消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(52)
電気火災投込み型電熱ヒーターから出火した火災について

1 はじめに

 小型で軽量な電熱ヒーターは、食品加工場などで液体の昇温、保温などさまざまな分野で利用されています。
 本事例では、再現実験から判定の根拠を得て、出火原因を特定したもので、発熱部が高温になる電熱ヒーターの取り扱いについて、作業員の不注意、使用方法の誤りなどの人為的要因が重なり火災になった事例として紹介します。

2 火災の概要

(1) 出火日時
平成19年6月 17時頃

(2) 出火場所
川崎市川崎区

(3) 被害状況
準耐火造平屋建て 建築面積1,072㎡の倉庫兼作業所のうち300㎡焼損

3 出火前の状況

(1)出火建物概要
  出火建物は、平成19年4月に建築されたもので、焼損した冷蔵倉庫は、AからD庫までの4室に区画され、A、C庫はバナナの保管庫、D室は空室であり、焼損したB庫は、ブロッコリーの個別梱包作業所兼保管庫として使用されていた。(図1参照)

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図1 冷蔵倉庫平面図

(2)B庫内及び作業の状況
 B庫内では、国内の生産地より氷詰めされ送られたブロッコリーを取り出し、大きさごとに選別して袋詰めし、再び氷と一緒に箱詰めして出荷しており、設備としては、製氷機、ベルトコンベアー、照明、氷溶解用水槽(以下「水槽」という。)に設置された投込み型電熱ヒーターがあり、出火時は、空調設備、製氷機のみが稼動し、室温は11℃に設定されていた。
 ブロッコリーの溶解作業は、投込み型電熱ヒーターを110℃に設定して13時30分から行い、出火時刻の約2時間30分前の14時30分頃に終了し、出火当時は無人であった。

4 見分状況

(1)焼損状況
ア B庫内部の状況は、内壁材である硬質ウレタンフォームが全体に焼け、特に水槽が設置されていた付近の北東側壁面の硬質ウレタンフォーム及び防火コートがすべて焼失し、鉄板製の天井面も、北東の一部が湾曲し変形している。
イ 倉庫内に設置されている電気設備(空調設備、ベルトコンベアー、照明、自動ドア、製氷機)は、表面に焼きは認められるものの、機器内部に焼きは認められない。(写真1参照)

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写真1 B庫内の焼き状況

ウ 水槽付近から発掘されたL字形の投込み型電熱ヒーターは、青い樹脂の溶融物が固着している。(写真2参照)

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写真2 焼損した投込み型電熱ヒーター

エ 電源ボックス内部にあるスイッチ部及び電源コードには焼き、溶融は認められず、ダイヤル式スイッチは「入」の位置にある。(写真3参照)

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写真3 ダイヤル式スイッチ内部の状況

(2)投込み型電熱ヒーター
ア 焼損した投込み型電熱ヒーターは、食品会社B社からの受注生産品で、水槽内で氷を溶かす使用目的で設計され、供給電源:200V、消費電力:5kW、設定温度:30℃から110℃のサーモスタット付きである。(図2及び写真4参照)

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図2 投込み型電熱ヒーター仕様図

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写真4 同型品投込み型電熱ヒーター

5 再現実験

 投込み型電熱ヒーターの電源スイッチが「入」の位置にあったことから、ブロッコリー梱包作業終了時の状況(水槽の側壁に立てかけ、固定せずに設置)を再現し、次の3点について検証を行った。
① 電熱ヒーターにより水が蒸発するか。
② 応急的にビニール袋で施した水槽の栓から水漏れがないか。
③ 空焚き状態になった場合、電熱ヒーターの過熱により水槽が発火するか。(写真5、6参照)

水:約300L、氷:約88㎏
水槽:1.3m×0.9m×0.4m

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写真5 再現実験の状況

水槽内に投込み型電熱ヒーター
を固定せずに設置

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写真6 空焚き時の状況(5分経過時)B庫内の状況

6 実験結果

(1) 180分経過時、水槽の水位に変化はなく、通常の使用状態では、作業終了時から出火時刻までの約3時間で、フレークアイスはすべて溶融するが、水槽の水が蒸発することはなかった。

(2) 排水口に応急的に設置したビニール袋から5分間に40㏄の漏水が確認された。

(3) 空焚き状態では、5分後に電熱ヒーターが592.7℃になりポリエチレン製水槽が燃焼を始めた。(写真6参照)

(4) 文献によると、ポリエチレンは発火点349℃、軟化点123℃、融点220℃であり、空焚きの再現実験では、融点に1分30秒、発火点には2分で達している。

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図3 空焚き燃焼実験

7 検討結果

(1) 倉庫内は、電熱ヒーターの設置していた付近が強く焼損している。

(2) 他の電気機器には、溶痕等が見分されなかった。

(3) 応急的に施した水槽排水口の栓から水漏れが認められた。

(4) 作業者が水槽内に溜まったブロッコリーの屑を捨てる作業を優先し、電熱ヒーターを水槽に固定する安全措置をとっていなかった。

(5) 電熱ヒーターが空焚き状態であると、ポリエチレン製水槽が過熱され、電熱ヒーターと接触している部分から発火し燃焼する。

8 出火原因

 作業者が作業終了後、氷を溶かすため水槽に入れてある電熱ヒーターの電源スイッチを切り忘れ、さらに、応急的に施した水槽の栓からの水漏れにより、水槽内の水がすべて抜けたことから、電熱ヒーターが空焚き状態で高温になったため、ポリエチレン製の水槽が過熱され発火し出火したもの。

9 おわりに

 本火災は、高温となる電熱ヒーターの電源スイッチの切り忘れ、不適切な使用方法、水槽の栓を応急的にビニール袋で施していたことなど、人為的要因が主であるため、本事例を参考に火災予防広報等において、高温となる電熱ヒーターの適正な取扱いの周知が必要であり、さらには、電熱ヒーターの製造メーカーに対して、取扱説明書への使用方法の明確な記載、納品時の説明を行うよう依頼しました。
 また、今回の火災では、状況から出火原因が特定されたが、再現実験等で判定の根拠を得ることも重要であり、このような実験データの積み重ねが、今後の火災調査の参考になると考えます。