消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(25-1)
鉄道車両火災鉄道の火災事例(1)

火災事例1 3区の鉄道踏切で同時発生した電気火災

平成13年8月,横浜市瀬谷区,旭区,保土ヶ谷区の相模鉄道踏切3箇所で,踏切を横断する東京ガス配管の電気防食用排流器(電食を防ぐためにガス管路とレールの間に設置される電気機器)が同時に焼損した火災です。
出火原因は,運行中の電車の運転異常によりレールに過電流が流れ,これが誘因となって変電所内で地絡が発生,この地絡電流により,東京ガスの電気防食用選択排流器6箇所(横浜市内3箇所,他都市3箇所)に許容電流以上の電流が流れ,焼損したものです。
本件は,複数の消防署管内で同一原因による火災が同時に発生したことから,火災原因調査における消防署間の連携と,調査結果の整合など広域的に発生する火災の調査に問題を提起した火災です。

第1現場:瀬谷区

火災概要

5時40分ころ(発見者の供述時間,出火時間は5時48分),相模鉄道(以下,相鉄線)の南側に居住するAが自宅の庭で「シュー」という音を2回聞き,道路に出ると相鉄線軌道敷地内の箱から青い煙が出ているのを発見した。
Aは携帯電話で相鉄線三ツ境駅に連絡したが,消防機関への通報はされなかった。
7時15分頃,相鉄線二俣川駅からの通報で第2現場へ出場中の旭消防署の消防隊が現場において東京ガス㈱職員から第1現場の火災事案を覚知し,消防隊からの無線報告で,瀬谷消防署の消防隊が出場したものである。
消防隊現着時,箱内部の電気防食用選択排流装置は通電状態で,速断ヒューズが発熱し時折炎を上げていたが,初期消火は無かった。
その後,現場に到着した東京ガス㈱職員が電気防食用選択排流装置の通電を遮断し,7時56分に鎮火した火災である。
この火災で,電気防食用選択排流器速断ヒューズの保護筒1本を焼損した。

見分状況

  • 1 現場には,電流調整用抵抗器と電気防食用選択排流器の箱が背中合わせに認められるが,焼きの認められるのは電気防食用選択排流器の内部だけである。 (写真1-1参照)
  • 2 電気防食用選択排流器内部の速断ヒューズ包装部分が焼きし,白く変色し穴が開いて認められる。 (写真1-2参照)
  • 3 鎮火前の通電時には,箱内の電圧計が正に振れ,回路が繋がった通電状態であり,穴の部分から炎が立ち上がっているが,箱内のナイフスイッチで回路を遮断すると,炎は消えたのが認められる。 (写真1-3参照)
  • 4 速断ヒューズ取り付け台座間の導通試験を行うと導通している。
  • 5 速断ヒューズ包装部分内側と取り付け台座間で導通試験を行うと導通している。

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写真1-1

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写真1-2

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写真1-3

【第2現場:旭区】

火災概要

相鉄線二俣川駅駐輪場職員Bが駐輪場受付で勤務中,6時頃,受付前の東京ガスの施設下側から煙と炎が噴きだし,その後,約5分間隔で3回炎が噴いたのを目撃した。
Bは初期消火は行わず,二俣川駅職員に連絡した。
連絡を受けた二俣川駅職員Cが現場を確認後,二俣川駅から職員Dが119番通報した。
消防隊現着時,すでに火煙は見えず,6時30分に鎮火を確認した。
この火災で,電気防食用選択排流装置ボックス内のヒューズ及び基盤を若干焼損している。 また,7時15分ころ,現場で東京ガス㈱職員から相鉄線沿線の瀬谷区(第1現場)でも同様の火災が発生していることを覚知し,瀬谷消防署部隊が出場した。

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写真1-4

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写真1-5

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写真1-6

見分状況

  • 1 現場で焼きの認められるのは電気防食用選択排流装置ボックスの内部だけである。
  • 2 電気防食用選択排流装置の基盤部分の焼きが著しく,基盤上部に強い変色が認められ,開閉器の取っ手部分もヒューズ側が焼焦している。 (写真1-4参照)
  • 3 基盤に取り付けられたヒューズが溶融し,オレンジ色の皮膜も溶け,内部が露出し焼け切れている。 (写真1-5参照)
  • 4 ヒューズ取り付け部分のボルトに緩みは無く,強く締め付けられている。
  • 5 ヒューズは250V,500Aの速断ヒューズである。 (写真1-6参照)

