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宮澤清治の防災歳時記

山野に響く「ししおどし」

NHK放送用語委員会専門委員
元気象庁天気相談所長
宮澤 清治

「ししおどし」でけものを追う

  「ししおどし」とは、田畑を荒らしにやってくる鳥やけものを追い払うための仕掛け(装置)のこと。鹿威(しかおどし)ともいう。
  節止めした太めの竹筒の中ほどを支点として回転するようにし、水を受ける部分を斜めに切ってある。
  流れ落ちる水を受け、水がたまってくると、竹筒の重心が前にきて竹筒が傾く。すると、中の水が吐かれて反動で勢いよく戻ったときに、竹筒の尻が石の頭に当たって、高い音を発する。この音でびっくりして鹿やいのししなどが逃げていく。
  ししおどしは、現在では庭園設備のひとつで、もっぱら風流のためのものになっている。静かな日本庭園で、どこからかコーンという「ししおどし」の澄んだ音が聞こえてくるのはいいものだ。
  「ししおどし」を日向(宮崎県)では左近太郎と言う。左近は、迫(さこ)で谷間のこと。日向の民謡「刈干切唄」に
  もはや日暮じゃ 迫々かげる……
とある迫々は谷間のこと。谷間の水流を利用した、ししおどしを昔の人はこのように呼んだのは粋だ。太郎は擬人化した愛稱。


「ばったり」でヒエをつく

  「ししおどし」に似た装置に、「ばったり」というのがある。流れる水を受けて、木のテコを動かし先端の杵(きね)を上下させて、ヒエ、アワ、コメなどをつく。東北地方や信州、飛騨地方などでこの言葉が残っており、「ししおどし」と同意語。
  オホーツク海から吹いてくる北東の冷湿風“やませ"が襲う東北地方などでは、昔はコメなどとても作れなかった。ヒエ、アワ、ソバ、大豆などの雑穀が中心で、主食のヒエを「ばったり」の杵と臼でついた。
  岩手県山形村の「ばったり村」は有名である。山村文化を伝えようと、沢水を利用した「ばったり」を復元し、囲炉裏を復活し、東京などから客を招いている。岐阜県高山市に飛騨民俗村がある。
  村内の案内板に次のようにある。

バッタリ小屋(唐臼)

  水を利用し天秤を応用して米や稗(ひえ)を精白した唐臼を、この地方ではバッタリといいます。
  このバッタリは、白川郷三尾河村(現在の荘川村三尾河)にあったもので、臼を2つ使って能率をあげるようにできています。
  山峡の谷川の水の音に交じって稗をつくバッタリの音は、のどかな風情でした。
  写真の右の建物はバッタリ小屋、中央は水を導く2つの木管。小屋からテコ(天秤)が2本出て、水を受け、テコを動かす。


バッタリ小屋(飛騨民俗村)

「ししおどし」「ばったり」は雨量計の原点だ

  気象庁や防災機関の転倒ます型雨量計の原理を図で説明しよう。
  降雨は、口径20cmの受水器で受ける。雨水は漏斗からパイプを通ってろ(濾)水器に入り、土砂などを取り除く。受水器にもゴミよけの二重金網(図の点線)がある。
  きれいになった雨水は、片方の転倒ますに入る。ますは三角形で軸受を境に両側にある。ますに受けた雨水の量が0.5mmに達すると、ますが傾いて雨水を排出し、同時に他方のますが受水を始め、同じく0.5mmの雨量に達すると傾いて排水するという操作を、降雨が続く限り交互に繰り返す。
  ますが傾斜(転倒)するたびに、水銀スイッチが働いてパルスを発する。パルス信号は有線や無線によって遠く送り、印字された記録紙や計数器を見て雨量を知る。


転倒ます型雨量計の原理(気象ハンドブックから)


  日本の10分間雨量の最多記録は、1946年9月13日に四国の足摺岬で観測した49mm。そのとき転倒ます型雨量計があったとしたら、約6秒に1回の割合でカタカタとますがひっくり返っていたはずだ。
  ハイテク時代の雨量計も原点をたどれば、昔の「ししおどし」「ばったり」という素朴な仕掛けに似ているとは、びっくりした。



消防科学総合センター季刊誌「消防科学と情報」2000年夏号より