防災展示場
消防防災GIS
災害写真データベース

宮澤清治の防災歳時記

山が燃える

NHK放送用語委員会専門委員
元気象庁天気相談所長
宮澤 清治

梅も桜もともに咲く

  北国では、4月から5月にかけてが花の季節だが、雪とはまだ縁が切れない。春の遅い北国の風情を次のように謡う。
    花が咲いたと、都のたより
      こちら雪だと 返す文(ふみ)
        (山形県 新庄節)
  同じ東北民謡でも、こちらは春らんまん、野焼きの火を謡う。
    あちらこちらに野火つく頃は
      梅もサクラもともに咲く
        (秋田県 本荘追分)
写真1 山形県新庄市郊外を流れる最上川
写真1  山形県新庄市郊外を流れる最上川
  北国の春は爆発的にやってくる。ある日突然、気温が上昇して屋根の雪が解け、音をたて屋根から水が落ちはじめる。これが春の到来の音だと人は言う。
  2月から3月にかけて、西日本では梅、桃、桜の順に花が咲く。これらの花前線が、北上して中部地方や北国にさしかかると、先行した梅前線が寒さのために足踏みする。4月半ばになると、北国では爆発的に気温が上昇する。すると、後続の桃、桜前線が梅前線に追いつき、3種の花が一緒に咲くようになる。
  福島県三春(みはる)町は、一説には梅、桃、桜が一緒に咲くので“三春”の名がついたという伝承がある。ところが、気候が変調だと、「三春現象」が暖地でも起こる。
  昭和59年(1984)は、まれにみる寒冬大雪の年で、太平洋側でも雪が数回も積もった。東京の桜の開花は、平年より13日も遅れて4月11日で、遅咲きの新記録となった。この年は、寒さのあとに急に春がやってきたので、東京でも神戸でも梅、桃、桜、梨が一緒に咲き誇り、百花繚乱の春となった。人々は生まれて初めて見る珍現象だと喜んだ。
  野火は、春の風物詩である。枯れ草は、紅蓮の炎をあげて燃え上がる。広大な野焼きは華麗な火の宴でもある。火が一段落してチロチロと燃えていても、風向きによって急に火が広がる。春の強い日ざしの下では、火がよく見えないので、油断できない。
 

風が急に吹きだし、火が走る

  昭和58年(1983)4月27日午後、東北地方に発生した同時多発的な山火事はいつまでも記憶に残る。青森・岩手・宮城・福島など東北6県の山林では、36か所で山火事が発生し、焼失面積9千ヘクタール、死者1人、被災者約230人を数えた。特に岩手県久慈市の山火事は、三陸海岸の5集落を灰とがれきに変えた。暗い冬の季節に耐えてきて、やっと花の便りを聞いたばかりだったので、よけいに痛ましかった。
  26日までは、異常な乾燥が続き、山火事が起こりやすい状態だった。ところが27日の昼ごろから、人々の虚をつくように突風が吹き始めた。飛び火が盛んに起こり、火災はどんどん拡大した。
  朝のうちは、放射冷却で冷え込んだ空気が地面を覆い、風は穏やかだった。昼間になって、強い日ざしで地面が熱せられると対流が起こり、空気が上下にかき混ぜられた。すると、上空の強風が一気に下りてきて、地上で突風が吹きだしたというわけ。フェーン現象によって奧羽山脈を越えてきた乾燥した西風であったので、火を走らせる結果となった。
写真2 火の見やぐらの見える風景(福島県浪江町)
写真2  火の見やぐらの見える風景
(福島県浪江町)
  気象学者は、急に吹きだした危険なこの風を「熱対流混合風」と呼んだ。われわれの先祖は、このような現象を早くから気づき、ことわざとして残した。
  ○星がキラキラとままたくと、翌日風が強くなる
  ○北風と夫婦喧嘩は日が沈むと止む
  ○西風と日雇いは日いっぱい
  星がまたたいて見えるときは、上空で風が強い証拠である。強風が密度の大きい空気と小さい空気を次々と運んでくる。この空気の層を星の光が通るとき、強さや色を変化させるので、星がまたたいて見える。翌日、日射で地面が暖まると、空気の対流が起きて、上空の強風が地上に下りてくるのである。
  太平洋側の地方で冬に吹く北風(からっ風)は、日没になると地面付近が冷え込むので空気の対流がなくなり、風が弱くなる。からっ風は、場所によっては西風となる。
  雪が消え、花の訪れとともに山菜摘みやハイキングの人々がどっと山に入る。山火事の多発する季節の「マッチ一本」に最大限の注意をしたい。

消防科学総合センター季刊誌「消防科学と情報」1998年春号より