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災害写真データベース

6. 平成9年土石流災害とその後の対策について

鹿児島県出水市総務課

被災地及び周辺の概要

 土石流災害のあった針原地区は,本市(鹿児島県北西部)の北方向に点在する集落で,この集落の北側縁辺を針原川が流れている。針原川は,本市の北東に位置する矢筈岳の中腹付近を源とし,八代海に注ぐ流路長約2.3キロメートルの小河川である。流域は,主に安山岩類を基岩とする火山山麓扇状地形面が開析された谷地形からなる。表層の地形は,上流では輝石安山岩,下流では,砂,礫,シルト質からなる扇状地堆積物で被われている。
 また,針原川は,昭和56年に土石流危険渓流として鹿児島県が公表,平成6年に砂防指定地として国の指定を受け,河口から1キロメートル上流の地点に砂防量22,000立方メートルの砂防ダムがほぼ完成していた。
 砂防ダムから115メートル上流には昭和9年に築造された農業用溜め池があった。推定全貯水容量は,15,000立方メートルであったが,上流からの浸食土砂が流入し既に約7割が埋まっていたといわれている。

災害発生前の雨量

 本市における平成9年6月の雨量は413ミリメートルでほぼ平年並みの雨量であったが,7月7,8,9日の3日間の雨量は398ミリメートルの雨量を記録した。特に,災害発生前日の9日は1日雨量275ミリメートルであった。この日の時間雨量の最大は,午前10時からの62ミリメートルで観測開始以降第2位の記録である。

災害発生前日の様子
 市は午後4時30分に災害対策会議を開き,5時には災害対策本部を設置して市全体としての災害発生に対する防災体制を整えた。
 災害対策本部は,午後5時30分に市内全17箇所の避難所を開設するとともに各避難所に職員を2人ずつ配置し,161自治公民館長(自治会長)に自主避難の呼びかけを依頼した。
 針原地区の自治公民館長は,5時40分に市からの電話連絡により有線放送で農村環境改善センターの避難所開設を知らせるとともに自主避難を住民に呼びかけた。
 しかしながら,市内17避難所のうち避難者があったのは米ノ津東小学校5世帯13人,米ノ津小学校2世帯4人のみであり,針原地区の避難所である農村環境改善センター,臨時の避難所として急きょ開設した針原公民館にも避難した人はいなかった。

土石流の発生

 土石流の発生は,九州電力の停電記録や被災地で発見された時計などから7月10日午前0時44分頃とされている。
 鹿児島県警察本部は,0時49分に携帯電話から「山津波発生,泥流・ガス爆発が発生しているようだ。詳細は分からない。」との通報を受けた。
 一方,本市へは午前1時に自治公民館長から携帯電話で「10分位前に大音響がし,家が降ってきた。神社の方に炎のようなものが見える。何が起こったのか近所の様子も分からない。今,公民館に避難してきた。」との通報があった。

○人的被害
区 分
人 数
死 者
21
重傷者
2
中傷者
5
軽傷者
6

○住宅被害等 (単位:千円)

区 分
住 家
被害額
非住家
被害額
全 壊
18棟
474,705
11棟
101,018
半 壊
1
12,870



一部損壊



2
1,083
床上浸水
4
2,417



床下浸水
17
850



40
490,842
13
102,101

○公共施設等被害 (単位:千円)

区 分
内 容
箇 所
被害額
土木関係
市 道
1
15,000
河 川
3
206,000
(小 計)
4
221,000
農林関係
農 産物
(果樹)
175,836
農 地
10.2ha
350,000
農 道
10
30,000
用排水路
11
30,000
防除施設等
10
10,000
溜 池
1
20,000
(小 計)


605,836
商工関係
商工施設
6
17,544



844,380
※ 被害総額1,437,323千円


被害の概要

 今回の土石流は,7月7日から9日までの豪雨を引き金として,集落を流れる針原川上流右岸側斜面に発生した山腹崩壊土砂が針原川に流れ込み流下したものである。
 崩壊土砂量は約16万立方メートルで,そのうち崩壊地内に残存した土砂量が1万立方メートル,崩壊地からため池までの区間に堆積した土砂量が2万立方メートル,砂防ダムが捕捉した土砂量が5万立方メートル,砂防ダムを越えた土砂量が8万立方メートルである。
 主たる土石流本体は集落の途中で停止・堆積したが,土砂泥流部分が更に流下・拡散し,住家に流れ込んだり,ミカン園が埋没するなどの被害が生じた。また,針原川沿いの住家には,橋に堆積した流木などで流水がせき止められ増水したため,床下浸水などの被害も発生した。今回の災害による被害状況は左表のとおり本市始まって以来の未曾有の大災害となった。

