消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(28)
電気火災全自動洗濯機からの出火事例

はじめに、現代社会で私たちの暮らしに欠かすことの出来ない電気製品は、製造技術の進化に伴い日ごとに精密化し、消費者のニーズである「より簡単で便利な機能」という構造を意識した製品が多く開発されてきております。
また、製造者側は消費者に対し生活利便性だけでなく、製品に対する安全性及び信頼性も合わせて提供する義務があることは言うまでもありません。
今回ここに紹介する火災は、日常的に使用されている「全自動洗濯機」から出火し、メーカー側よりリコールが発表された事例を紹介いたします。

1 火災の概要

この火災は、平成14年2月に住宅内より出火し、全焼1棟、部分焼1棟、ぼや1棟の合計3棟が焼損、負傷者が1名発生したものです。
火災発見時の状況は、近隣居住者が自宅台所にて夕食の準備中、流し台の窓ガラス越しに赤い炎を認めたため外に出て南側にある火元棟へ入ったところ、1階洗面所の洗濯機と内壁の隙間から炎が立ち上がっており、付近に座り込んでいた高齢である居住者を救出後、119番通報したものです。

2 火災原因調査

(1)現場見分状況

翌朝より火災発生場所を管轄する出張所職員及び本部調査員と合同で現場調査を実施しました。
出火建物は1階から2階へ延焼拡大した状況であり、1階でも洗面所の焼損が他の部屋と比較して著しいこと、また、関係者の発見状況から出火箇所を1階洗面所と特定し各火源について検討をしました。
考えられる火源の一つとして全自動洗濯機が含まれることから、関係者の承諾を得て原形を留めていない洗濯機を現場から採取し、後日改めて鑑識見分を実施することとしました。(写真1)

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写真1
現場で発掘された洗濯機の状況(符号A)
(洗濯機としての原形は留めておらず、モータのみが認められる。)

(2)鑑識見分状況

採取した洗濯機は、プラスチック類と洗濯槽のアルミが溶融して一つの塊となっており、外観からは洗濯・脱水モータ、排水モータ及び配線の一部がわずかに認められる状況となっています。(写真2)

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写真2 採取した洗濯機

ア 電源コードの状況
プラスチック部分を徐々に取り除いたところで、電源コードが埋もれており、断線箇所には短絡痕が認められます。(写真3)

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写真3 電源コードの短絡痕

イ 洗濯・脱水モータ及び排水モータの状況
洗濯・脱水モータは錆ついているものの原形は留め、パルセータの台座には繊維製品の一部が付着しており、モータコイルに断線箇所及び電気痕は認められません。また、排水モータについても原形は崩れているが、内部のコイルに断線箇所及び電気痕は見分されません。(写真4・5)

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写真4 洗濯・脱水モータ

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写真5 排水モータ

ウ 洗濯機内配線の状況
溶融固着する塊の中から全ての配線を取り出したところ、複数の配線に断線箇所が認められ、数ヶ所に短絡痕が見分される状況であることから、メーカーの立会いを依頼し構造及び各配線について詳細な説明を受けることとしました。
なお、製造メーカーについては、り災者が電気店で購入した際の売上伝票により確認が取れており、機種も容易に判明したことから当該洗濯機の構造及び配線について次のような回答を得ました。
この全自動洗濯機は、電源コードを差し込むことで回路基板までが通電状態となり、洗濯機本体の電源をONにすると回路基板から各部へ電流が流れる。また、発掘された配線については、下の写真に示す箇所で使用されるもので、電源コードはプラグから1400mm付近で洗濯機内部へ入るとの説明を受けました。(写真6・7・8・9)

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写真6 電源コードの状況

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写真7 基盤からの配線状況

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写真8 洗濯機内の配線

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写真9 モータリード線

(写真内の白○印は短絡箇所)

※ なお、写真についてはメーカーの説明後、当市局内において後日撮影したものです。
各配線の使用用途が判明したことにより、さらに詳細な見分を行った結果は次のとおりです。

  • ① 電源コードは2箇所(写真6 白○印箇所符号1、2)に短絡痕が見分され、符号2はプラグより測定すると1470mmの位置となっています。
  • ② 回路基板より水位センサー、ストップスイッチ及び給水弁までの配線は、素線がバラケた状態で数ヶ所が断線しており、1箇所に短絡痕が認められます。(写真7)
  • ③ 洗濯機内の配線については、場所が特定されないものの機内で使用される配線であり、素線は数ヶ所で断線し一箇所に短絡痕が認められます。(写真8)
  • ④ モータリード線については、排水モータへ2本、洗濯・脱水モータへ3本が配線され、洗濯・脱水モータへ接続される配線は接続金具より220mmの箇所で3本とも断線しており、素線は黒く変色して固着する状態で認められます。また、発掘された1本の配線には短絡痕が見分されます。(写真9)

(3)出火原因について

  • ア 回路基板からモータ側へ接続される洗濯機内配線には数ヶ所に短絡痕が見分される事実から、洗濯機が使用状態であったことが立証され、電源コードの短絡は洗濯機内部の配線が短絡した後に発生したものであること。
  • イ モータリード線のうち、洗濯・脱水モータの配線は接続金具より3本とも同位置で断線しており、素線が変色しながら固着する状態で見分され、断線した1本の配線には短絡痕が認められること。
  • ウ 洗濯機内の構成部品で火源と考えられる洗濯・脱水モータ及び排水モータに電気的要因による痕跡は認められないことから火源として否定されること。
  • エ 関係者の発見状況から、火災初期に洗濯機付近からの炎を確認していること。
  • オ 出火箇所である洗面所内の他の火源は全て否定されること。
    上記内容から考察し、洗濯機内部より出火した可能性が考えられることから、最終的な調査結果を説明するため再度メーカー側に来庁するよう依頼しました。

(4)リコールの経緯について

当該製品は、モータリード線及びアース線を緩衝材(レーヨン70%、ポリエステル10%含む)で束ねる構造のため、アース線の設置状況によっては洗濯機使用時の振動により、モータリード線をアース線が引っ張る形となり局部的に負荷がかかる状態となる。この負荷部分の配線被服が損傷し、短絡火花が緩衝材に着火して拡大します。(写真10)
改善後は、緩衝材を難燃材としアース線をモータリード線から分離させることにより対策を図っています。

3 火災発生のメカニズム

当該製品は、モータリード線及びアース線を緩衝材(レーヨン70%、ポリエステル10%含む)で束ねる構造のため、アース線の設置状況によっては洗濯機使用時の振動により、モータリード線をアース線が引っ張る形となり局部的に負荷がかかる状態となる。この負荷部分の配線被服が損傷し、短絡火花が緩衝材に着火して拡大します。(写真10)
改善後は、緩衝材を難燃材としアース線をモータリード線から分離させることにより対策を図っています。

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写真10 対策前のモータリード線の状況

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4 おわりに

原形を留めないほど溶融して一つの塊となった洗濯機の構成部品を取り出すのには、1ヶ月以上もの作業時間を要し原因究明には困難を極めましたが、結果として製造メーカーに対し早期改善策を促すことができたことは、類似火災の防止に大いに役立てられたものであると考えております。
最後になりますが、ますます複雑化する生活環境の中で、的確に「火災の原因」を追求してゆくことは今まで以上の困難が予想されますが、消防行政の推進には必要不可欠な要素であると考え、より充実した火災原因調査を展開して行く所存であります。