消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(32)
電気火災ハロゲンヒーターの火災事例について

1 はじめに

 今回は、通信販売等で環境に優しく、安全で急 速加熱できる暖房器具として人気の高い、ハロゲンヒ ーター の火災事例を紹介します。

2 火災事例

(1)火災概要

 本件は、平成15年の正月2日、ハロゲンヒーター を中心にベッド、寝具、衣類等を焼損した部分焼火災 である 。

(2)現場の状況

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(焼損状況)

P72_2

(床面の焼損状況)

  • (ア) 強い焼けがハロゲンヒーター付近に限られ、ハ ロゲンヒーターはガード及び反射板の金属部分のみ残 存して いる。
  • (イ) 床面に円形状の焼けがあり、付近に溶融した衣 類等が見分される。
  • (ウ) 他に火源となるものがない。
  • (エ) 関係者からの説明

(3)関係者の供述

 居住者の説明によると、「深夜帰宅して、2階自 室で着替えをし、脱いだ衣類をベッドの布団の上に置 いたま ま、布団を暖めるためにハロゲンヒーターの電源を入 れて、2 階から1階洗面室に降りて洗顔等をしました。約15分後 、自室 に戻ろうと階段を上がると自室から煙と炎が見えたの で、自 宅の電話で119通報しました。煙草は吸いません。」と のこと であった。

(4)原因概要

 関係者の供述及び現場状況から、火災の原因を 「ハロゲンヒーター」に絞り込み、右記写真のとおり 現場イ メージを再現し、燃焼実験を行うものです。

P73_t

(現場イメージ図)

3 燃焼実験

(1) 実験時期 平成15年8月~10月
(2) 実験場所 消防学校
(3) 実験の内容と方法 ア (実験-1) → ハロゲンヒーターの構造及び安全装置並びに温度測定
イ (実験-2) → 衣類等をハロゲンヒーターガードに接触した状況
ウ (実験-3) → 衣類等をガード部分から内部に差し込んだ状況
エ (実験-4) → ハロゲンヒーター本体の燃焼状況
(4) 実験に使用したハロゲンヒーターは、り災ハロゲンヒ ーター と同型の物品である。

4 実験結果

(1)実験-1

 ハロゲンヒーターを分解して、器具の構造を確 認するとともに、電熱部分の温度測定を行う。

ア 構造及び安全装置
消費電力~400W及び800W製造~台湾製

P74_1_t

(ハロゲン球)

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P74_3_t

(台座の裏側)

イ ハロゲンヒーターの温度測定
2箇所で測定
ハロゲン球付近と反射板
4分~4分30秒で最高温度に達する。

  消費電力400W 消費電力800W
時間経過 ハロゲン球 反 射 板 ハロゲン球 反 射 板
15秒 280℃ 45℃ 565℃ 41℃
1分 317℃ 53℃ 995℃ 65℃
4分 573℃ 68℃ 1192℃ 101℃
4分30秒 589℃ 65℃ 1225℃ 98℃
5分 582℃ 64℃ 1200℃ 96℃

(2)実験-2

ア 衣類等をハロゲンヒーターガードに接触
 衣類(ポリエステル65% 綿35%)をハロゲンヒ ーターガードに接触させ温度測定及び着火状況を確認 する。

P74_4

消費電力800W
時間経過 化学繊維接触面 反射板
3分 105℃ 284℃
11分30秒 133℃ 373℃
15分 123℃ 341℃

 実験-1の温度測定に比べ、11分30秒で最高温度 に達したが、火災事例の15分間では、衣類に焼けの変 化は生 じなかった。

イ ハロゲンヒーターガード全体を衣類で覆う。

P75_1

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(温度測定は、ガードと衣類との間 消費電力は800W) (室温28.2℃)

時間経過 温 度 状 況
1分30秒 117.5℃ 衣類の水蒸気の臭いあり。
2分30秒 154.6℃ 衣類の水蒸気が発生する 。
5分 213.6℃ 5分30秒に、薄い 白煙及 び焦げ臭い臭いあり。
6分 228.2℃ 本体のガード後方が極端に熱くなる。
7分35秒 240.5℃ 衣類の焼け焦げによる変色を確認
温度センサーが感知し、温度ヒューズが切れ自動的に 電源が 切れる。

(3)実験-3

ア 衣類等を浅く差し込む。
15分間変化なし。

P75_4

イ 衣類等をハロゲン球直近に差し込む。
数秒で着火する。

P75_5

P75_6

P75_7

(4)実験-4

ア ハロゲンヒーター本体の燃焼状況
 着火した衣類が落下したものと仮定し、台座部分に衣 類を置 き、着火する。

P76_1

(30秒経過)
他の衣類に延焼する。

P76_2

(1分58秒経過)
台座に延焼する。

P76_3

(4分42秒経過)
上方に延焼する。

P76_4

(5分52秒経過)
支柱が折れ、黒煙が噴出する。

P76_5

(9分32秒経過)
全体に延焼する。

P76_6

(10分14秒経過)
消火状況。

イ 実験と現場の残存物を比較する。

(ア) 反射板の状況

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焼損状況は、どちらも支柱付近がV字型である。

(イ) 床面の状況

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(現場)

P77_2

(実験)

どちらも円形状で同様な焼けである。

5 考 察

 4回の実験の結果、実験1~3のとおり、安全装置が整 い衣類 等がハロゲン球直近に至らなれれば、衣類等に着火す る恐れ が低いことが確認されたが、実験-4のとおり、残存物 及び床 面の焼損状況並びに延焼の時間経過から、ハロゲンヒ ーター は、台座付近から上方に延焼したのは明らかである。 このこ とから、本件火災は、ベッド上の衣類等が、ハロゲン 球付近 で着火し、台座の方向に落ち、ハロゲンヒーター及び ベッド 方向に延焼拡大したと考察される。

6 今後の教訓と課題

 家庭内で使用されている電気、ガス及び石油のエネル ギー のうち、電気が最も安全なものと考えられています。
 近年、急速に普及しているハロゲンヒーターは、ガー ドの 隙間が1㎝足らずで、しかも、ハロゲン球が中央部の遮 熱板に 格納されているため、可燃物がガードの隙間から入っ て中央 部のハロゲン球に接触することは、通常、考え難いこ とでは あるが、本来の使用方法とは異なる使用を行い、条件 さえ整 えば出火に至る危険性を再確認できた。