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8. 米国連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency Management Agency:FEMA)における防災・危機管理教育の概要について

消防庁防災課災害対策管  今 井 太 志

1.FEMAとは
  FEMAは,1979年3月に発生したスリーマイル島原発事故における連邦政府の対応の混乱を契機に専門組織の設置が求められたことから,4省庁の5機関(消防庁,連邦保険庁,民間防衛準備庁,連邦災害援助庁,連邦有事準備局)を統合して同年7月に設立された。
  1992年8月に発生したハリケーン・アンドリューにおける対応の遅れから機能強化が求められ,1993年に組織の改正が大々的に行われ現在に至っているが,2001年9月11日に発生した同時多発テロを契機にテロ対策の強化を図るため設置される国土安全保障省(Department of Homeland Security)に統合されることとなっている(2003年3月1日)。
  組織としては,長官の下に準備・応急対応・復旧部,連邦保険・被害軽減部,米国消防部等の主要部局や全米10箇所の事務所に加え,今回のテーマである防災研修所(Emergency Management Institute:EMI)等を附属機関として有している。

2.EMIにおける防災・危機管理教育について
(1) 概要

  EMIは,ワシントンD.C.の75マイル北,メリーランド州エミツバーグにある国家緊急事態訓練センター(National Emergency Training Center:NETC)内に位置し,107エーカーの敷地を米国消防部(United States Fire Administration)や消防大学校(National Fire Academy)等と共有している。
  1981年に連邦レベルでの研修機関として開講し,連邦政府や州,地方自治体の職員や,企業,自主防災活動組織,一般市民を対象に防災・危機管理教育を実施している。なお,消防機関の職員向けの研修は消防大学校が受け持っている。
(2) 研修コースとカリキュラム
  研修コースは大きく分けて,EMI本部で行うコース(Resident Courses),州緊急事態管理局がEMIの支援のもと各州で行っているコース(Non-Resident Courses),インターネット(Independent Study Program)やテレビ映像,衛星放送等を活用した危機管理教育ネット(Emergency Education NETwork:EENET)により家庭や地域で学習できる遠隔教育コース等がある。
  カリキュラムに関しては,被害軽減(mitigation),準備(preparedness),対応(response),復旧(recovery)の緊急事態対応の4つのフェーズを踏まえて,自然災害対応(地震,ハリケーン,洪水,ダムの安全),人為的・技術的危険への対応(危険物質,放射性物質,化学物質による事故,テロ),専門家育成,リーダーシップ,教育方法,訓練デザインと評価,情報技術,住民への伝達・公表,統合緊急事態管理,講師用教育等の分野で研修が実施されている。科目例の一部については,後掲の資料を参照されたい。
  EMIの2002ー2003研修カタログによれば,Resident Coursesは70弱の科目があり毎年約5,500人が,Non-Resident Coursesには約120の科目があり10万人が,また,約30の科目があるIndependent Study ProgramやEENETによる遠隔教育コースに数十万人が参加しているとされている。
(3) 大学教育や生涯学習との連携について
  EMIは大学等における危機管理関連教育の実施を推進しており,そのため,大学用標準危機管理教育カリキュラム(大学3,4年生を対象にし,教室で教育可能なカリキュラム)を作成し,大学教授と連携して,危機管理教育を広めている。(高等教育プロジェクト(Higher Education Project))
  また,EMIの科目のうち,大学教育のレベルを満たすものとして,アメリカ教育協議会(American Council on Education:ACE)により大学の単位としての推薦を受けたものについては,履修単位として認定している大学もある。
  さらに,EMIのカリキュラムの履修は「生涯学習単位」(Continuing Education Units:CEUs)としても認定されており,特定の知識,技術と能力が必要なる科目については,EMI本部におけるおおよそ10時間の研修につき1CEUが与えられる。(Non-Resident CoursesやIndependent Study Programでは取得できない。)

*職業上のキャリアの自己管理が求められるアメリカにおいては,各種のセミナーや研修プログラムへの参加実績をCEUsとして積み重ね,キャリアアップや転職に役立てている。

