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火災原因調査

◇ 火災原因調査シリーズ(33)
収れん火災
ステンレス製のボール容器の
収れんによる火災事例について

川崎市消防局


1 はじめに

  本事案は、収れんによりステンレス製のボール容器( 以下、「ボール容器」という。)内の木片から出火した事例ですが 、出火後の延焼過程において、同ボール容器が出火箇所から落下し たこと及び、収れん発生から約1時間30分後の出火で、出火時並び に実況見分時、出火箇所は日陰であったことから、原因の特定が困 難だった事案です。

2 火災事例

(1) 火災概要

  出火日時
  平成13年12月7日(金)12時26分ころ
  出火場所
  耐火造4階建、店舗併用共同住宅の2階ベランダ
  焼損程度
  ベランダに置かれていたくわがた飼育用品及び園芸用 品等若干焼損並びに網戸、雨とい若干溶融
  気象状況
  天候 晴、風向 北東、風速 1m/s、気温 12度、湿 度 38%、実効湿度 70%、気象報等の発表なし
(2) 原因調査
  出火前のベランダの状況
  出火時、家人は外出しており、室内は施錠されていた 。
  ベランダ内にはくわがた飼育用品と園芸用品等が置か れ、その間にくわがた飼育用の合成樹脂製の箱(くわがた飼育用木 屑、幅20センチメートル、奥行き34センチメートル、高さ11センチ メートル)を2段に重ね、その上に木片(くわがた産卵用朽木、長 さ13センチメートル、幅3センチメートル、厚さ5センチメートル) を入れたボール容器(直径26センチメートル、深さ9センチメート ル)を置いていたものである。
  関係者の供述をもとに出火前のベランダの状況を復元 した状況は、次の図のとおりである。
ベランダ内復元図
  現場の模様
  ベランダ内は、溶融したくわがた飼育用品と園芸用品 等が散乱しており、床一面に消火器の薬剤が付着している。特に合 成樹脂製の棚とくわがた飼育用の合成樹脂製の箱が、原形をとどめ ない程溶融していた。
  焼き状況は次のとおりである。
ベランダ内の焼き状況
(3)   見分の結果
   関係者の供述及び調査の結果から、飼育用木屑 、放火及びたばこからの出火は否定され、原因を究明することが困 難ではあったが、他の可能性のあるあらゆる原因について検討し飼 育用合成樹脂製箱内の飼育用木屑の自然発火及びボール容器とガラ ス瓶の収れんによる出火について、出火当日と2日後に見分した結 果は次のとおりである。
ア 出火当日の見分
(ア)  飼育用木屑の自然発火について
  飼育用木屑は表面だけの焼きであり、内部は焼きして いないこと及び温度計で測定したところ、同木屑内の温度は約40度 であったことから飼育用木屑からの自然発火については考えられな い。
(イ)  収れんによる出火について
  出火場所周辺の建物及び室内に収れん現象を発生させ る鏡面等のレンズ効果のある物は認められなかったが、出火箇所に ボール容器と破損したガラスの瓶があったことから、収れん現象に よる出火について調査、実験を実施することとした。
イ    2日後の見分
  太陽光線の入射状況の調査について
  出火から2日後に、出火室のベランダ内で太陽光線の 入射状況を見分すると、10時55分からベランダ内の出火箇所に太陽 光線が差し込み、12時00分を過ぎると日陰になった。このことから 出火箇所には出火時刻の約30分前まで太陽光線が入射していたこと が分かった。なお、出火時の太陽光線の入射角(水平線を0度とし て)は30.4度、太陽方位(北を0度として東回り)は194.2度である 。(入射角及び太陽方位は国立天文台調べ。以下同じ。)
12時00分の日差しの状況
(4) 実験結果
  実験内容
  現場でボール容器とガラス瓶及び木片を収去し、所轄 消防出張所(2階建屋上)で収れんによる出火の可能性について実 験した。
  なお、ボール容器については表面が焼き変色している ため、同型の新品を使用した。
(ア)ガラス製の瓶による収れんについて
  ガラス製の瓶は、瓶の内部に水を入れた状態と空の状 態について実験したが、水の有無に関係なく光線の収れんは一点に 集中しなかった。
(イ)ボール容器による収れんについて
設 定
  ステンレス製のボール容器を床に置き、内部に木片3本を入れて2回 実験を実施した。(「実験概要図」参照)
イ 実験結果
(ア)実験1回目
日時平成14年1月8日
10時25分〜10時55分
気象 天候 晴、風向 南西、気温 12度、風速 5m/s、
湿度 41%、強風波浪注意報発表中。
10時25分
  実験開始
  太陽光線は木片の表面に収れんした。
  5秒後若干発煙した。

  入射角 28.9度
  太陽方位 158.0度

10分経過
  無炎燃焼が継続して焼きは直径1センチ メートルの大きさになった。

29分経過
  無炎燃焼は拡大、煙の量がわずかに多くなる。

30分経過
  発炎した。

  入射角 30.7度
  太陽方位 165.7度

(イ)実験2回目

日時平成14年1月24日
10時07分〜11時40分
気象 天候 晴、風向 南南西、気温 9度、風速 1m/s、
湿度 27%、乾燥注意報発表中。
10時07分
  実験開始
  5秒後わずかに発煙が認められる。

  入射角 29.7度
  太陽方位 165.7度

30分経過
  無炎燃焼が継続して焼きは
直径1センチメートルの大きさになった。

1時間30分経過
  煙の量が多くなり、ボール全体に 広がる。

1時間33分経過
  発炎した。

  入射角 35.1度
  太陽方位 176.1度

  以上のとおり、ボール容器の収れんによる出火実験で は、実験時の風速が1メートルと5メートルと違いはあるが、いずれ もわずか5秒で発煙していることから、収れんから発煙するまでの 時間に影響はなかった。しかし、風速の大小で無炎燃焼の継続時間 に約1時間の差が出る結果となった。
(5) 結 論
  本火災は、太陽光線がボール容器内の凹面で反射し、 容器内にあった木片に収れんしたため、同木片で無炎燃焼が発生し 、約1時間30分後に発火したと判定した。

3 今後の教訓

  今回の事案は、実況見分時には収れんの原因となった ボール容器及び着火物が出火箇所から落下していたこと、出火時及 び実況見分時には、出火箇所はすでに日陰になっていたことから、 原因の特定が困難なものであった。
  しかし、調査担当者の原因究明にかける熱意により、 資機材等の少ない限られた環境のなかで実験を行い、収れん発生か ら1時間30分後に発火することが判明したものである。