防災展示場
消防防災GIS
災害写真データベース

宮澤清治の防災歳時記

木枯らしの吹くころ

NHK放送用語委員会専門委員
元気象庁天気相談所長
宮澤 清治

木枯らしの吹くころ

11月のあらし

 メイストーム(五月のあらし)という言葉がある。初夏の5月ごろ、あらしがやってきて大風の吹くことがよくある。日本海や北日本方面で、低気圧が台風並みに発達して、広い範囲にわたって海や山が大荒れになり遭難事故が相次ぐ。
 このようなあらしをメイストームと呼ぶ。この言葉のきっかけになったのは1954年(昭和29)5月9日、北日本近海で低気圧が猛烈に発達して船舶の沈没・流失など348隻、死者・行方不明者361人という、当時として日本海難史上最大の惨事で、気象関係者はこのあらしを初めて「メイストーム」と名付けた(本誌:No.56 1999年春季号)。
 ところで、晩秋11月ごろにもよくあらしがやってくる。米国では、このあらしをノベンバーストーム(11月のあらし)と呼ぶ。1950年11月25日米国東部に大被害をもたらした発達低気圧に伴うあらしにこの名が初めて付いた。
 日本では、1932年(昭和7)11月15日の「七五三」に来た台風<七五三台風>は、ノベンバーストームの代表的なものである。この台風は、季節はずれにやってきた“おくて台風”で、房総半島をかすめ、千葉県勝浦付近を15日午前0時20分ごろに通過して北東に進んだ。
 台風による死者・行方不明者は257人、神奈川・千葉県では特に風が強く、横浜の最大風速はNNW36.6メートル(史上2位)。静岡県吉原村(現富士市)では火災が発生して焼失113戸、死者22人をだした。また、長野県では台風通過後、寒波が流れ込んで同県南佐久郡などで10〜50センチの積雪を観測した。


木枯らしとは

 木枯らしとは、晩秋から初冬にかけて木の葉を散らすように吹く強い北風のこと。ひゅうひゅうと吹くたびに木の葉が落ちて枯れるところから、木枯らしと名付けたらしい。いよいよ冬が来たなあと感じる風である。
 気象庁では、10月半ばごろから11月末までの間で、西高東低の冬型の気圧配置になったとき、北から西北西までの風が、最大風速秒速約8メートル以上吹くときを木枯らしと言っている。
 この定義によって調べると、木枯らしが始めて吹く「木枯らし1号」の日は、東京や大阪では平均して暦の立冬(11月7日ころ)のころ。季節感が暦と一致しないことが多いのに、冷たい風が吹き始める日が、暦の立冬と一致するとは面白い。


写真1 晩秋の信濃路(諏訪湖付近)


写真2 草木に付いた霧氷(長野県・横手山)

木枯らしが霧氷を運んできた

 昨年(1999)10月16日〜17日、長野県を旅行した。16日は秋晴れの行楽日和であったが、17日は一転して冬型の気圧配置となり、木枯らしが吹き始めた。この日、北海道各地では、初雪・初冠雪を観測したが、長野県志賀高原の横手山(標高2305m)付近では、霧氷の花が咲いた。
 シベリア大陸から吹いてくる冷たい北西季節風が雲を運んでくる。雲が山腹にぶつかると、一転して雲の中の小さな雲粒や霧粒が雪や氷に変わる。過冷却した雲粒(氷点下になっても凍らないで水のままでいる)が、木や地物にぶつかった瞬間に氷つくのである。
 写真2はそのとき撮影した霧氷で、白色不透明のもろい氷だった。樹氷はその一種で、冬になって樹木に尾びれ状に白っぽい氷がつくと「えびのしっぽ」、トドマツなどの針葉樹全体が氷で覆われると「モンスター(怪物)」と呼ばれる。山形・宮城県境の蔵王山は冬の樹氷が美しい。
 樹木に氷が着いても被害が少ない。ところが、過冷却した雲粒が送電線などに衝突して凍りつく現象(着氷)は、事故のもとになる。氷の重みで電線が切れたり、風で着氷した電線が上下に振動してショートしたりすることがある。航空機への着氷も同じ現象である。
 晩秋から初冬にかけては、気温の低下とともに、空から降る雨も、しぐれ、みぞれ、あられ、雪とさまざまに変わる。一見、ロマンチックな晩秋の現象だが、私たちの暮らしには大なり小なり影響がある。

消防科学総合センター季刊誌「消防科学と情報」2000年秋号より