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宮澤清治の防災歳時記

「ぶり起こし」の鳴るころ

NHK放送用語委員会専門委員
元気象庁天気相談所長
宮澤  清治

「ぶり起こし」の鳴るころ

雨晴(あまはらし)海岸

  晩秋から初冬にかけて、晴れるかと思うと急に降り出し、まだ降るかと思うとたちまち晴れる。このように断続して降る雨をしぐれと言い、時雨と書く。
  空を見上げれば雲足があわただしく流れ去り、ときおり青空も見える。ふと気が付けば傘の上に月光がさしていることもある。昼夜を問わずに降るから、「弁当を忘れても傘を忘れるな」ということになる。
  冷たい北西の風がシベリアから日本列島に吹きつけるとき、日本海上に発生した積雲(綿雲)が沿岸にやってくるとしぐれが降る。雲が内陸に流れて、山あいの地方を通り抜けると、一陣の風とともにしぐれが降る。京都盆地の北山しぐれは有名である。北山しぐれが来ると京都の人たちは冬支度に取りかかるという。
  富山県高岡市伏木港から西に風光明媚な海岸がつづく。ここを雨晴(あまはらし)海岸といい、JR氷見線に雨晴駅(写真1)がある。老杉の生えた男岩・女岩が並び、一帯は能登半島国定公園に指定されている。


写真1 JR雨晴駅(氷見線)

  昔、源義経主従が奥州落ちのとき、今も海岸に残る巨石(義経岩)の下で、雨が晴れるのを待ったという言い伝えから雨晴海岸の名がある。恐らくこの雨はすぐに降り止むしぐれであったことと思う。「雨晴」とは、気象に関係した地名で興味深い。

ぶり起こし

  数年前の晩秋、金沢市で一泊した。このとき、一晩中ゴロゴロと大音響を伴って雷が光った。太平洋側に住む人間には、時季外れの雷にびっくり仰天した。
  太平洋側の雷は、ほとんどが春から夏にかけて発生し、特に7〜8月の盛夏に多い。夏の強い日ざしによる上昇気流が、もくもくとした積乱雲(入道雲)を発生させる。雷は夏の風物詩である。
  日本海側では、冬に雷が多いので1年を通じると全国で雷がいちばん多い。日本で1年間の雷日数が最も多いのは、富山・石川県の県境付近の40日、次いで宮崎県霧島地方と栃木県北部でそれぞれ35日である。
シベリアから寒気がやってくると、暖かい日本海上で上昇気流が盛んになって積雲から積乱雲に発達する。初冬になって積乱雲が来ると、雷とともに、しぐれが降ったり、あられ(霰)が降ったりする。さらに眞冬になって気温が下がると雪が降る。
  雪国では、冬の雷を「雪起こし」と呼ぶ。この雷が鳴ると、大雪が降る前兆だと人々は言う。
  北陸の漁師は、11月終わりごろから1月にかけてブリ(鰤)の取れるころに鳴る雷を「ぶり起こし」と呼ぶ。寒気が来て海が荒れ、雷鳴が広い海にとどろき渡ると、イワシなどの小魚を追って、ブリが佐渡の両津湾から一気に富山湾に入ってくる。
  寒ブリといわれるように日本海の荒波で、もまれた北陸沖のブリは脂が乗って最高。正月の魚として東の横綱がサケなら西はブリである。

鰤起こし待たれる雲の去来かな
(玉野市)  勝村  博


写真2 鉄道防風・防雪柵(JR北陸本線市振駅)

日本海側の越冬食といえば秋田のハタハタずし。ハタハタなどを漬けた塩汁で、ハタハタや野菜を煮ながら食べるしょっつる鍋も有名である。ハタハタを鰰と書き、カミナリウオと呼ぶ。神鳴魚とも書き、雷に縁がある。
  普段、沖合の水深400メートルほどにいるハタハタは12月上旬ごろの季節風の吹き出しとともに動き出す。海が荒れ、雷が激しく鳴る日、何万尾もの大群となって岸に近い深さ数メートルの藻のある産卵場に押しかけてくる。そこを一網打尽。近年は漁獲高の減少から、かつての大衆魚ハタハタも、いまでは高級魚の仲間入りになった。
  ブリもハタハタも荒れる海の中で、雷鳴をどのように聞いているのであろうか。
  冬の雷を学名で「冬季雷」と呼ぶ。夏の雷の積乱雲の雲頂は1万メートルを超える雄大なものが多いが、冬季雷の積乱雲の雲頂はおよそ7千メートル程度である。雲頂が低いからといって被害が少ないわけではない。
  冬の雷は人に落ちて電撃死させたり、航空機が被雷したりすることが案外多い。また、積乱雲が通過すると突風が吹いたり、ヒョウが降ったり、海岸では大波が打ち寄せるから注意が必要である。写真2は、日本海に面した富山・新潟県境のJR市振駅の防風・防雪柵である。


消防科学総合センター季刊誌「消防科学と情報」2002年秋号より