消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(31)
電気火災電磁調理器の火災事例

はじめに

 台所では、調理のための様々な電化製品が活躍している。 なかでも電磁調理器は、直接火を使わず煮物、炒め物、更に 揚げ物まででき、立ち消えの心配もなく、着衣着火の事故も 防止できるとあって、高齢者だけでなく、一般の家庭にも普 及が進んでいる。
 今回はこの安全で便利というイメージのある電磁調理器の 出火事例を紹介する。

1 発生概要

 耐火構造5階建て共同住宅1階の部屋の台所で、一人暮らし の高齢女性が、昼食の冷凍食品を揚げようとして、なべの中 にサラダ油30ccを入れ、電磁調理器(一連式)の「加熱」キー を押して加熱中、サラダ油が発火温度に達して出火、壁体1㎡ 、電磁調理器1基、レンジフード1基、蛍光灯3基を焼失した。 (写真1参照)
 この女性は、顔面に火傷を負って奥の間にうずくまってい るところを消防隊に救出された。

写真1
出火箇所付近の状況

2 使用していた電磁調理器等の概要

(1) 電磁調理器(A社製)の仕様

  • ・交流100V
  • ・消費電力 1,400W
  • ・タイマー操作機能付き
  • ・揚げ物料理に必要な油量 1,000cc

① 調理キーの種類
 A社製品には、揚げ物料理のための「揚げ物」キー及びそれ 以外の料理のための「加熱」キーがある。

●「揚げ物」キーでの加熱
 キーを押すと、最初は自動的に180℃に温度設定され、140 ~200℃の間で、10℃づつ7段階の調節ができる。トッププレ ート裏面に配置されたサーミスタがなべ底の温度を検知し、 設定温度近くになると加熱を停止する。(図1参照)

図1 なべ底の温度検知

※ 揚げ物反りなべ検知機能
「揚げ物」キーでの加熱時、加熱コイルからトッププレー ト上のなべに一定熱量を加えたとき、プレート裏面の中心部 にあるセンサーが、プレート中心部の温度変化を測定し、な べ底の反りが算出される。(図2参照)

図2 反りなべ検知

よって、なべ底に反りがあると、なべからプレートへの熱 伝導が遅れ、なべ底の温度とプレート中心部の温度に誤差が 生じ、結果としてなべ底の温度がサーミスタの感知温度より 高くなる。A社製品では、反りが1㎜未満のなべ(以下「対応な べ」という)の場合、反りに応じた加熱パターンで補正されて そのまま加熱されるが、反りが1㎜以上のなべ(以下「非対応 なべ」という)の場合、なべ底の温度とサーミスタの感知との 誤差が大きくなり、正常な温度制御が不可能になるため、加 熱停止される。

●「加熱」キーでの加熱
 キーを押すと、まず、「保温」~「強」までの7段階(75~ 1,400W)のうち、一番強い熱量である「強」に自動的に設定さ れる。アップキー(>)及びダウンキー(<)により1段階づつ調 整が可能である。

② 安全機能

  • ●温度過昇防止機能
     サーミスタによる温度制御で、通電を自動的にコントロー ルする。つまり、空だきなどによりなべ底の温度が異常に上 がると、自動的に電力を下げ、温度が下がると自動的に電力 を上げる。
  • ●切り忘れ防止機能
     切り忘れてから通電を続けても、最終キー操作から2時間経 過すると、自動的に通電が停止される。
  • ●なべなし自動OFF
     なべを外すと、1分後に加熱が停止される。

(2) 使用されていたなべ

  • ・ステンレス製一層なべ
  • ・なべ底の反り 3㎜
  • ※ 反り1㎜未満のステンレス製一層なべを所有していたが、出 火時は台所の棚に仕舞われていた。

写真2 対応なべ・非対応なべの比較

3 原因究明

 調理キー操作及びなべの形状、油量が火災発生とどう結び ついたかを究明するため、実験を行った。(結果については 表1参照)

  • ・電磁調理器 … 出火時と同一の もの
  • ・油 … 市販のサラダ油(なたね油 、大豆油が主成分)
  • ・なべ … ステンレス一層なべ
    直径165㎜

※ なべ底部の反りは、1㎜未満のものと、約2㎜のものの2 種類を使用した。

表1
油量によるなべの種類別発火の状態及び温度測定

(1) 「揚げ物」キーで実施(設定200℃)

  • ① 対応なべの場合(表2参照)
    発火には至らなかった。
  • ② 非対応なべの場合
    発火には至らなかった。

表2 油温の推移(対応なべ・「揚げ物」キ-)

※ 対応なべの場合、温度制御されて発火には 至らないが、熱電対でなべの中のなべ底中心部分の温度を測 定(図3参照)した結果、油量が少ないと、温度の上昇 スピードにトッププレートからサーミスタへの熱伝導スピー ドが追いつかないため、設定以上の油温に急激に上昇する瞬 間があり、推移する温度幅が大きくなった。
 非対応なべの場合、反りなべ検知機能により、 加熱を停止するため、実験の結果、発火には至らなかった。

(2) 「加熱」キーで実施

  • ① 対応なべの場合
     油量が少ない場合は発火したが、油量400cc以上では発火し なかった。
  • ② 非対応なべの場合
     油量800cc以下では発火した。油量が多いほど発火までの時 間は長くなるが、100cc以下では3分以内に発火し、30ccの場 合、わずか1分ほどで発火した。

図3 温度測定箇所

  • ・ 「揚げ物」キー操作で行った場合は、発火に至らなかっ た。
  • ・ 「加熱」キー操作で行った場合、非対応なべでは取扱説 明書に記載された油量1,000ccより少ない800cc以下では発火 し、対応なべであっても、油量が少なければ発火する。
  • ・ 「揚げ物反りなべ検知機能」は、「揚げ物」キー使用時 のみ機能する。
  • ・ なべ底に反りがあると、なべ底とプレートとの温度に誤 差が生じる。
  • ・ 油量が少ないと、油温の上昇スピードに、プレートから サーミスタへの熱伝導スピードが追いつかない。
  • ・ 「加熱」キー操作の際、熱量調整をしなければ、一番強 い熱量(1,400W)のまま加熱されるので、油温の上昇スピード も速くなる。

 以上のことから、今回の事例のように「加熱」キーで、非 対応なべを使用し、極端に油量が少ない場合は、なべ底とプ レート、さらにプレートから裏面のサーミスタへの熱伝導に 要する時間が、なべの中の油の昇温スピードに追いつかず、 サーミスタによる温度制御が機能するまでに発火に至る、つ まりキーを押して短時間で発火することが判明した。
 今回の火災は、女性の息子が母親の安全を考え、ガスこん ろから電磁調理器に替えた直後に発生しており、冷凍食品を 揚げようとした女性が、少しの間目を離した隙に出火したも ので、使い慣れていなかったことや、予想外の急激な加熱が 要因で発生したと思われる。
 この火災を受け、当市とメーカー側が協議を行った結果、 取扱説明書に「『加熱』キーで揚げ物をしない」という注意 書きを記載する等の対策をとり、再発防止を訴えることとなった。

写真3
燃焼実験1

写真4
燃焼実験2