消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(47)
地下タンクの撤去中に発生した火災について

 地球温暖化対策が国策として推進されています。この温暖化対策には様々な方策がありますが、一般的なレギュラーガソリンから、地球にやさしいバイオガソリンへの転換もそのひとつとなっています。
 本市において、バイオガソリン用の地下タンクに変更するため、旧の地下タンクの撤去作業中に発生した火災事案について紹介します。

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事故現場全景

1 火災概要

(1) 発生日時 平成19年6月某日 16時ころ
(2) 発生場所 京都市K区 給油取扱所(休止中)
(3) 被害状況 ・地下タンク(レギュラーガソリン用10,000㍑)の被膜塗装の一部を焼損。
・負傷者1名(中等症)

2 事故発生時の状況

 火災発生時の作業手順等については次のとおりです。

  • (1) 午前9時頃から地下タンクの撤去作業を開始しました。
  • (2) 当初の計画では、クレーン車によりタンクを地上に吊り上げ、トレーラーの荷台に積載し搬出する予定であったが、店舗のキャノピーが障害となり吊り上げ作業が不可能なため、重機のアーム先端にクラッシャー(鋏み)を取り付けて地上に引き上げ、アセチレンガス溶断機によりタンク本体を切断して搬出する計画に急遽変更しました。
  • (3) 作業順番として、1本目の地下タンク(灯油)、2本目の地下タンク(軽油)をそれぞれ地上に引き上げ、アセチレンガス切断機による本体の切断作業が終了しました。
  • (4) 3本目の地下タンク(レギュラーガソリン)を、先に実施した灯油用タンクや軽油用タンクと同様の手順で地上に引き上げ、アセチレンガス切断機で本体側面の切断作業を実施し、しばらくして突然、タンク内で爆発が起こり、地上引き上げ時にタンクの鏡面側に発生した穴から火炎が瞬間的に噴出し、同穴からタンク内部に散水作業を行っていた従業員が顔面等に火傷を負いました。
  • (5) 初期消火は、撤去作業を行っていた作業員が、工事現場の消火器を使用し鎮火させています。また、通報は、爆発音を聞いた近隣者から行われており、作業関係者からの通報は行われませんでした。

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3 消防隊等の活動状況

  • (1) 本火災に対し、指揮隊(本部、署)2隊、消防隊1隊、救助隊(本部、署)2隊、救急隊1隊の計6隊が出動しました。
  • (2) 先着隊の現場到着時、すでに鎮火状態でしたが、現場の状況から二次災害の発生が予想されたため、現場周辺を火災警戒区域に指定し、立ち入り制限等を実施しました。
  • (3) 爆発したタンク内に溜まっていた液体及びタンク内の気体成分を採取し、本部救助隊(特殊災害対策車)に積載のガスクロマトグラフによる分析を実施した結果、ガソリンの成分が検出されました。

4 撤去作業に関する事前作業等

 爆発した地下タンクの事前作業等は次のとおりでした。

  • (1) 事前作業は、6月13日(事故の9日前)に実施されました。
  • (2) 地下タンク内に残っている油(ガソリン)に対する中和剤及びタンク内での攪拌のための水の注入作業を実施しました。
  • (3) タンク内の残油量は100㍑と推定され、中和剤の注入量は約18㍑、攪拌のために水を約100㍑注入した後、抜き取り作業を実施しました。
  • (4) タンク内部に残っている可燃性蒸気をタンク外に排出するため、窒素ガス充填によるタンク内の置換作業を実施しました。
  • ※ 注入した窒素ガスの抜け防止対策として注油口の閉鎖は行ったが、他の通気管等の閉鎖は実施していない。
  • ※ 火災発生後、現場に埋設されていた他のガソリンタンク内の状況を確認したところ、タンク内には可燃性蒸気が充満しており、置換した窒素ガスは殆ど残留していなかった。

5 再現実験等の状況

 爆発の直接的な要因は、アセチレンガス切断火が、タンク内に残留していた可燃性蒸気に引火したものと推定されるが、事前作業として行っている中和作業の効果を検証するため再現実験を実施し資料収集を行いました。

  • (1) 中和剤の効果確認
     現場で使用された中和剤は、流出油の処理剤として広く使用されているもので、流出油量の約15~25%の範囲内の中和剤を混ぜて攪拌することで乳化させるものです。
  • ・ 予備実験として、ガソリン、中和剤、水の混合割合を変え、攪拌・乳化後における時間変化と引火性との関係について実験を実施しました。
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  • ・ 結果として、中和剤の説明書に記載されている割合より高い割合で混合し、攪拌乳化した場合で約30分間は引火する可能性が高く、時間を経過すれば引火する率が低下することが確認されました。また、中和剤の割合の低い場合や水量の少ない場合は十分に乳化せず、引火性が継続することが確認されました。
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  • ・ この実験では、ガソリンの量自体が少なかったため、揮発成分が早期に蒸発し引火性が低下したことが考えられ、中和剤の効果の確実性は確認されませんでした。
  • (2) 模擬タンクによる爆発実験
     中和剤による効果がどの程度であったのか、また、爆発時の火炎の噴出状況を確認するため、実物の1/125モデル(容積8,000㏄)を用いて再現実験を行いました。
     実験方法は、模擬タンク内に事前に作成した混合試料(ガソリンを25㏄、中和剤を25㏄、水を25㏄を攪拌混合し乳化させたもの)を注入し、電気火花により点火するもので、点火直後にタンク内で爆発が発生し、タンクの破損部分から火炎が約50㎝噴出し、衝撃波が感じられました。
     また、混合条件を変えた試料により同様の実験を行ったところ、いずれも引火、爆発しました。
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6 まとめ

 今回、撤去作業中の地下タンクが爆発するという火災を受け、業者の作業工程に潜む危険性や、中和剤の有効性等について検証しました。
 もとよりタンクの撤去、解体作業については現場において解体作業を実施しないことや、タンク内には水を充填し気相部が生じないようにする等、過去に発生した同種の事故を受けて様々な規制が設けられています。
 この火災は、安全管理の考え方を逸脱した作業工程により発生した事故ではありますが、複雑に関係する工事業者のうち、どの程度の関係者が危険物の性状や正しい作業工程を理解しているか疑問の残るところです。
 危険物行政を担当している消防機関として、市内の住宅地でこの様な事故が発生した事実を重く受け止め、更にきめ細かい業者指導と監視体制の強化を行う必要があると思われます。