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宮澤清治の防災歳時記

にんじん状の雲から豪雨が降る

NHK放送用語委員会専門委員
元気象庁天気相談所長
宮澤 清治

深夜の豪雨、栃木・福島県境を襲う

  「豪雨はとかく真夜中に降りやすい」―こんな豪雨の性質が昨年も繰り返された。
  1998年8月26日、父島付近にある台風4号から暖湿な空気が、本州上に停滞していた秋雨前線に運ばれ、前線を活発にさせた。
  このため、26日深夜から27日朝にかけて、栃木県那須町付近で雷を伴った集中豪雨が降った。那須町では27日午前1時から2時までの1時間に90ミリ、隣接した福島県西郷村では27日午前4時から5時までの1時間に110ミリも降った。
  那須町では27日の日雨量が607ミリと、これまでの記録を大きく更新した。西郷村、那須町、黒磯町などでは河川のはんらん、土砂災害が多発し、静かな山里の障害者施設や住家が土砂に埋まった。
  前線と台風の動きが遅く、気圧配置がほとんど変わらなかったので、8月の末ごろまで大雨が続き、その範囲も伊豆半島から関東、東北地方に広がった。


総雨量分布図(1998年8月26日〜31日)

28日午後6時までの24時間に、静岡県富士宮市で362ミリ、伊豆の天城湯ケ島町で309ミリ、神奈川県小田原市で287ミリ、栃木県矢板市で318ミリなどの大雨が降った。
  30日は、静岡県三島市の大場川で4か所にわたって堤防が決壊し、函南町では崩れた土砂が線路を覆った。群馬県水上町のJR上越線は約100メートルにわたって路盤の流失や土砂崩れがあった。水戸市付近では那珂川の水位が上昇し、住宅地に浸水した。さらに福島県では阿武隈川が増水し、支流の堀川の堤防が白河市付近で決壊した。
  26日から31日までの総雨量分布図を示すが、山岳名と都市名は略記してある。多雨域が伊豆半島から北東にのび、関東北部・東北地方に広がっていることがわかる。特に箱根山、那須岳、男体山、八溝山、谷川岳の山地で雨量が多くなっている。台風からの南寄りの暖湿風が伊豆半島や関東地方へ流れ込み、山にぶつかって上昇気流をおこし、積乱雲を発生させて大雨を降らせたもののようである。那須町の1,254ミリは同町の1年間の降水量の3分の2に相当する。
  8月31日には、台風が東進して日本列島から遠ざかったので大雨はほぼ終息した。被害は24都道府県に広がり、全国の死者・行方不明は25人を数え、建物の全・半壊446棟、床上・床下浸水は13,893棟、山・がけ崩れ935か所に達した。


豪雨を降らせる特異な雲パターン

  「ひまわり」の写真を示すが、写真の右下に見えるのは小笠原諸島付近の台風4号の雲の渦巻きである。
  紀伊半島の沖合から伊豆半島にかけて、野菜のにんじん(人参)のような形をした珍しい雲が見える。この雲は、白く輝いているところからみると雲頂高度の高い積乱雲である。この積乱雲群は、北東にのびて伊豆半島から、関東地方、東北地方南部に広がり、この雲の下で大雨が降った。
  この特異な雲を「にんじん状の雲」、または「テーパリング・クラウド」と呼び、筆者の経験では、このような雲の近くではほとんどの場合、大雨が降っている。


ひまわりの写真(1998年8月28日12時)

 テーパリング・クラウド(tapering cloud)とは、直訳すれば先細りの雲、先のとがった雲という意味である。気象衛星の雲画像で、筆の穂先のような細長い三角形をしている雲は、活発な積乱雲や積雲の集団である。
  穂先の部分は、上空を吹く南西風の風上側に当たる。穂先で次々と発生した積乱雲(かなとこ雲)が発達しながら風下側の北東へ流されるので、細長い三角形状の雲のパターンとして見える。
  にんじん状の雲が現れている時間はそれほど長くはない。4時間以上10時間未満が多いという統計がある。台湾付近の東シナ海で最も多く発生し、次いで九州の西海上から関東の東海上までの海上で多い。中国大陸と北緯40度以北では発生が少ない。また低気圧の中心付近や前線付近で多く発生する。
  TVなどで雲写真を見ていて、にんじん状の雲が現れたら豪雨のほか、竜巻、降ひょう、突風などのおそれがあると考えて、注意をしたいものである。


消防科学総合センター季刊誌「消防科学と情報」1999年夏号より