消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(37)
その他の火災集塵機からの出火事例

1 はじめに

 本件火災は、重機部品(アームやブーム)のショットブラスト(㎜程度の鉄球を3000回転前後の高速回転ファンで飛ばし重機部品の不純物を取り除き塗装の乗りを良くするための工程)時に発生する鉄粉を集塵機に吸引中、集塵機から出火した事例である。集塵機は平成5年にもフィルター(ポリエステル製)に蓄積した静電気に起因すると考えられる火災が発生したため接地工事を施し対策を講じたが、再び同じ集塵機から出火したものである。
 ショットブラスト装置から集塵機に至るまでの作業工程を詳細に分析し、出火箇所及び原因を究明した事例である。

2 作業工程

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3 火災概要

(1) 出火日時 平成13年1月9日
12時50分頃
(2) 覚知日時 平成13年1月9日
13時03分
(3) 鎮火日時 平成13年1月9日
13時13分
(4) 出火場所 千葉市稲毛区
(5) 居住者・責任者又は所有者 S (株)千葉工場 工場長 58歳
(6) 被害状況 ア 人的被害 なし
イ 物的被害 集塵機基焼損
(7) 気象状況 天候 晴 風向 東北東 風速2.5m
 相対湿度 67.5% 実効湿度 60.4%
 気温 7.7℃ 気圧1,020hPa

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工場内配置図

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集塵機の設置状況

4 出火原因

 ショットブラスト時に発生する鉄粉を集塵機に吸引中、鉄粉を含んだ気流とフィルターとの摩擦によりフィルターに帯電した静電気のスパークが生じ、フィルターに着火したものと推定する。

5 焼き状況

 集塵機は長方形型のボックスであり、下部にはホッパー(上部のフィルターで濾過され落ちた鉄粉を貯めておく逆三角錐型の貯槽)が取り付けられている。

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集塵機本体の状況

(1)  ホッパーの焼き状況
 ホッパーの下部の鉄粉取り出し口付近に焼けはない。ホッパーの取り出し口の上部75㎝の高さから上方まで側板の焼けが強く、白い変色が見られる。

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集塵機ホッパーの焼けの状況

(2)  集塵機外壁の焼き状況
 ボックスは、南及び東側は上部、北及び西側は下部の焼けが強い

(3)  集塵機上部の焼き状況
 集塵用モーターと空気排出筒があり、焼けが強いのは排出口周囲の屋根板である。モーターに焼けは見られない。電気配線は被覆が焼きしているが、配線自体に短絡痕等は見られない。

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集塵機の集塵装置上部の状況

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集塵機の集塵装置の配線の状況

(4)  集塵機内部の焼き状況
 内部は一様に焼け、特に長方形型のボックスとホッパーの接続部付近の焼けが強く、針金で円筒状に組まれたフィルター固定具20本及びフィルターの接地に使用されていた銅製のアース線が落下していた。
 ポリエステル製のフィルターは固定具に巻かれていたが、すべて焼失し存在していなかった。
 最上部に設置されている集塵用のファンに焼けは見られなかった。

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集塵装置の内部(円筒状のフィルター固定具)

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集塵装置の内部(フィルター取付部の焼けの状況)

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集塵装置内部から出たアース線

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フィルターとアース線の接続の復元

6 出火原因の検討

 実況見分の結果、出火箇所は集塵機内部と判定され、関係者の供述及び実況見分状況から出火原因として、(1)電気関係、(2)ショットブラスト時に発生する火花、(3)集塵機内における鉄粉の自然発火、の3点が考えられる。  よって以下順次検討する。

(1) 電気関係

  • ア  電気配線からの出火
     集塵機内には、強制排気ファンモーター用配線とフィルター清掃用のブロアーリミットスイッチ用の配線があるが、いずれの配線にも被覆の焼けや溶解が見分されるものの出火に結びつく配線の短絡などは見られず、また、作業所内にある制御盤への異常信号も確認されていないことから、電気配線からの出火は考えにくい。
  • イ  静電気による出火
     火災が発生した集塵機は、平成5年2月9日にも同様の火災を起こしており、当時の火災原因損害調査報告書では、立証するに足りる確たるものが判明しないことから出火原因は不明とされた。S (株)千葉工場では、社内検討の結果、静電気による火災の可能性が考えられるとの結論を得て、集塵機内のフィルター20本に銅製のアース線を巻いて接地工事を行い出火防止対策を行ったものである。
     フィルターは平成5年の火災後、平成13年の火災までの間に5回交換されており、接地工事もフィルター交換時に新規に取り付けを行っている。  今回の火災では、静電気による出火対策は施されていたと考えられるが、次の事項について接地工事に関して何らかの不備があり、フィルターに非接地状態の静電気が存在し、スパークによりフィルターが発火したものと推定する。
    (ア)  接地工事に使用した銅製のアース線は継ぎ足し配線をしている箇所が多いことや、20本のフィルターすべてを渡り配線としており、工事が複雑であること。
    (イ)  工事を行った作業員への質問調書では、交換時に交換前のフィルターに取り付けられていた銅製のアース線が脱落や断線していた事例はないと証言しているが、接地工事のマニュアルやチェックリストは作成しておらず、完了後の確認検査も行われていないこと。

(2)  ショットブラスト時に発生する火花

  • ア  鉄粉による出火
     ショットブラストにより火花が発生した鉄粉は、集塵機へと吸い込まれフィルターにより濾過されるが、火花を放った鉄粉はすぐに放熱されることから、約8mの吸塵管を経て屋外の集塵機に至るまでには、火花状の鉄粉の持つエネルギーは低減され、これがフィルターに付着して発火する可能性は考えにくい。
  • イ  軍手の繊維(綿ほこり)による出火
     重機部品の搬送等の取扱いには軍手を使用しており、重機部品に軍手繊維が付着したままショットブラスト装置内に持ち込まれ、軍手の繊維に着火することも考えられるが、吸塵管を経る間にフィルター(可燃物)に着火させるだけのエネルギーはなくなるものと考えられる。

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ショットブラスト装置の全体

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ショットブラスト装置の重機部品入り側

(3)  集塵機内における鉄粉の自然発火
 鉄粉は空気中で酸化され酸化物となるが、その反応速度は一般的に遅く、発熱も急激には起こらない。しかし、微細な粉状の場合は、表面積が増大し空気中の湿気、温度、酸、などにより表面が活性し、摩擦、堆積による蓄熱などの要因が加わると自然発火の危険性が生じる可能性もある。
 作業工程のなかでショットブラスト前に重機部品の溶接箇所の内部傷を超音波で調べる際に油(作動油)を使用しており、鉄粉に油分が含まれていることから、更に火災を助長させる要因を含んでいると考えられる。
 ホッパーの状況を見分すると、鉄粉が堆積するホッパー下部に焼けがないことや鉄粉を大量に堆積させずに頻繁に排出していることから鉄粉の自然発火は考えにくい。

7 まとめ

 本件は、平成5年にも同様の火災が発生し、当時は静電気による疑いが強いとの結論から接地工事を施したにも係わらず、再び火災が発生したものである。
 本件のような機器からの火災調査は、製造物責任法に関係する場合が考えられ、メーカーの情報提供が不可欠であり、また、工場の作業工程を詳細に調査したうえで火災要因を分析し、再発防止策を徹底する必要がある。
 原因を火災要因の特性別に検討した結果は、次のとおりである。
 なお、対策は現在実施している内容である。

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集塵機火災要因分析