針原土石流災害直後の写真

災害後の応急対策

監視カメラ・サイレン等の設置
 被災住民や復旧作業に携わる方々の安全確保や崩壊地斜面の監視,警報,雨量計測のため,高感度カメラ,伸縮計,サイレン,スピーカー自動応答式雨量計を設置した。
住民健康相談
 大規模災害における被災者の健康不安等を解消するために,保健婦による相談活動,訪問活動を行った。専門的な精神相談については,長期にわたり,鹿児島大学教育学部久留教授のボランティアによるPTSD(心的外傷後ストレス障害)相談活動がなされ,被災者に大きな安心感をもたらした。
ボランティアの活動
 ボランティアの活動は,遺留品の発掘・洗浄・保管,救援物資の整理,炊き出し等から自宅の土砂除去で手の回らなかったみかん園に堆積した土砂除去までおよび,被災地の窮状を救った。


災害後の防災対策

雨量監視システムの整備
 本市にはアメダスの観測点が市街地の消防署に設置され,昭和54年度から雨量観測を行っている。しかしながら,約229平方キロメートルの面積を有する本市各地域の雨量をこのポイントの雨量だけで判断することはできず,特に集中豪雨等は文字どおり狭い地域ごとに状況を把握しなければならないというのが,今回の災害での一番の教訓であった。
 このため,災害危険箇所の多い市内山間部を中心に市内全域をカバーできるような7箇所の観測点を選定し,それを集中監視するシステムの整備を進めた。
 当初,市役所を本局とする予定であったが,急きょ24時間監視体制の整っている消防署に本局を変更して,雨量集中監視システムは平成10年3月末日から運用を開始した。これによりきめ細かな雨量の情報収集・避難勧告等が可能となった。
地域防災マップの配布
 針原地区土石流災害後,市民の防災意識の高揚を図る観点から,災害危険箇所点検時に使用した災害危険箇所地図をもとにして,自治公民館ごとの地域防災マップを作成し,平成9年10月に関係地区の全住民への配布を行った。また,平成10年7月には,防災パンフレットの全戸配布を行った。
 これにより,地域住民の防災意識の高揚と災害危険情報の共有化を図ることが可能となった。
防災行政無線の整備
 災害情報の収集・伝達の重要性に鑑み,平成8年度に移動系防災行政無線の整備を行った。
 平成10年度には,市役所本局(市災害対策本部)から市内全部の自治公民館や避難所等に一斉に情報を伝達できる同報系防災行政無線の整備を行っており,戸別受信機230基,屋外拡声機17基により平成11年度から運用を開始した。
 屋外拡声機については,平成12年度までの3箇年で整備を行う予定である。また,戸別受信機については,全戸への受信機設置が不可能であるため,現在市内のほとんどの自治公民館に網羅されている有線放送施設を生かした形での整備を行っている。
 これにより,これまで電話連絡により行っていた避難所開設等の連絡を一斉にできるようになり,より迅速な防災対策が可能となった。
自主防災組織の育成強化
 本市では同年7月3・4日に梅雨末期の集中豪雨があり,市内各地で浸水被害が続出した。
 行政や消防団だけでは緊急時の対策に対応しきれないことなどの反省から,同災害後から自主防災組織結成の呼び掛けを開始した。平成7年度から平成9年度にかけては,毎年10余の地区において組織化が行われ,43の組織が結成された。
 災害危険箇所のある地区で自主防災組織が結成されていない場合は,地区の自治公民館長宅を職員が訪問し,組織結成を呼び掛けて回った。針原地区土石流災害で市民の災害に対する意識が高まっていたこともあり組織化が進んだ。その結果,新たに42組織が結成され,現在85の自治公民館で組織が結成されている。
土砂災害110番の設置
 今回の土石流発生前に河川水の減少や異様な音がしたなどの異常な現象があった。
 しかしながら,災害の前兆現象の重要性が認識されていなかったことや真夜中であったことなどで関係機関への通報がなされなかった反省から,平成10年9月1日(防災の日)に土砂災害110番を設置した。これは,土砂災害の前兆現象や普段と違っている点等を発見した場合に,速やかにいつでも市役所へ通報してもらうようにし,災害の前兆現象を見逃さないようにする目的で設置した直通電話である。市役所が電話に出れない場合は,24時間監視体制の整っている消防署に自動的に転送されるしくみである。
関係機関との災害時応援協定の締結
 災害が発生した場合に必要に応じて土地の相互使用や災害情報の相互提供等を行う覚書を,平成10年4月9日に市内7郵便局と,また9月16日には九州電力出水営業所と出水市との間でそれぞれ取り交わした。

おわりに

 この災害発生から3年近く経過しようとしているが,今回の災害で得た教訓を後世に残し,風化させないように防災講演会や訓練等を通じて住民の防災意識の高揚を図り,二度とこのような災害が発生しないよう安全なまちづくりを推進していきたい。