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5 避難に関する基礎知識

2.的確な避難のために考慮すべき事項

自動車と避難行動

 洪水時の避難は、徒歩を原則とし、車の利用は控えるべきとされている。昭和57年の長崎水害では、車を利用した避難が人的被害の拡大を招いたことや、放置車の流出が流木などとともにダム化して被害を大きくしたこと、救急救援活動の妨げになったことなどが報告されるなど、洪水時の交通管理に多くの問題点を投げかけた *39)。
 平成10年8月末北関東・南東北豪雨災害において、大規模な住民避難が行われた郡山市においても、徒歩による避難が原則とされていた。しかし、郡山市においては図2.5.20に示すように、二度にわたって発令された避難勧告・指示において、住民の大半が車を利用して避難を行っており、結果として郡山市当局の徒歩を原則とした避難計画は住民に受け入れられなかった。第一回目の避難勧告・指示発令時には、徒歩による避難が11%となっており、それ以外のほぼすべてが何らかの形で車利用の避難を行った。しかし、市内各所では、道路の冠水箇所を始点とした激しい渋滞が発生し、自宅から避難所までのわずかな距離(郡山市では、自宅から避難所までの距離を最大2Kmとして計画されていた)に、5〜6時間も要した事例が見られるほどであった。この渋滞の最中に万一破堤という事態を迎えていたら、その被害は極めて大きなものとなったであろう。一方、第二回目の避難勧告・指示発令時には、徒歩による避難が6%に減少し、避難率が大きいことも相まって、車利用の避難はさらに増加した。しかし、この二回目の住民避難においては、ほとんど渋滞は発生しなかった。住民へのヒヤリング調査によれば、その主たる理由は、第一回目の避難において、住民は道路の冠水箇所を把握しており、そこを外した避難経路を選択したからである。このような事実は、洪水時の浸水箇所を交通情報として提供すれば、交通渋滞の緩和に大きな効果を持つ可能性を示唆するものである。
 日常生活における車依存の傾向は特に地方都市において顕著であり、避難勧告発令時においては、足元が悪く、強い雨のなか傘をさし、非常持ち出し品を抱えての徒歩による避難は、住民にすれば余りに非現実的な要求と受け取られており、それが車利用の避難の基本的背景となっている。さらには、車による避難は、人の避難であると同時に、家財としての車の保全行動であることも見逃せない要因である。
 避難勧告・指示の発令時に、住民の多くは浸水に備えた被害軽減行動を取ることが知られており、その中でもまず最初に、車を高所に移動する行動が多く見られる。また、このように高所に移動し駐車された車が、緊急車両の走行障害になったり、渋滞を助長する要因になったりする問題も洪水時の交通管理としては重要な問題になることも指摘しなければならない。
 洪水時の住民避難は、今後においても車が多用されるものと思われ、それを前提にした避難計画の策定や交通管理のあり方を検討する必要がある。
図2.5.20 平成10年8月末東日本豪雨災害における郡山市民の避難手段

*40 群馬大学工学部建設工学科片田研究室編;「平成10年8月末集中豪雨災害における郡山市民の対応行動に関する調査報告書」,1999

*39 高橋和雄,高橋裕:「クルマ社会と水害一長崎豪雨災害は訴える―」,(財)九州大学出版会,1987