3.終わりに
  1995年の阪神・淡路大震災の反省をもとに,日本においては,政府・地方公共団体・企業・住民それぞれが大規模災害への対応体制を強化してきたところであるが,7年を経て,現在改めて人材育成の重要性が認識されている。このことについては,本号において様々な方から今後の取り組み強化の考え方とともに記されているところであり多言を要しない。
  また,平成12年秋から平成13年まで日本に滞在して多くの防災関係機関を訪問し,日本の防災体制の問題点を分析したFEMAのレオ・ボスナー氏の論文「FEMA危機管理専門官から見た日本の危機管理」(務台俊介消防庁防災課長訳)(月刊「地方自治」平成13年10月号)においても,「国レベルの危機管理研修講座と研修センターを整備し日本の危機管理の専門性を高めること」の必要性が強く提言されている。
  現下の厳しい国の財政状況下において新たな機関の設置は容易ではないが,日本においても,現在国家レベルの研修機関として消防大学校があり,消防大学校の機能を拡充していくことにより十分に求められている役割を果たすことが可能ではないかと思われる。消防大学校における防災教育強化への取り組み状況については,本号に同大学校教務部長石川増弘氏により記載があるが,一層の充実を期待して結びとしたい。

EMIによる提供科目例
(1)
EMI本部コース(Resident Courses)
○被害軽減(Mitigation)
 ・被害軽減施策の実施について(Mitigation Field Operations)
  被害軽減を応急対応や復旧と結びつけて実施できるような教育を行う。(3.5日間)
 ・デジタルハザードデータ講座(Digital Hazard Data)
  デジタル洪水データやその他のハザードデータを使う技術や知識について学ぶ。(4.5日間)
 ・FEMAの責任範囲について(FEMA Program Responsibilities)
  FEMAが責任をもって担うべき業務について学ぶ。(4.5日間)
○準備と技術(Readiness and Technology)
 ・放射線緊急事態対応講座(Radiological Emergency Response Operations)
  放射線事故への対応や管理について学ぶ。(4.5日間)
○専門家育成(Professional Development)
 ・研修の実施について(Management and Supervision of Training)
  研修の計画,運営,評価について学ぶ。(4日間)
○応急対応と復旧(Disaster Operations and Recovery)
 ・災害復旧講座(Recovery from Disaster)
  災害復旧計画の作成方法等について学ぶ。(4.5日間)
○統合緊急事態管理(Integrated Emergency Management)
 ・準備と対応(IEMC/All Hazards: Prepardness and Response)
  準備と対応に関し,人員,組織,資源,機能等を統合しての実施について学ぶ。(4.5日間)
(2)
州緊急事態管理局によるコース(Non-Resident Courses)
○被害軽減(Mitigation)
 ・州における被害軽減計画講座(State Hazard Mitigation Planning)
  被害軽減の概念,プログラム,法令等について学び,自然災害に対する脆弱性を減らす取り組みへ貢献できる職員を養成する。(1日間)
○準備と技術(Readiness and Technology)
 ・非常時指揮システム(Incident Command System:ICS)について
  様々な分野におけるICSの適用について学ぶ。*ICS:用語の統一,組織形態の標準化,情報システムの統一,
  指揮命令系統の統一などにより,場所,団体が異なっていても緊急事態に際し,同一の対応を可能とするシステム
○化学物質対応(Chemical Stockpile Emergency Preparedness Program)
 ・スポークスマン研修(CSEPP Spokesperson Training)
  民間人を対象に,化学物質による緊急事態に際し,正確な情報をメディアに対して提供する方法について考える。(8時間から16時間)
○専門家育成(Professional Development)
 ・緊急事態管理の原則(Principles of Emergency Management)
  緊急事態管理に関する入門コース(3日間)
 ・リーダーシップと影響(Leadership and Influence)
  緊急事態におけるリーダーシップと他人に対して影響を与えるスタイル等について学ぶ。(3日間)
○応急対応と復旧(Disaster Operations and Recovery)
 ・危機管理計画と災害弱者について(Emergency Plannning and Special Needs Populations)
  災害弱者に関して必要となることについて学ぶ。(2.5日間)
○統合緊急事態管理(Integrated Emergency Management)
 ・地方自治体用緊急事態管理運営講座(Emergency Management Course for Local Governments)
  緊急事態対応センター(Emergency Operations Center: EOC)の役割も含め,地方自治体における
  緊急事態管理能力の向上等を図る。(2.5日間又は3日間)
(3)
インターネットによる独立研修コース(Independent Study Program)
 ・緊急事態対応プログラムマネージャーの養成(Emergency Program Manager: An Orientation to the Position)
  緊急事態管理に必要な基礎知識について学ぶ。
 ・緊急事態準備講座(Emergency Preparedness)
  自然災害,人為的・技術的危険について学び,個人の緊急事態準備計画の作成や地域の
  緊急事態準備ネットワークへの参加を促す。
 ・危険物講座(Hazardous Materials: A Citizen's Orientation)
  危険物に関する様々な知識を学ぶ。
 ・救援に関する講座
  救援に関する自治体,州,連邦政府の役割について学ぶ。