【第3現場:保土ヶ谷区】

火災概要

上記第1現場と第2現場の火災及び相鉄線沿線の大和市内,海老名市内等において複数の電気防食用選択排流装置が焼損したため,東京ガス㈱が該当する変電所受け持ち管区内の同種装置を点検したところ,相鉄線和田町駅敷地内に設置された電気防食用選択排流装置が焼損していたことから,前記火災発生から2日後に消防局計画課調査係に通報があり覚知した事後聞知火災である。

見分状況

1 現場で焼きの認められるのは電気防食用選択排流装置ボックスの内部だけである。
電気防食用選択排流装置ボックスの型式は,前記第1現場,第2現場のものとは異なり,シリコンダイオード,シリコンサイリスタ,コンデンサ,パルス制御回路,入力開閉器等が収納されている。 (写真1-7参照)

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写真1-7

2 焼き箇所は,ボックス右側に配置された機器と配線に限られ,下部の入力開閉器から上部に焼き箇所が立ち上がっている。 (写真1-8参照)

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写真1-8

3 入力開閉器は合成樹脂の箱形で,正面中央部と右側面に穴が開き周囲が炭化している。 (写真1-9参照)

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写真1-9

4 配線は入力開閉器上部の端子部分に最も強い焼きが認められるが,短絡痕や溶痕,断線箇所等は認められない。

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写真1-10

【合同実況見分:相鉄線三ツ境変電所】

火災から3日後,旭消防署における調査中に相模鉄道㈱車両電気部のEから,相鉄線三ツ境変電所内でも機器が焼損したとの情報を得たので,旭消防署と瀬谷消防署,消防局計画課調査係が合同で三ツ境変電所の実況見分を行った。

見分状況

  • 1 変電所内に設置されている電気機械設備のうち,直流高速度真空遮断器内の真空スイッチ駆動装置1基に焼きの痕跡を認める。
  • 2 当該遮断器は,キュービクル式のものが7台並列に置かれているが外観に焼きは認められない。(写真1-10参照)
  • 3 遮断器のうち1台(54F4)の扉内部に煤の付着が認められる。
  • 4 上段には直流用酸化亜鉛避雷器が設置され,下段奥には碍子が認められ,下段手前の機器は取り外されており,下段の側壁や上段との仕切板に煤の付着が多く,一部白色に変色している。 (写真1-11,1-12参照)

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写真1-11

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写真1-12

  • 5 立会人の説明では,下段には真空スイッチ駆動装置1基が設置されていたが,相模鉄道㈱職員が現地調査時に焼損箇所を認めたため,修理のため製造メーカーの日立製作所に搬出したとのことである。
  • 6 隣接の同型装置を確認すると共に,相模鉄道㈱が搬出時に撮影した写真の提供を受ける。 (写真1-13,1-14,1-15参照)

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写真1-13

P70-2

写真1-14

P70-3

写真1-15

【電気防食対策上で設置してある排流器とは】

鉄道の電流経路では,変電所から出た電流はレールを介し変電所に戻るシステムになっていますが,一部の電流は漏れ電流となって土中に流れ出し,地中埋設管を介して変電所に帰流します。そのため,変電所付近において埋設管路から漏れ電流が飛び出し電食が発生します。
そこでこの電食を防止するため,管路とレールを電線で接続した排流器を介して帰流させることで,漏れ電流の飛び出しを防止し電食を防ぐものです。
今回被害を受けた排流器に接続されているガス管は,相鉄線沿線上の軌道横断部付近に排流器が設置されていることから,この相鉄線からの影響を受けたものです。

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図1

【調査上の問題点】

本件火災は,前述のとおり,複数の消防署管内で同一原因による火災が同時に発生したことから,広域的に発生する火災の調査に次の問題を提起したものです。

  • 1 同時発生した火災の原因上の関連性を把握する困難性
    • ・管轄区域外の出場消防隊間の情報の共有
    • ・情報の統括と調査事項の調整
  • 2 火災判定上の整合
  • 3 実況見分における連携
  • 4 調査結果の整合と共有

これらの問題について,平成13年11月16日と同12月5日に横浜市消防局において「火災調査研究会」を開催し,横浜市消防局各消防署と神奈川県下19消防本部の調査担当者が討議を行いました。
結論は得られなかったものの,鉄道や変電所等の電気火災の対応や火災判定について活発な討議が行われ,消防署及び消防本部間の情報の共有などが図られました。