消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(27)
建物・車輌火災廃棄物に関連する火災の事例について

はじめに

 日本は経済的な豊かさを手に入れ,大量生産・大量消費型の「使い捨て」社会を定着させてきました。排出される廃棄物の量は増大し,現代では処理場不足に加えてダイオキシン類の問題や地下水汚染等の環境問題も発生しています。
 この対処として,「使い捨て」から「循環型」の社会への変換が叫ばれ,廃棄物の分別収集や中間処理による資源回収が進んできています。資源回収が細分化するに従って廃棄物の回収は複雑化し,これに付随するように廃棄物関連の火災も様々な様相を呈しており,今後いかに対応していくかが大きな課題となっています。
 ここでは,廃棄物に関連する火災のうち,東京消防庁管内で発生した代表的な事例を紹介したいと思います。なお,過去5年間の廃棄物関連の火災の発生状況は表1のとおりです。

表1 廃棄物関連火災の状況

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事例1 塵芥車の火災

 塵芥車の火災は年々増加しており,中でもエアゾール缶に関連する火災が増加しています。東京23区内では,エアゾール缶等の廃棄方法が「空にした後,穴をあける」から,「①使用目的に沿って最後まで使い切る,②振ってLPガスがないことを確認する,③使い切った後,不燃ごみに出す」という方法に変わりましたが,いまだLPガスが残ったまま廃棄されることが多く,そのため塵芥車の荷台内で出火するケースが目立っています。

火災概要

 この火災は,清掃事務所が管理する塵芥車内のごみが焼損した車両火災です。
 出火した塵芥車は,ごみ集積場から次のごみ集積場へと不燃ごみを収集しながら移動中,作業員が焦げ臭いにおいを感じたので,車両を停止し荷台の外蓋を開けてみると収集したごみが燃えているのを発見しました。焼損しているごみの中には,ビニールやプラスチック類の他,多数のエアゾール缶がありました。
 出火原因は,収集したごみの中にLPガスが残ったままのスプレー缶が入っていたため,ごみを収集車に取り込むための回転板に圧縮された際にガスが漏れ出し,そのガスにスプレー缶と回転板の衝撃で生じた火花が引火したことによるものです。
 東京23区内では,スプレー缶に穴をあける際の事故を防ぐために,スプレー缶は穴を開けずに使い切ってから捨てるという方針をとっています。このため,スプレー缶のLPガスを完全に使用してから不燃ごみに捨てるよう徹底していくことが,塵芥車でのこのような火災を減少させることになります。

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写真1 ごみが燃える塵芥車

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写真2 焼損したスプレー缶

事例2 破砕処理センターの火災

 この破砕処理センターでは,回収した大型電化製品・廃材・金属類等を破砕機で破砕し,アルミ・磁性物・プラスチック・焼却物に分離する作業を行っていました。この施設の設計上では,ごみに含まれる可燃物を20%程度の割合として設計されていましたが,現在では含まれる可燃物の割合は,3倍の60%にも及んでいます。ごみの分別収集が一般化してはいるものの,その実態はまだ分別が不完全な状況にあるといえます。

火災概要

 この火災は,破砕処理センターの不燃ごみ破砕処理過程のスチール・アルミ選別用のベルトコンベアから出火したものです。
 出火原因は,破砕機で破砕する際に発生した火花が,ごみとして一緒に含まれていた可燃物に着火したものです。着火した可燃物は,ベルトコンベアによってそのまま運ばれていましたが,終業時間となり機械が停止し,ベルトコンベア上に残ったままとなったため下のベルトコンベアに延焼しました。この火災では,建物に,屋内消火設備や消火器が設置されていましたが,これらを使用した初期消火は行われていません。
 ごみ処理施設内では,その用途上,ベルトコンベアは何階層もの高さを移動したり長距離を移動することが普通で,しかも建物の構造上ベルトコンベアを囲んで設備等が何階層にも渡って設置されているため,消火が困難になることがあります。
 人の力だけで初期消火を行うことには限度があることからも,消火が困難な場所にはスプリンクラー設備等の消火を目的とした設備を設置することが有効です。

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写真3 出火建物

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写真4 火災の様子

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写真5 焼損したベルトコンベア

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写真6 ベルトコンベアのごみの状況

事例3 リサイクルセンターの火災

 この施設は,プラスチック廃棄物のリサイクルを目的にした実証施設で,プラスチックを熱分解することで種々の燃料油に変えるという作業を行っていました。この作業により,プラスチックから危険物第四類に指定されているガソリンや灯油,軽油などが生成されていました。

火災概要

 この火災は,プラスチック廃棄物リサイクルセンター内の熱分解層から流出した高温の重質油(溶融したプラスチック)が発火し,熱分解プラント1基及び重質油約1,000L焼損したその他火災です。

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写真7 消火活動

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写真8 焼損建物

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写真9 スラッジポットのゲート弁

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図1 熱分解層とスラッジポットの概略図

 出火時の状況は,作業員が熱分解層の下に取り付けられているスラッジポットからスラッジ(プラスチックの熱分解の際に生じたかす)を抜き取る作業中に,抜き取り用の管にある二つの弁のうち,上部ゲート弁が完全に閉まっていない状態で下部ゲート弁を開けたため,熱分解層から高温の重質油が漏れ出しました。
 出火原因は,熱分解層内の温度が約350℃と重質油の発火温度である300℃を上回っており,熱分解層から漏れ出た重質油が外気に触れたために発火したものと考えられます。
また,重質油が漏れ出た直後に出火したために弁を閉じることが出来ず,被害が拡大しました。
 スラッジ除去作業は手作業によって行われており,危険物を取り扱う施設としての安全面での問題があります。
廃棄物処分場では,可燃物や危険物が多量に保管されていることから火災の潜在的危険性が高い施設といえます。また,一旦火災が発生すると規模が大きくなり,多大なる損害を被ることとなります。

おわりに

 廃棄物処理やリサイクルに関する問題は大きな社会問題となり,粗大ごみ処分の有料化,分別種類の増加など,ごみ減量のための積極的な取り組みが実施され,今後廃棄物の再利用,再資源化を目的としたリサイクル施設や中間処理施設は重要な施設となっていくと考えられます。
 分別を目的とした中間処理施設はごみ焼却場とは異なり,雑多に混じり合うごみの分別工程を持った工学プラントとしての機能があることから,工学的な不安定があり,火災の潜在的発生危険を持つ施設といえます。さらに,リサイクルが今以上に進んでいけば,新しい施設や機械が導入され,ますます複雑で火災の潜在危険が高いものになっていく可能性があります。
 いずれにせよ,塵芥車による火災の延長線上にごみ処理施設の火災が存在し,この構図の打開が今後の課題となっています。住民一人ひとりが廃棄物の分別の徹底をすることが,塵芥車やごみ処理施設での火災を減少させる方向へ進めるための重要な鍵の一つと言えます。