安全装置である電流を遮断するサーモスタットに繋がる接続 端子で、正面から左側の接続端子と配線の接続部分が断線しており、断線箇所周辺に緑錆の付着が認められる。

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写真13 サーモスタット周辺

 なお、同配線の同等品を見ると、サーモスタットに繋がる接続端子には二つの噛み込み部分があり、一つが配線被覆 ごと、もう一つが芯線のみ噛み込まれた状態で認められる。

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写真14 サーモスタット接続端子同等品

 サーモスタット接続端子の下方には、溶融滴下した樹脂が付着した接続端子があり、樹脂を除去し端子付近を確認す るも、断線等の異常は認められない。

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写真15 ヒーター配線周辺

 この接続端子は、もう一つのヒーター内部の温度が上昇した場合の安全装置である温度ヒューズに繋がる接続端子で 、端子両極間の電気抵抗値を測定すると、無限大の値を示すことから、内部の温度ヒューズは切断状態である。

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写真16 温度ヒューズ導通確認

 なお、立会人の製造会社担当者によると、温度ヒューズは摂氏182度以上で溶断する設定になっているとのことである。

6 出火原因判定

(1)  洗濯乾燥機の焼損は、サーモスタット接続端子付近の焼損と、ドラム外蓋及 び上部カバー等の外側部品との焼損の位置関係を全体的に見ると、サーモスタット接続端子の位置は、ドラム外蓋及び 上部カバーの焼損範囲の中心及び右側面の上部カバーの焼失箇所とほぼ等しく、サーモスタット接続端子付近から外側 に向かって燃え広がった様相であること。

(2)  サーモスタット接続端子付近の配線に断線が一箇所認められ、緑錆の付着が 認められること。

(3)  出火室の居住者は、「出火時、洗濯乾燥機は乾燥運転中であり、突然室内の 電気が切れた。」と供述していること。

(4)  該洗濯乾燥機の製造会社担当者によると、洗濯乾燥機は製品不具合による出 火の恐れがあることからリコールを行っている製品で、不具合内容は、サーモスタット接続端子の噛み込み不良から、 配線の接触不良が起こり通電時に発熱する可能性があり、出火した洗濯乾燥機の製造番号から修理履歴を調べたが、同 不具合を修理した事実はないとのこと。

 以上のことから出火原因は、洗濯乾燥機内部のヒーター配線のサーモスタット接続端子の噛み込み不良から接続不良 の状態となったことにより、銅製の配線が徐々に酸化して接触抵抗値が増加し、通電時に接続端子付近で発熱し、周囲 の配線被覆が着火したものである。
 なお、サーモスタット直下にある温度ヒューズが切断状態であったが、接続端子付近に著しい焼損は認められず、火 災熱によるヒューズの溶断と考えられる。

7 類似火災防止対策

 製造会社担当者には、当局としては既出のリコールの不具合内容を要因とする出火と考えていることを伝え、担当者 からも同様の見解を得た。
 また、その際に、消防研究センター火災原因調査室から情報提供のあった温度ヒューズからの出火の他に、ヒーター 配線自体の屈曲疲労によるものと考えられる出火もあるのと情報を得た。
 その場で、暫定的な指導として、リコール内容以外からの出火や、更に既出のリコール内容からの出火も起きている ことを重く受け止め、販売者として必要な対策を講ずるよう口頭で指導した。
 後日、以上を踏まえた鑑識結果を消防研究センター火災原因調査室に第二報として報告したところ、既に製造会社か ら温度ヒューズ等の不具合について再リコールする方向で調整に入ったとの情報を得たため、当局からは販売会社に対 する口頭指導に留め、改善要望書の提出等は行わなかった。
 その後、同年11月に製造会社から経済産業省に各不具合に関するリコールの報告書が提出され、本火災事例の出火原 因である過去のリコール内容も含めた社告が出されている。
 これは、同機種としては異例の4度目の社告となる。

8 おわりに

 本火災の出火原因は、たまたま既にリコールが出されている箇所からの出火であったが、場合によっては、未リコー ルの温度ヒューズ不具合箇所からの出火も考えられ、事前情報が無ければ未リコールの箇所を見逃し、出火原因を見誤 る可能性もあった。
 また、事前情報が無く、温度ヒューズについて確認を怠った場合、その後に温度ヒューズのリコールが出された時に 、該リコール箇所を確認しなかったことについて、もしかすると温度ヒューズからの出火も考えられたのではと、疑念 が付きまとうことにもなったであろう。
 リコールの出されている製品から出火した火災は、それが原因なのではないかと先入観が働き、ともすれば他の箇所 の見分が疎かになる可能性もあるという教訓となる火災であった。
 今後も、関係機関及び他都市との連絡を密に取り情報を共有化し、類似火災の防止に努めたいと考える。